第32話 お散歩
私は、魔力が減りすぎて目が回りそうになっていたので、その日は早めに休みました。
翌日、目を覚ますと既にお日様が高くなっていました。
どうやら、私の幼児の体は、思っていたより疲れていたようです。
でもたっぷり休んだので、今は元気も魔力も満タンです。
食堂に用意してあった、食べ物を勝手に食べて玄関のロビーに出ると侍女さんと、子供達がいます。
驚いた事にイサちゃんはあの紫の鎧を着けています。よっぽど気に入ってくれたのでしょうか?
鎧には、弱く魔力を入れてゴーレム化して温度調節の魔法を使えるようにしました。
今は暑いので、これで熱中症対策は完璧なはずです。
本当は重さも無くしてあげたいのですが、一割減ぐらいしか出来ていないはずです。しばらくはこれで我慢して下さい。
私の魔力総量が増えたら、完全なゴーレム化をしますから。
「あの、少し時間があるのなら街を見てみたいのですが……」
私は、三人の侍女さんに聞きました。
「お疲れではありませんか?」
「はい。たっぷり休んで元気満タンです」
「そうですか。わかりました。楽しんできて下さい」
案外すんなり受け入れてくれました。
危険は無いと思ってくれているからでしょうか。
私と、四人の子供達でフラフラ、アーサー邸を出ました。
第二の防壁の門につくと、守備隊の人には顔を憶えてもらっているのか。笑顔で送り出してもらいました。顔パスですね。隊長のメジカさんがいたので会釈をしました。
防壁の正面には滅茶苦茶広い石畳だけの広場があります。
きっと有事の時には観兵式を行なうために使うのでしょう。
数万人規模で整列できそうです。
「レイカ姉、どこへいくのですか」
広場の横を南へ歩いていると、ヒジリちゃんが聞いてきます。
「うふふ、これだけの大きな街です。きっとあの商店があるはずです」
「あの商店??」
イサちゃんが不思議そうに聞いてきます。
といっても、イサちゃんは顔も鎧に覆われて、目の位置にスリットがあるだけで顔は見えませんけどね。
「うふふ、ゾング商会のお店ですね」
チマちゃんが、すかさず言いました。
さすが、チマちゃんは頭が良いですね。
私は、石畳の広場から南側の町並みに入って探そうとしましたが、探す必要はありませんでした。目の前に巨大な商館が出て来ました。
「はぁぁーーっ!! 大きいですね」
「この建物が全部ゾング商会なのでしょうか?」
シノブちゃんが言いました。
中央にある玄関に大きくゾング商会と書いてあります。
その商会の建物が次の辻まで、切れ目無く続いています。
商会の前の道は、平日の昼間なのにとても人通りが多くてにぎやかです。
御堂筋くらいの人通りがあります。
「どうやら、ここで間違いありませんね。ちょっと入ってみます。イサちゃんは外で待っていて下さい」
「はい、わかりました」
イサちゃんは大剣まで装備しています。
強盗に間違えられるといけませんので、そとでお留守番をお願いしました。
「ごめんくださーーい」
私は声をかけながら玄関を入りました。
服装は……そう言えば前回と同じ粗末な服です。
まあ、世界一の大商会のオーナーがいるとは思えませんが、様子見です。
「なにがごめんくださいだ!! むっ!! きさまはこないだの汚え餓鬼か!! ここは、てめーらのような汚え餓鬼の来る所じゃねえーー!! 出て行けーー!!」
うふふ、くじ運が良いのか悪いのか、ちょびひげの目つきの悪いインテリおじさんが言いました。ゾングは、今日この店にいたようです。
私を蹴ろうと、ゾングが眉毛をつり上げて近づいて来ます。
馬鹿ですねえ。
今日の私は体調が万全です。
それに子供達も、重い樽を背負っていません。
「なにをする!!!!」
チマちゃんとシノちゃん、ヒジリちゃんの三人が私をかばって、前に出て蹴ろうとしたゾングを、玄関の方へ投げ飛ばしました。
「ぐわああああぁぁぁぁーーーーーーーっ!!」
ゾングは大きな音と共に、ガラスを突き破って外に飛び出しました。扉が大破しています。
ゾングは玄関の段差を転がりながら落ちていき、通りの中央まで転がってやっと止まりました。
割れたガラスが当たったのか、そこら中に血がにじんでいます。
顔にも何カ所か血が垂れています。
少し目を回しているようですが、我に返るとドンドン顔が真っ赤になっていきます。
目が充血して、形相が鬼の様になっています。激怒しているようです。
「ちょっとー、みんなー、やりすぎですよーー!!」
私は吹き出すのを我慢しながら言いました。
「あーっ、全然力を入れたつもりはありませんでしたが、羽毛の様にかるかったものですから」
三人の子供達が口をそろえて言いました。
「ききき、きさん、貴様達!! よよ良くもーー!! こここ、この俺様に、やややや、やってくれたなあ。俺は世界一の大商人ゾングだぞーー!! わかっているのかーー!!!!」
ゾングは怒りすぎてうまく、ろれつが回らないようです。
「あーっ、はいはい。そんなに大きな声で言わなくても分かっていますよ。ゾンゲさんですね」
「きさまーー!! 俺はゾングだーー!!!!」
「ぷっくくく……」
三人の子供達が面白かったのか、うけています
だめですよ。ここで笑ったら余計怒らせますよ。
「くそう! この田舎の小汚い貧乏人共がぁーー!! 俺の恐ろしさがわからないのかー!! いいだろう思い知らせてやる!! 警備員、出てこーい!! 狼藉者だーー!! 取り押さえろーー!!」
お店の中から、大勢の警備員が長い棒をもって集って来ました。
「レイカ姉……どうしよう……」
三人の子供達は人相の悪い大人に囲まれて、またもや弱気になっています。
「かまいません、先に手を出したのはゾンゲです。いわれの無い暴力から身を護るのは当然の権利です。あなた達はこの人達には絶対負けません! 私が保証します。安心して襲ってくる者をこらしめて下さい」
「なんだー! このチビ、ばあさんみたいな話し方だなあ!! それに俺はゾングだ。まちがえるな、このおばさん幼女!! おい、お前達、何をしている! やってしまえーー!!」
ゾングが叫ぶと警備員達が襲いかかって来ました。
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