第166話:雪王熊
Bランク最難関、白嵐ダンジョン。
ダンジョン内の要所要所に大吹雪が吹き荒れ、危険な毒持ち魔物や白に溶け込む魔物が跋扈している。
白嵐の道中で採取できる魔物の毒袋や毛皮には高値が付くため、わざわざ最後のボス──雪王熊に挑む者は少ない。ほぼ皆無だと言ってもいいだろう。
そのため雪王熊を一体狩れば、一件家が建つほどの富を築けるのだとか。
本日、そんな雪の王にちょっかいを出す者達がいた。
「グオォォォォォォォ!!!!」
ホワイトアウトの中、強靭な爪がアリスを襲う。
「ぐっ……きゃあッ‼」
一瞬剣で受け止めたと思ったものの、アリスは十メートル以上吹き飛ばされ、雪の上を転がった。
(おそらく王熊はまだ本気の“ほ”の字も出していない、小手調べ程度。それなのに容易く飛ばされるなんて、情けない。ああ、腕が痺れる……情けないったら情けない)
アリスは普段周囲が別格のため勘違いされがちだが、彼女自身の実力は、対人戦ではCランク、魔物相手ではDランクといったところ。
正直目の前の巨大白熊はまだ早すぎる相手だろう。
「しばらく私が受け持ちます‼」
スティングレイが前に出た。
「私達も加勢しますよ~」
「ようやく儂の出番かのぅ」
アクセルに跨る二人も参戦。
雪王熊も馬鹿ではない。
この女騎士があの小娘よりも一味違うことくらいわかる。
……ここからが本気だ。
「ガァァァァァァァァ!!!!」
スティングレイへ突進したかと思えば急ブレーキをかけ、再び剛腕を振るった。
先ほどとは違い、その爪には氷が纏ってあった。
一応リュウも倶利伽羅に手を掛けた。
(あれはマズいな……いや、だがスティングレイなら……)
「奇遇ですね。私も纏うんですよ、風を‼」
氷の爪は風の剣に弾かれた。
「!?」
己の爪よりもずっと細いレイピアに攻撃を弾かれたことに驚愕し、またそれは王熊の矜持を揺さぶった。
王熊とスティングレイの激しい戦闘が始まった。
やっと立ち上がったアリスは無意識に呟く。
「す、すごい……」
(あの雪王熊と互角に渡り合っている。普段はBランクとされている王熊だけど、環境も考慮すれば、その危険度はAランク。それと打ち合うだなんて。それにあの戦い方は……)
「気づいたか、アリス」
そこへリュウが現れ、足元がふらつくアリスの腕を支えた。
「は、はい。スティングレイさんは纏いを常時展開せず、爪とレイピアが当たる瞬間にだけ発動しています」
「その通り。メリットはわかるか?」
「危険を冒している分、長く戦える……?」
「正解だ」
スティングレイが纏いを習得した時期に遡る。
「リュウ様。私は纏いができるようになり、瞬間最大風力は格段に上がったのですが、いかんせん持続力がなく、結局は切り札的な役割に落ち着いてしまいそうです。以前リュウ様から聞いたAランク冒険者とはまだほど遠く……」
「正直、スティングレイの魔力は普通よりも少し多い程度。あん時のAランク冒険者は少なくともスティングレイの三倍の魔力量があった。……じゃあ、攻撃と防御の瞬間だけ発動するってのはどうだ?」
「攻撃と防御の瞬間だけ……」
───その結果、今に至る。
「グオォォォ!!!」
「はぁぁぁぁ!!!」
(これが……Aランクの世界……!)
スティングレイの口角はいつの間にか上がっていた。
「そっちばかり気にしていたら後ろがガラ空きですよ、王熊さん!」
レナは火の上級魔法を放つが、厚い毛皮を少し焦がす程度に終わった。
(雪や氷の弱点は火。だけどさすがにカバーしてるかぁ)
雪王熊は気に留めすらしない。己の魔法に対する防御力を信じているのだ。
「じゃあ次はこっち!」
アリスは雷属性の中級魔法、雷矢を撃つ。
「ガァ!?」
雷は毛皮を貫通し、今度は体内に直接ダメージを与えた。
これにはリュウもニッコリだ。
(素晴らしい雷魔法だ。あとで目一杯褒めてやろう。やっぱ魔法は戦闘で使ってなんぼだよな)
座学として学ぶのもいいが、魔法は戦闘でこそ本領を発揮するもの。
雪王熊が、まずは小賢しい魔法使いを排除しようとくるりと後ろを向いた時。
「残念じゃったのぅ‼」
エステルがいくつかの小さな薬瓶を投げ、顔面に直撃させた。
「グ、グォォォ」
すると王熊の視覚と嗅覚が塞がれ、動きが見違えて鈍った。苦しげな表情から察するに、幾ばくかのダメージも与えたようだ。
「エステルさん、一体何が相手に効いたんです?」
「わからぬ。熊に効きそうな毒薬を全て投げたゆえ、どれが効果を発揮したのか不明じゃ」
「えぇ……」
一般的にBランク上位の魔物は、そういった毒に対する耐性が強い。
……だが今回は調合者の力量がそれを上回ったらしい。
「なぁ龍真。エステルのあれズルくないか」
「うむ。Bランクすら抗えないとなれば、もうどうしようもないでござるよ」
「俺達は世に出してはいけないものを出してしまったのかもしれんな」
此度、エステルはダンジョン攻略へ向けた攻撃用の薬開発にルンルンで取り組んでいたのだ。
最上級薬師の熱量を毒薬に注いだ場合、とてつもない効果を発揮することが判明した。
「ではそろそろ終わりにするでござる」
龍真は王熊の頭上に移動し、下駄での踵落としをキメた。
「グ、ググ……」
「いやお前剣士だろ」
「お主だけには言われたくないわ」
龍真のその言葉に、皆静かに頷いた。
あとはもう決まっている。
スティングレイが風を纏い、王熊の両膝裏に二突き放ち、ついに膝をつかせた。
「ほれ、アリス」
「君の出番でござるよ」
「は、はい!」
二柱の龍に背を押された騎士少女は雪上を走り、跳んだ。
───そして。
「はぁぁぁぁ!!!」
雪王熊の無防備な首に一閃。
ザシュッ‼
見事に息の根を止め、ボスはドシンと後ろに倒れた。
雪が赤く染まる。
「よし。白嵐ダンジョン攻略完了だ」
リュウは勝鬨を上げ、一行は大いに喜んだ。
(いやぁマジで楽しいな、ダンジョンは。Bランクでこれなら、AやSランクはヤバいだろうな)
特にSランクダンジョンは今の雪王熊が雑魚に感じるほどの難易度だ。
戦闘においては、さすがのリュウも重い腰を上げざるを得ないだろう。
もちろん戦闘以外のギミックにも乞うご期待である。
戦いの余韻に浸る仲間達を眺めていると、エステルがトコトコとやってきた。
「なぁリュウよ」
「ん、どうした?」
「確かあの宿屋には、ダンジョンで獲れた食材を料理人に渡せば調理してくれるサービスがあったはずじゃ。また寒い地域に生息する魔物は臭みが少なく
「「「「「…………」」」」」ゴクリ
その後、皆急いで雪王熊を解体し、入り口へ引き返すことに。
帰る方法は一択だ。
「ホムラってこんなに大きかったんですね~!」
「う、うぅ……怖い、空怖い……」
元の大きさに戻ったホムラの背に乗り、雪雲の上を飛ぶ。
「ギャウ」
(さっきの戦いでは空気だったので、これくらいはお任せを!)
アリスは今更気が付いた。
「というか火の属性竜って、Sランクなんじゃ……」
(さっきのボスがBランクだったから、その二つ上って……。そういえばアクセルもAランクなんだっけ。もう意味わかんない)
そして考えるのをやめた。
「話によれば勇者達はAランクの目ぼしいダンジョンを攻略し終え、そろそろSランクダンジョンに突入するらしいのじゃ。儂らとタイミングが重なりそうじゃのぅ」
「どうせなら先に進んでもらい、ダンジョン内の情報をカツアゲしよう」
「かっかっか。お主も悪よのぅ~」
「その前に明日の決闘ですね、お兄様」
「だな。まぁほどほどに頑張ろうと思う」
これから先がさらに楽しみである。
◇◇◇
その頃、ちょうどリュウ達の真下にある吹雪ゾーンでは。
前も後ろも分からなくなった
「さ、寒い……」
「運よく毒蛇とは出くわさなかったものの、これじゃあ全員凍死しちまうよ……」
リュウ達が雪蛇を乱獲したため、彼等は間接的に救われる形となっていたのだ。
だがそれだけで生き残れるほど、この白嵐ダンジョンは甘くない。
(本当にマズイ。このままでは……!)
───と、そこへ。
「探したぞ、お前等」
「せ、先輩方!!!」
金蛇幹部のご登場だ。
新人全員の顔が明るくなった。
「まさかこんな俺達を助けに来てくださるとは!」
……しかし。
新人達が立ち上がった瞬間、全員の胸に短剣が突き刺さった。
「え……な、なんで……」
「お前等の計画性のない働きが
幹部とその部下は、新人達の死体からクランタグと装備を回収し、その場を去った。
死体は時間が経てばダンジョンに吸収されるので特に問題はない。
「さすがに可愛い新人を殺すってのは胸が痛みますね」
「ああ。だが我々のクランは今までこうやって繁栄してきたんだ。今更引き返せん」
幹部達はダンジョンを脱出し、報告すべくクランハウスへと戻った。
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