十四時過ぎのフクロウ⑤

              七時間目 生物基礎


 教師は植物の細胞の仕組みについて板書する。教師には悪いが、私は親友のために推理を続けさせてもらおう。


 三人の話を統合すると、昇降口を通ったのは、小岩井さん、吉田くん、高橋くんの順番ということになる。小岩井さんは「覚えている」吉田くんは「覚えていない」、高橋くんは手紙を「見ていない」と答えた。


 ここで、犯人はラブレターをどこに隠しただろうか、と考える。うちの担任の水鳥先生は話のわかる正義感の強い女性だ。もしも、優等生の晴風が先生にラブレターを盗まれたことを伝えたら、先生はクラス全員の持ち物検査くらいはやりかねない。前にもたしか、朝に上履きが隠される事件があり、先生は朝登校しなかった私を含めて、全員分の引き出しやロッカーをチェックした。


 あの事件を覚えているであろううちのクラスの生徒は、ラブレターを無造作にファイルに入れたりはしないだろう。もう少し凝ったところに隠すはずだ。


 吉田くんがラブレターを漫画のなかにでも隠したのだろうか。吉田くんがラブレターを漫画に隠したとしたら、それは漫画ごと高橋くんの手に渡ってしまう。回収するためには人目のあるなかで高橋くんのロッカーから回収する必要があり、かなりリスキーだ。あるいは、高橋くんが噓をついていて、彼が漫画のなかにでも隠しているのだろうか。いや、ラブレターが無くなったことを知った水鳥先生が大捜索を始めたら、高橋くんも大量の漫画を見つけられてしまう。早く登校するくらいこっそり取引を行おうとしていた彼らが、ラブレターを盗むだろうか。では、犯人は小岩井さんで、折り紙の箱の中にでも挟んだのだろうか。いや、それも先生のリスクを考えると安直すぎるかもしれない。では、犯人はやはりラブレターを書いた本人か。ではなぜ?


 考えが行き詰まり、教科書をパラパラとめくってみる。「ギャップ」という言葉が目に止まる。ギャップってあの、「ギャップ萌え」のギャップかな、と思いながら読むと、どうやら森林のなかにできる高い木のない空白部分のことらしい。へぇ、生物基礎って最後に森林の話とかやるんだ。


 森……。木を隠すなら森の中。では、紙を隠すなら?


 その時、不意に風が吹いたような気がした。振り返ると窓はきちんと閉まっていたけれど、校庭の端で柳の木が確かに揺らめいていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る