第3話 レンカの大反乱

 街は港に沿って、長く続いていますが奥行きは余りありません。

 どの家も立派な西洋風の石造りで、奴隷貿易の利益が莫大な事を物語っています。

 船着き場から街の民家までは、広く間を取ってあります。

 ここで奴隷のセリをする為なのでしょうか、広くてスポーツ大会が開けそうなくらい場所が空いています。


 港には、私達の二艘の船の他に五艘の船が止まっています。

 五艘の船はこの船より大型で、より多くの奴隷が乗せられているようです。


 街中をくまなく調べていますが、奴隷に対する警戒は全然なされていません。

 きっと、これまでは反乱などあまり起っていなかったのでしょう。

 私は、街の家に明かりが灯り、煙が上がるのを見て事を起こしました。


「うおおおおおおおおおーーーーーーーー!!!!!」


 歓声が上がりました。


「うぎゃあぁぁぁーーーーー!!!!」


 続いて船に残っている、見張りの船員達の悲鳴が上がります。


「タイゼン!!」


 隣の男ばかりの船から声が聞こえました。

 き然としたよく通る声です。


「はっ!!」


「お前は、家臣をまとめよ! 俺は、この反乱の絵図を書いた奴を探す」


 どうやら、私を探しているようです。

 私は、今忙しいのですけどー……。

 でも、会っておいた方が後で楽になりそうです。

 私と同じ拘束具で拘束されていた子供達に、船倉でじっとしているように言って、会いたくありませんが会いに行きました。


「あの、探さなくても大丈夫です」


「うおっ、ゲンシン様! 飛んでいます」


 正確には、鉄製のゴーレムに抱かれて宙に浮いているという方が正しいです。


「ちびちゃん。いや、お嬢ちゃん。これはあんたがやったのか?」


 私を見つめて、ゲンシンと呼ばれた男の人は言いました。

 その姿は三十代後半、少しやつれていますが、たくましい男の人です。

 顔は髭が伸びていて良くわかりませんが、精悍で目の光が鋭くただ者ではありません。少しビビっています。


「恐らく、ゲンシンさんの想像するとおりだと思います」


 ゲンシンさんが聞いているのは、奴隷の拘束具が消えて無くなったのと、扉が無くなり外に出られるようになった事を言っていると思います。

 書いた絵図とは、私が考えた奴隷反乱計画の事を言っているのだと思います。


「ふふふ、やる事も、言い方も、どこかの国の軍師と話しているようだ。だが見た目はただの可愛い幼女だ。ははは、ゆかいだ」


「……」


 私は、返事をしないで黙ってゲンシンさんの顔を見つめます。

 そしたら、急に笑顔を引っ込めて真面目な顔になりました。


「頼みが二つあるのだが、いいか?」


 それは、幼児に対して言う言葉では無く、一人の人間として私を認めて話しかけたように見えました。


「言ってみてください。私で出来る事ならかなえます」


 私もはぐらかさず、真面目に向き合いました。


「ふふふ、一つは武器だ。用意出来るか?」


「はい。ここにある船は全部沈めますので、船の横の陸地に置きますね」


 私は、いまいましい奴隷船が許せません。

 貰う物を貰ったら、すべて沈めてしまおうと決めています。


 そして、武器はどうするのかというと、皆を拘束していた鋼鉄製の拘束具を、私は全てゴーレムにしています。

 七艘の奴隷達を拘束し、自由を奪っていたいまいましい全員の拘束具です。

 ゴーレムが全部で六十体位できています。

 このゴーレムのうち二十体を刀くらいの大きさに分裂させます。


 頭の中で、つまらぬ物を切ってしまったという方を思い出しながら、硬く何でも真っ二つに出来る刀を想像します。

 ゴーレムは、キンキンと高い音を出しながら刀に変化します。

 変化が終わると、魔力を抜きます。

 すると、なんだかよく切れそうな刀が出来ました。

 正確な奴隷の人数は分りませんので、四百振りほど作り陸地に置きました。


「あれでいいでしょうか。四百振りあります」


「おっ、おおお。かたじけない。ありがとう。ありがとう」


 最初に刀を見て、私に向き直り頭をペコペコ下げます。


「で、もう一つは?」


「その、なんだ、嬢ちゃんを抱っこしている。その鉄人を俺に二人ほど、くれないだろうか?」


「わかりました。ゲンシンさんの言う事だけを聞く鉄人です」


 私は、言い終わるとゲンシンさん専用に、二体の鉄製ゴーレムの形状を変化させました。

 体の輪郭を美しいプロポーションの女性の形にして二体、刀の横に行かせました。


「おおお、す、すごい」


「あの、私からも二つお願いがあります」


「おお、俺に出来る事なら何でも聞く。言ってくれ」


「一つは、住民の方を余り殺さないでください」


「うむ、わかった。部下に命じよう」


「もう一つは、この船の女性達を助けてください」


「もちろんだとも、もともと同胞の人間だ。頼まれなくてもやるつもりだった」


「ありがとうございます。では、もう一つ武器を出します」


 私は、奴隷達が全員下船した船の船底をゴーレムにして、船底から引き剥がし木の棒を作りました。

 そのとたん、船底に大きな穴の開いた奴隷船が大きなきしむ音を立てながら、ゆっくり沈んで行きます。

 作った木の棒を刀の横に次々並べ、魔力を抜きました。


「木の棒は三千本ほど用意出来ていると思います。これで奴隷全員に行き渡るのじゃ無いでしょうか」


「おお、すごい。何というすごい魔法なんだ!! 嬢ちゃん、一つ聞かせてくれ」


「はい」


「食事時にしたのも、嬢ちゃんの考えなのか?」


「はい、そうです。食事時にすれば、皆が油断しています。それに、襲われて逃げ出せば、食事が残されます。おなかを空かせた奴隷達がそれを食べれば一石二鳥です」


「ふふふ、それをお嬢ちゃんが一人で……」


「はい」


「お嬢ちゃん、名前を教えてくれ」


 一瞬どうしようかと思いましたが、どうせ奴隷の幼女の名前など覚えていられるわけがありませんよね。

 私は大きく息を吸い、名前を叫びました。


「レンカ!!」


 はーーっ、失敗しました。

 大事な所で盛大に噛んでしまいました。

 仕方がありません、中身は大人なのですが体は幼女、舌がまだうまく動かないのです。


「レンカちゃんか、よし憶えた! 俺はフトゲンシンだ! 嬢ちゃんありがとう!!」


 そう言うと刀の方へ走って行きました。


「野郎共ーー!! 武器を持てーー!!!! まずは民家を襲えーー!! 襲って飯を食うんだーー! 住民には手出しをするなー!! 逃がしてやれーー!! 命令を守らん奴は、わかっているな! やれーー!!」


「おおーーっ!!」


 ゲンシンさんの船には、もともとゲンシンさんの配下が乗っていたようです。

 指揮系統が明確で、武器を持ったらもう軍ですね。


「タイゼン!」


「はっ!!」


「あっちの船の奴には、棒を渡してやれ」


 配下には刀を持たせ、違う船の奴隷には棒を持たせるようです。


「はっ!!」


 ゲンシンさんの部下の一部が近くの民家に侵入します。


「きゃあーーー!!!!」


 大きな悲鳴が上がりました。


「命が惜しければ、家族そろって出て行けーー!!」


 どうやら、命令は守られているようです。


「うめーー!! 久しぶりのまともな飯だーー!!」


 食事にもありつけたようです。よかったー。

 こうして、エインカプの街で大きな奴隷の反乱が起りました。

 後にレンカの大反乱と言われる反乱です。よかったー噛んでおいて……。

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