第4話 あさ

愛のあるセックスは要らない。

そう聞いたから、ずっとずっと、ただその行為だけしかしてこなかったんだよ。

君の名前も呼ばずに、自分からは唇も求めずに。

牽制の言葉だってことは、本当は初めて会った日からわかっていた。


でも君を一番近くに感じられる瞬間と引き換えなら、それでもいいって思ったの。



背中に腕を回してみたら、見た目以上にこの人の身体は華奢で、折れてしまいそうだった。その皮膚が温かな汗でじっとり濡れていて、私は自分が一切動いていないことに気づいて、少し申し訳なくなる。

気持ちいいって唸るように呟く君の声に嘘はないと信じて、背中の汗をそっと指先に取って、舐めた。

しょっぱくて、なぜかとても安心した。



もう昼過ぎで、カーテンのない窓から入る日の光はきっと朝焼けのような儚さは持ち合わせていないのに、不思議と淡くて、朝日のようだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る