第27話
──あれ?
瑠輝と一緒に小屋から出ると、外には紀子さんが一人で立っていて、一緒にいるはずの真依の姿がなかった。
「紀子さん、真依は?」
「真依は今ね、デート中よ」
「はぁッ!?」
「うふふ。直ぐ戻って来るみたいだから少し待ってあげましょ」
え……、で、デート?
デートって一体、誰とだよ!?
「あら、戻って来たわ」
紀子さんが向いた方向を見ると、そこには真依と紫苑の姿があった。
飲み物を片手に紫苑と手を繋いで戻ってくる真依。紫苑の方も同じデザインのカップを持っていてて真依の話しに笑っていた。
「真依ちゃん、借りてたぞ」
「おまッ……!」
「変な誤解すんなよ。借りを返しただけだ」
「はぁ!?」
意味分かんねぇ。
……でも、紀子さんが許した手前、なんも言えねぇし。
すると、紫苑は隣りにいた瑠輝を見ると、俺の目の前でしゃがみ込み、持っていた飲み物を瑠輝に渡した。
「瑠輝、リンゴジュース好きか? 飲めるか?」
「りんごじゅーす!!」
渡されたリンゴジュースに瑠輝が飛び付くようにストローの刺さったカップに手を伸ばした。
「美味しいか?」
「おいちい!」
するとハッとしたように「ありがとう」とお礼をすると、紫苑は頭を撫でてから紀子さんの所へと行った。
呆気に取られていた俺は言葉をなくして、その様子をじっと見守り立ち尽くしていた。
それから、スボンの裾を引っ張られたことに我に返る。
下を見るとそこにはいつの間にか真依がいたらしく、俺を見上げて立っていた。
「お兄ちゃんのどかわいたの?」
「あぁ、いや。違う」
違うが……。
「…やっぱり一口飲んでいいか?」
「いいよ! あのね、しおんお兄ちゃんが──」
はぁ……。
しゃがみ込むと、ぎゅっと小さな身体を抱き寄せる。
「──!?」
「真依、俺から離れないでいてくれな」
「……??」
あぁ、すげぇ心臓がドキドキ云ってるわ。こんな嫌な音がすんのは久しぶりだな……。
「………はぁ」
戻って来る二人を見て嫌な記憶がフラッシュバックした。
別に真依は笑ってたし、俺に気づいて手を振ってくれたから一瞬だけ思い出しただけだけど、あの日の記憶はあまり振返りたくない。
「まい、お兄ちゃんのことだいすきだよ!」
「ありがとな、真依」
真依の言葉に笑顔を見せると、俺は最後にもう一度ギュッと強く抱きしめてから身体を離した。
すると「ぼくもー!」と言って、むくれた顔で瑠輝が横から抱きしめてきた。
突然の重力に身体が傾いて膝を付く。
肩を抱きしめてくる瑠輝に俺は思わず笑ってしまう。それから真依と瑠輝の背中に手を回した。
「俺たちはずっと一緒だからな」
「「えへへ!」」
三人で抱き合っていると、横で満里と遥輝が俺達を見ていたらしい。顔を歪めて、
「──きめぇ」
「なにこの兄妹。ちょっとありえないんだけど……」
などと、身体を引かせる二人に、隣りにいた凜人と道弘が声を上げて笑った。
「あはは! これがこの兄妹の通常運転だよ」
「まぁ驚くのは仕方ねぇよな。
俺の周りでもこんなラブラブな兄弟はいねぇし」
あいつ等好き勝手言いやがって。
紫苑の奴も驚き過ぎだろ。
「うっせぇぞ。ほら、移動するぞ」
「はーい!」
凜人と道弘が大きく返事をすると、壱晟を加えた嶺川家面々はガーデニング広場へと向かって歩き出した。
後ろから真依と瑠輝は春良と壱晟に手を惹かれて美味しいそうに買ってもらった飲み物を飲んでいる。
しばらくして綺麗な庭園へ来ると、俺たちはレジャーシートを引いて、用意していたお弁当を食べる準備をしだした。
お弁当を囲うように家族が座ると「いただきます」と言って食べ始める。
「まいね、おにぎりたべたい!」
「ぼくサンドイッチ!」
「美味いな! 今日は誘ってもらえて良かったわぁ」
虎おじさんもパクパクと食べていて、どんどん中身が減っていった。
しばらくすると、勝手に付いて来たメンバーは近くの売店で色々買って来た物を食べていた。
ニ時間もすると昼食を終えて、ガーデンニングの迷路でのんびりと過ごす。
けれど花よりも真依と瑠輝は隣接している遊園地の観覧車やジェットコースターに夢中で、少し遊ぶことにした。
帰りは反対側の動物を見ながら入場ゲートの所まで戻って来て、俺たちはお土産を売っている売店にやって来ている。
「「わぁー!」」
「こら、真依。瑠輝。俺たちと手を繋いで入るぞ」
すげぇ、めちゃくちゃ混んでるからな。
はぐれたら見つけるのに時間が掛かりそうだ。
中に入ると真っ先に玩具やぬいぐるみが並んでいる棚に来て、真依と瑠輝の顔色を見た。
「お兄ちゃん! ライオンさん!」
「かっこいいな」
やっぱり真依はぬいぐるみが一番良さそうだな。
そうなると瑠輝は小さいおもちゃか?
春良の手を繋いでいる瑠輝を見ると、一点を凝視して立っていることに気づいた。
「あぁ、これかな」
春良が手に取ったのは動物の模型だった。
遊ぶと言うよりは並んで観賞するような物で、一つ一つがリアルに再現されている。
へぇ、模型か。──あ、セットもあるな。
「瑠輝、これはどうだ?」
商品棚の端にあった箱を手に取ると、それを瑠輝に渡した。
けれど何か不服そうで、首を傾げると、ボソリと呟いた。
「…………ゾウさんと、トラさんの白いの……」
「白いの? あぁ、ホワイトタイガーか」
「えっと……。うん、いるみたいだよ。両方とも。良かったね、瑠輝」
すると瑠輝の顔がパッと明るくなり、宝物のように箱をぎゅっと抱きしめた。
お土産が決まると、俺たちはお父さんと秘書へのお土産を選んでから外へと出た。
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