第20話
広場でのひと騒ぎのあと、俺たちは春良と壱晟の所へ戻ると、道弘に抱えられていた全身びしょ濡れの瑠輝の姿を見た春良は驚いて、俺に説明を求めてきた。
絡まれていたことを説明すると、春良は渋い顔をして、真依に落し物を拾ったしたことを褒めてから、一人で知らない人に会わないように行動しないにと言い含めていた。
子供は子供なりに考えて行動しているから、何をするのかなんて予想がつかない。
幸い今日は気温が高く、念と為にと着替えがあったから良かったが、春良に叱られている様子を凜人に笑われたのが屈辱的だった。
それからお菓子を食べて、みんなでボールで遊んで、二回目の休憩を挟んでからまた遊んだ。
帰ったのは空が茜色に染まる頃、四時を過ぎた夕立ちの頃だった。
家に帰ると直ぐに真依と瑠輝をお風呂に入れて湯船に浸かさせる。
遊び疲れたからか、夕食を食べる時には二人とも瞼が落ちかかっていて、うとうとしながら食べていた。
歯ブラシをしたあとは少し目が覚めたみたいだけど、絵本を読んでいるうちに眠気の方が勝ったようでぐっすり眠っていた。
明日は朝早くに出掛ける予定だったから、しっかり眠ってくれて良かったと思う。
俺も眠気に誘われつつ、紀子さんと春良と明日の準備を終わらせるとベットに倒れ込むように眠りについた。
──そして、次の日。
俺達は地元から離れて動物園に来ている。
「「わぁーー!!」」
「真依! 瑠輝! あまりはしゃぐな!」
「お兄ちゃん! ぞーさんいるよ!」
「ぞーさん!!」
「そうだな。大きな」
キラキラさせた瞳で二人が見ているのは、入場口にあるゾウの置物で、他にもキリンやらゴリラやらの置物が俺達を迎えていた。
この前、GWが始まって暇を持て余してた頃。俺と紀子さんで考えたプランは、『動物園に行く』ことだった。
もちろん親父は仕事で、一番便利な交通手段である“車”が無い俺たちは、叔父を頼ることにしたのだ。
「まさか兄貴の家族と出かける日が来るなんてなぁ」
背後で叔父さんが置き物の周りをくるくる回ってる真依と瑠輝を見ながら話すと、後からやって来た紀子さんと瑠輝がお礼をしていた。
「今日は車出してくれてありがとうございます」
「トラおじさんありがとう」
そんな二人に叔父さんは笑顔で返す。
「いいですよ。俺も誘ってもらえて嬉しかったしな」
叔父の名前は嶺川 大虎で。本人の要望により、俺たちは「トラおじさん」と呼んでいる。
肉食獣の名前が付いてはいるが、性格は穏やかで、楽観的だ。
良い人はいるが、未だ独身で、気前の良さを合わせると“独身貴族”の名がお似合いな人だった。
本人もあと数年は独身を楽しむつもりでいるらしい。
くるくる回っていた真依と瑠輝は写真を撮りに来た家族が現れると、駆け足で戻って来た。
「おにぃちゃん! しゃしんとろう!」
「おう。壱晟!」
「はい!」
俺が大きな声で呼ぶと春良の隣りで大きなトートバッグを持って立っていた壱晟が走って来た。
トートバッグの中は、日焼け止めやレジャーシートとかのお出掛けセットが入っている。
「秋良さん。どうしました?」
「真依と瑠輝抱いて写真の中に入ってくれ」
「え!? 俺が撮りますよ!?」
「俺は先に壱晟が入ってからで良い」
「了解しました!」
壱晟は警察官みたいな敬礼をすると、看板の横にいた真依と瑠輝のもとに駆け寄って二人を抱き上げた。
俺はダジタルカメラを撮り出して、レンズを除き込む。
──ココまでは。
ここまでのメンバーは、予定していたメンバーなのだが……。
「なんでテメェ等がいるんだ?」
俺は後ろを振り向かず、近づいて来た二人に問いかけた。
「なんでって酷いなぁー!」
「仮にも幼馴染みなんだから誘ったって良いだろ。」
「家族水入らずで楽しんでこいっつー気持ちはねぇのか?」
「今更じゃん?」
「だな!」
……ハイハイ。
まぁ絶対に嗅ぎ付けるだろう予想はしてたから良いけどな!
昨日もそうだったし!
だからって、どうしてこうウロウロと金魚のフンみたいについてくんだよ!
「はぁぁぁぁ……」
俺は大きく長い溜め息をつき、苛立ちをどうにか抑え込んだ。
まぁ良い。凜人と道弘はもうしょうがない。
予想の範囲だから、そこまで驚く必要なんてない。が───、
「なんで敵のハズのテメェ等がいんだよ!?」
後ろを振り返り、凜人と道弘の後ろにいる三人を見て俺は大きな声を上げた。
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