第14話 小っ恥ずかしいからやめてよ
あるお昼休み、いつものように屋上に行くと
珍しく忍先輩しかいなかった
「麗奈先輩はいないんですね」
「うん、もうすぐある球技大会の準備だって」
風紀委員がする仕事なのか……?という疑問はさておいて
忙しそうなんだなぁ
「忍先輩も行かなくていいんですか?」
「言ったんだけど、1人で大丈夫しか言わないからねぇ」
確かにあの人なら1人で抱え込みそうだな
ご飯食べたら少し様子見てみようかな……
いやいや、昨日のことを覚えてないのか私
関わりすぎるとろくな事がない
「良かったら体育館行ってみてくれないかな。愛華ちゃんなら、もしかしたら言うこと聞いてくれるかも」
「え、いや、あの……」
「麗奈、すぐ1人で抱え込むから、ね?」
「……わかりました」
結局行くことになってしまった
押しに弱いの、どうにかしたいな
体育倉庫に入ると、バスケットボールの空気入れをしてる麗奈先輩がいた
……そういえば、球技大会はバスケなんだった
…………バスケか
「ん?神楽さん!?何故ここに!?」
「忍先輩から言われて……手伝いに来ました」
「忍のやつ……わざわざありがとう、私1人で大丈夫だから」
そうは言われても
麗奈先輩の傍には何十個も膨らませたであろうボールがある
これ一人でやるのは相当大変なはずだ
「後輩はパシるものですよ」
もう有無を言わさずもうひとつの空気入れを持ってきてボールの点検を始める
「あ、、ありがとう」と申し訳なさそうに作業を再開した
その後、暫くの間沈黙が続く
よく考えたら麗奈先輩と二人でいるのは初めてだな
私が無口であることは知ってるだろうし
特に何か話を振る必要も無いか……?
「そ、そういえば、神楽さんは中等部の頃バスケ部だったらしいな。球技大会は引っ張りだこになるんじゃないか?」
私の手がピタリと止まる
何故その情報が麗奈先輩に……?
「あぁ、この作業頼んできた二(したなが)先生が言ってたぞ」
二先生……うちのクラスの担任か……
そういえば生徒会も関わってるって言ってたな
余計なことを……
「バスケはやめたんです、やる気もないですね」
「そうなのか、神楽さんの活躍が見れると思ったんだがな」
少しだけ悲しそうな笑みを浮かべながら
作業を続ける先輩
申し訳ないことを言ったけど
こればっかりは、私は押しに弱くて
例え頼まれたとしてもバスケする気はない
少しだけ雰囲気が暗い中
ボールに空気を入れる音だけが鳴り響く
その時、足音と共にカシャン、という金属音が聞こえた
まさか、と思って急いで扉を開けようとするけど
……鍵閉められてる
「鍵を閉められた!?鍵を持ってるのは二先生だから……あの人、私に頼んだことも忘れて施錠したのか」
流石生徒に仕事を投げる人だ……
扉を再確認するけど中から開けられない仕様だし
周りを見渡しても高い位置に窓がひとつあるだけだ
とても届く位置じゃない
跳び箱……この倉庫無いのか……
「ちょっと辺り探ってきますね」とだけ伝えて周りをくまなく探す
(ど、どうしよう……神楽さんと密室にまでなってしまった。ただでさえ2人きりで緊張してるのにぃ……)
「何も無いですね……ケータイ持ってます?」
「ふえ!?あ、あぁ生徒会室に置いてきたかもなぁ」
「(…ふえ?)私も忍先輩にすぐ戻るならケータイ置いてけば?って言われて置いてきちゃったんですよね」
(もしかしてこれ、先生じゃなく忍の仕業か……?実はポケットにケータイはあるんだが…少しくらいこの状況を喜んでも怒られないか……?いやだめだ、真面目に考えている神楽さんに失礼だろう!)
この倉庫、なんでこんな感じになってるんだ
あからさまに物が足りない気がする
脱出ゲームでももう少し親切な気がするけど
そう思ってると、電気がパッと消えてしまった
ほとんど窓のないので、全く周りが見えなくなった
「麗奈先輩、どこいます?」
手探りで麗奈先輩を探すけど
声がしない。どこかでしゃがんでるのか?
「神楽さん……ここ……」
声を頼りに探すと、ふさっとした感覚がする
おそらく頭……?やっぱりしゃがんでたのか
「大丈夫ですか?」
「す、すまない……少し、こうさせてくれ……」
麗奈先輩の表情は見えないけど
かすかに震える気がする。怯えてる……?
先輩、暗いの苦手なんだ
ここで私がしなきゃいけない最前手は…
私は頭を軽く撫でてみる
一瞬ビクッ!と反応して「な、なにを?」と言ってくるのを無視して撫で続ける
「今は私がいますよ。怯えないでください」
昔、子供の頃に。雪乃が暗いとこ怖がってた時によくやってたことだ
暫くお互い無言のまま、私が頭を撫でる音だけが室内に響く
少しだけ気まずいな、と思ってると麗奈先輩から話し出した
「変だよな、暗闇が怖いなんて」
「いえ、そんなことはないですよ…」
すると、ガチャン!という音が鳴ってドアが開く
忍先輩が勢いよく入ってきて電気をつけた
「あ、やっぱりいた!大丈夫2人とも!?」
「忍先輩…どうしてここに」
「お昼から帰る途中で先生と会ってさ、倉庫の鍵閉めたって聞いて2人の姿見えなかったからまさかと思って……」
あ、ありがたい……
と思ってるとススッと麗奈先輩が忍先輩に抱きつく
「わっ、ちょっと麗奈、愛華ちゃんの前だよ」
「いいんだ、少し、少しだけでいいから」
「しょうがないなぁ……」
「…あの、忍先輩、麗奈先輩の怖がり方、トラウマ的な感じですよね…」
「うん、麗奈、子供の頃、かくれんぼの時にロッカーから出られなくなったのがトラウマみたい。その時は私が助けたんだけどね」
私はまだ震えている麗奈先輩に
「あの、私もなにか協力出来ることあれば言ってください」
と伝えると、麗奈先輩はこくりと頷いた
ここは忍先輩に任せた方がいいと思い、私はその場を後にした
「……また助けて貰っちゃったな」
「いいんだよ、助けが遅くなってごめんね」
「昔と一緒のことを言うんだな」
「あれ、そうだったっけ?」
「……あぁ、忘れもしないさ…ありがとう」
「んもう、小っ恥ずかしいからやめてよ〜」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます