第164話:ダンジョン初心者たち

紆余曲折ありながらも、一行は白嵐ダンジョンに到着。

入り口は森の中にあるにもかかわらず、複数の冒険者パーティで賑わっていた。

またそこには冒険者だけでなく警備騎士も常駐している。


「警備の騎士もいるのか。大変だな」

「Bランクともなれば、れっきとした国の財産ですからね。確か帝国の高ランクダンジョンも帝国騎士が警備してましたよ」

「ほぇ~。まぁダンジョンは氾濫の危険性もあるからのぅ。特に高ランクのダンジョンには必須じゃな」

「はい。それとたまにダンジョンをねぐらにする山賊なんかもいるそうで、そういった意味でも警備は必須かと」


ちなみに入り口は大木のウロである。

洞窟のような穴があり、昼にもかかわらず、一寸先は闇だ。

一歩踏み込めばダンジョンという名の異空間に転移するのだろう。


「お兄様!とりあえず着替えましょう!私早く着たいです、あのモフモフ防寒具!」

「そうだな。少し離れた場所にテントを張る。女子組はそこで着替えてくれ」

実際、少し離れれば人目を遮断できるが、念のためリュウは大きめのテントを張り、レナ・アリス・スティングレイ・エステルの四名は中に入って行った。


「拙者達はどうする?」

「適当にそこら辺で着替えればいいだろ」

「しかし先ほどの広場での試着と違い、今回は下着以外脱ぐのだぞ?」

「龍真は下着なのか。てっきりふんどしかと思ってた」

「ふんどしか……拙者にもそんな時期があったでござるなぁ……」

龍真はブーブー言いながらもパンツ一丁になり、テキパキと防寒具に着替える。


「そういえばスティングレイはどうするんだろうな。甲冑の上から防寒具は着られないと思うんだが」

「それは大丈夫でござろう。彼女ももう“アレ”が使えるのだ。甲冑よりもよほど防御力が高い」

「アレ……?ああ、“纏い”の事か」

「うむ」


リュウが日ノ丸やガルシア王国へ赴いていた間、スティングレイは何もしていなかったわけではない。彼女は死ぬ気で風魔法の纏いの訓練をしていたのだ。その結果、想定よりも大分早く纏いを習得することができた。


今一度説明すると、纏いとは以前マンテスター戦において、Aランク冒険者が使用していた風魔法で創造する鎧の事である。突き詰めればリュウの武甕槌命タケミカヅチや龍真の伊邪那岐イザナギのように、大地や天候に影響を及ぼすほどの練度となる。突き詰められればの話だが……。


着替え後、リュウと龍真はモフモフガールズと共に再び入り口へと向かった。


冒険者の一人がアクセルの存在に気が付いた。

「ぷっ……馬て。あの積雪の中を進めるわけないだろうに」

「いや、アレは軍馬ではなく高ランクの魔物だ。一般の常識にはとらわれないかもしれんぞ」

「じゃああの爬虫類はどう説明するんだ?」

その冒険者はエステルの頭に乗っているホムラを指さした。

「た、体色的に火属性の魔物なのだろう……」

「あの大きさなら火を吹いても雪玉すら解かせない。こんな変温動物の墓場によくトカゲなんて連れてきたよな。笑えるわ」

「彼等は若い。まだ経験が浅いんだろう。早めに諦めることを願おう」

「俺は願わねえぜ。ダンジョンを舐める馬鹿は早死にする運命なんだよ」

「おい!彼等の大半は未成年だぞ!」


ホムラは溜息を吐いた。

「ギャウ……」

(なんかいろいろ言われてますねぇ)

「あれでも一応Bランク以上のはずなんだがなぁ。アードレンの白狼やグレイスの銀翼の誓約と同ランクなのに……もう少し観察眼を鍛えて欲しいもんだな」

「ま、どうせ儂らの方がペースは速い。どや顔で横を通過してやればよいわ」

列に並び、警備にクランタグを提示した後、一行は白嵐ダンジョンに入った。


「ぬぉぉぉ……真っ白じゃぁぁぁ」

「あんな普通の森から、一瞬で美しい白銀の世界に……」

そこには一面雪に覆われた世界があった。

雪以外に見えるのはチラホラと生える針葉樹と、遠くに聳える雪山だ。

情報屋によれば、あの頂上にお目当てのボス──雪大熊がいる。


レナとアリス、エステルは雪合戦をし始め、リュウ達は保護者のように見守っていた。

数分後、雪塗れのエステルが帰還。

「やはり儂が最強、か」

「一番被弾が多いように見えたが……」

「やかましい!素人は黙っとれ!」


「あ~、楽しかったね!」

「雪はいいね。最高。今夜は龍真様と一緒にカマクラを作らなきゃ」

「私もお兄様と作ろ~♪」


楽しんだ後はダンジョン攻略だ。

予定通り、前衛三枚、中盤二枚、後衛一枚のフォーメーションになり、進む。

だが積雪は膝よりも高いため、普段より移動効率は落ちる。

疲れ知らずの彼等にはさほど問題ないが、今回は時間勝負だ。


「最低でも往復一週間はかかるとのことだが、俺達は三日後には首都に帰っていなければならない。運の良いことに雪山という道しるべがある。少し急ごうか。ホムラ、作戦通りに頼む」

「ギャウ」

(わかりました!久々の出番です!)


空を飛んでいるホムラは口から火を……いや猛火を放った。

進行方向の雪がみるみる蒸発し、地面が数百年?数千年?ぶりに現れた。

「「「「「おぉ~」」」」」

「ギャウ!」

(吹けた!私、まだ火吹けましたよ!リュウ様!)

「よし、いいぞ。その調子だ」

「ギャウ」

(おりゃぁぁぁぁ!!!)


縮小化しようと魔力量は変わらない。

最悪魔力が切れてもエステルに魔力回復薬を貰えば良い。

一行はぐんぐんと行軍した。


ここで初のモンスターが出現……というよりさらけ出された。

「……シャ?」


その情けない姿は馬上のエステルとレナからハッキリと見える。

「あの~、エステルさん。アレって……」

「噂のDランクの雪蛇じゃな。近くを通る冒険者を雪の中から襲う猛毒の蛇じゃ。積雪地帯ではCランクよりも恐れられている魔物。もちろんここでも要注意とされているが……」

「雪が無ければただの毒蛇ですもんねぇ……」


「シャ……シャァァァ!!!」

やけくそになった雪蛇はアリスに飛びかかったが、軽く躱され、一刀両断された。

胴体と離れ離れになった頭は、最後に目の前の巨大なAランク黒馬を視界に捉え、そのまま静かに両目を閉じた。

「どうかしたか、アクセル」

「ブルルル」

「そうか、目が合ったのか、雪蛇と」


「リュウ先生、これ回収しますか?」

「ああ、全回収だ。回収した分はちゃんと冒険者ポイントとして、スティングレイとアリスに付与されるからな」

「わかりました」

アイテムバッグ内は時間が止まっている。

そのためそのまま放り込んでも問題ない。

後で解体するなり、ギルドに売るなりすればいいのだ。


「一体出てきたということは、ここからは雪蛇の生息地だ。皆気を付けろよ。特に前線の女子二名」

「「は~い」」

龍真はさておき、前線の二人は注意だ。

「もし噛まれたら、儂がたっぷりと新作の解毒薬を飲ませてやるからのぅ~かっかっか~」

「エステルの治験ボランティアになりたくなければ、しっかり対処するんだぞ」

「「は、はい……」」


ちなみにエステルとレナはアクセルに乗っているので安心だ。

アクセルについては、そもそも毛皮が雪蛇ごときの牙を通さない。


まだまだ魔物は弱いが、ダンジョンは先に進むほど強力な魔物が出現するので、これからがお楽しみだ。


ホムラに雪を溶かされ、地面にさらけ出された哀れな蛇を狩りつつ、一行は歩みを進めた。


その頃、入り口で陰口を叩いてきた冒険者達はというと……。

パーティ六人で隊列を組み、Bランクらしい速度で進んでいた。

先頭の二人が駄弁っている。

この二名が陰口を叩いた張本人たちだ。

「なんか今日は普段よりも雪蛇が多くねえか?」

「同感だ。これからもっと強い魔物が出てくるというのに、これじゃ先が思いやられる」

「吹雪ゾーンに入ったら最悪だな、こりゃ」

「ああ。あらかじめ解毒薬を腰に下げておいた方がいいかもしれん」


「はぁはぁ……そろそろ休憩しようぜ」

「そうだな。辺りの安全を確認した後、木の下で休もう」

Bランク一行は一度腰を下ろした。

「雪ダンジョンは足がやられるんだよなぁ」

「知り合いの冒険者は凍傷で足の指を切断したと聞いた」

「うっ……今そんな話すんなよ。……そういえばあのガキ共どうなったかな」

「知らないが、おそらくもう諦めてるだろうな」

「毒で死んだんじゃねぇの?それとも凍傷か?……美人が多かったのに残念だぜ」

「だから不謹慎だ、やめろ。相手はまだ子供だぞ」

「はっ!そんなん知るか!」

と話していると……。


「おい、後ろから何か来るぞ……!」

冒険者は立ち上がった。

だがそれは魔物ではなく、人であった。

その姿は熱波と共に視界に入った。


「よ~し、ホムラ。どんどん溶かしていけ」

「ギャウ!」

(これでも私はSランクの竜なんです!大食い小デブペット竜じゃないんですから!おりゃぁぁぁぁ!)

それは溶けた後の水まで蒸発し、カラカラになった地面を悠々と進むリュウ達だ。


「「「「「「⁉」」」」」」


「おい、アレって……」

「入り口にいたあの子達だ。あとお前が爬虫類だと馬鹿にしてたのは火竜の赤子だったらしい……」


「ギャウ」

(リュウ様、前方に大きな針葉樹があります!)

「迂回は面倒だ。燃やせるか?」

「ギャウ!」

(もちろんです!)


ゴォォォと木が一瞬にして灰燼に帰し、リュウ達は何事もなかったかのように前進した。

「「「「「「えぇ……」」」」」」

それはBランク冒険者達が溜息を漏らすほどの業火ブレスであった。

そして、その姿はいつの間にかBランクの視界に入らないほど遠くへ消えていた。


「馬鹿は俺達だったのか……」

「そのようだな。我々もそろそろ行こう」

「どうせなら、あのガキどもが通った地面を歩いて行くか」

「それがいい」


しかし……。

「熱せられた地面に少し雪が積もったせいか、グチャグチャじゃねえか!」

「しょうがない。今まで通り雪の上を歩いて行こう……」

もうその道は使い物にならなかったようだ。


──リュウ達のダンジョン探索は続く。


◇◇◇


その頃、とある悪徳クランのクランハウスでは。

フードを被った怪しげな男と、眼鏡を掛けた胡散臭い成金男が会話していた。

後者がクランマスターであろう。


「ここは金を払えば何でもすると聞いた」

「うちは何でもしますよ。窃盗、誘拐、傭兵業……そして暗殺まで。もちろん、相応の金を払ってくれればの話ですがね。情報は絶対に洩らさないですし、メンバーもエリートばかりですので、そこらの裏組織に頼むくらいなら、うちに頼んだ方が得ですよ」

「……情報を洩らさないという証拠は?」

「うちはあくまで冒険者クランですから。裏稼業の情報が洩れた時点でメンバー諸共打ち首なので」

「なるほど。それは洩らせないな」


フードの男は問う。

「普段は一体何をしているんだ?」

「依頼を出してくれるならお話しますよ」

「ふむ……」

男は数分間悩み、

「わかった。貴殿に依頼しよう」

「ありがとうございます!ところで、依頼内容は何です?宝の窃盗ですか?貴族の誘拐ですか?」

「───勇者の暗殺。詳しくはその手伝いだ」

「!?!?!?」

「受けてくれるんだよな?」

「は、はい。もちろん!」

(まさか勇者の暗殺だとは……。では目の前にいるのは皇国か公国の者ですかね。まぁいいでしょう。大金をふんだくってやりましょう)


「で、普段は何をしているんだ?」

「え?あ、ああ……普段はダンジョンアタックに見せかけた初心者狩りですね。これがまた稼げるんですよ~」

「……とことんクズだな」

「はっはっは!よく言われます」

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