第30話 廃屋

 ここには、私達九人を運んで来た鉄人が九体有ります。

 この九体に、私とイオちゃんと侍女の三人をガードしてもらって。


「イサちゃん、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃん! 賊はあなた達が、始末して下さい」


 私は四人にむかって言いました。


「えーーーーっ!!!!」


 四人が涙目になって首を振っています。

 どうやら賊の顔が恐すぎてビビッているみたいです。


「ほら、あなた達がずっと戦ってきた木人を思い出してください。この人達は木人より弱いですから。ほら! 木人に見えてきたでしょ。ちゃんと手加減するのですよ!!」


 イサちゃん、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃんの目に自信が戻ってきたようです。


「はーーーーっ!!!! 鉄人じゃ無くてこいつらが相手かよっ!! ほんじゃあ勝てる!! 野郎共、ぶっころせーー!!!!」


 無知というのは恐ろしいですね。

 イサちゃん、チマちゃん、シノちゃん、ヒジリちゃんは、可愛い顔をしていますが、あなた達が恐れる鉄人よりはるかに強いのですよ。


「ごええーーーーっ」

「ぐええぇぇぇーーーっ」

「げぼおぉぉーーーっ」

「がはっ!! ごおおぉぉぉぉーーーーっ」


 最初の四人は、力加減がわからなかったためか。

 腹を叩かれたようですが、口からレーザーのように胃の中の物が前へ真っ直ぐ飛び出しました。

 二人目、三人目と進むうちに、だんだん胃の中の物が、口の近くで曲がるようになりました。


「ひぃぃぃぃーーーーーー!!!!!!」


 悲鳴を上げたのは、イオちゃんと侍女の三人です。

 賊の、胃の中のキラキラが足元まで飛んで来てよける度に、悲鳴を上げているのです。


「ようやく、コツがつかめました!!!!」


 四人の声がそろいました。

 そう言ったときには、もう賊が一人も立っていません。

 全員白目をむいて失神しています。

 賊達は、キラキラの上にたおれて、キラキラまみれになっています。


「もう、この家には住めませんね。ふふっ」


「す、すごい!!!! 強すぎます!!!!」


 イオちゃん達が、感動しているようです。

 私達は、廃屋から外に出ました。

 同時に鉄人達には森の奥に隠れてもらいました。


「姫ーー!!!!」


 廃家から出ると、イオちゃんを呼ぶ声がしました。


「ここです!!」


「おおおおーーーーー!!!!! ご無事でしたか!!!! んっ?? 姫からなにやら酸っぱい臭いがします」


 イオちゃんは、すかさず自分の体の臭いをフンフン嗅いでいます。

 来たのは、私達を追い返したぎょろ目の隊長とその部下の衛兵達です。

 五十人近くは、いるみたいです。


「中に賊がいます。捕まえて下さい」


 私が言うと、あからさまに嫌な顔になり。


「ちっ、さっき追い返した、汚えくそ餓鬼か! 気安く話しかけるんじゃねえ!!」


 そう言って私に唾を吐きかけました。

 私は素速く身をかわすと、後ろのイオちゃんの生足にかかりました。

 イオちゃんは、まだ衣服は少ししか直せていません。まだ足はほとんど出ています。その足にかかりました。


「き、きたな……ま、まさか、あなたが…………あなたがレイカ姉様を追い返したのですか! 中の賊を逮捕して連行したら、厳しいさたがくだるでしょう。レイカ姉様、いきましょう」


 そう言うと、泣きそうな顔をして私の手を取り街にむかって歩きだしました。


「はわわわ……」


 衛兵の隊長が慌てています。お姫様の生足に唾をかけちゃあねえ。おしまいです。


「れ、レイカ姉様ーー!!!! 申し訳ありません!! ふぐぅ……!!」


 しばらくは何事も無いように歩いていましたが、衛兵達が建物に入り姿がみえなくなると、気が抜けたのかしゃがみ込んで泣きだしてしまいました。


「いいのよ。それより、こちらこそすみません。危うくイオちゃんにきずを付けるところでした。許して下さい。皆もごめんなさいね」


 私はしゃがんでいる、イオちゃんの頭を数回撫でました。


「レイカ姉様……」


 侍女さん達も震えながら、私に抱きついて来ました。

 きっと、恐かったのでしょうね。


「うわあああああああーーーーーーーー!!!!!!」


 数人の衛兵が走って来ました。

 全員顔面蒼白です。


「ど、ど、どうしたのですか?」


「たたたたた、たた、隊長が殺されたーーーー!!!!」


 私達があわてて廃屋に戻ると、衛兵が四十人以上殺されています。


「えーーっ!!!!」


 私達全員で驚きました。


「あんな弱い人達が弱っていたはずです。そんな弱い人達にやられるなんて……。人数も十人以上多かったはずなのに……殺されてしまうなんて、お城の衛兵さんってどんだけ弱いのよ」


「すす、すみません」


 イオちゃんが、恥ずかしそうに真っ赤になって謝ります。


「あ、あの、おお、恐れながら、衛兵が弱いのではなくて、あのジャング人の賊が強いのです。恐らくサムライだと思います」


 アメリーちゃんが怯えながら言いました。

 アメリーちゃんは、死体におびえているのかしら? まさか……私じゃないわよねー。


「そうなのですか。サムライかー。じゃあしょうがないですね」


 私は廃屋を出てサムライが近くにいないか、あたりを見まわしました。

 もう、どうやら遠くまで行ってしまったようです。

 この世界ではサムライは桁違いに強いようです。

 田舎者には勉強になりました。

 私の認識不足の為に多くの衛兵さんには気の毒なことをしました。

 私は、廃屋にむかって手を合せました。

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