第4話


 

 話しがまとまって麦茶を飲み終えると、コードの入った引き出しを引っ張り出した。


 ダイニングテーブルに置いて、デジタルカメラの充電器を探す。



「どうかしたの?」



「コイツの充電器探してる」



 そう言ってカメラを見せると、紀子さんは首を傾げた。



「カメラの充電器? そこの引き出しはコードばかりだけど、ありそう?」


「なさ……そう、だな。この引き出し以外に充電器入ってるやつってあったっけ?」


「どうかしら。見たことないけど、物置きとかにありそうね」


「あぁ、そうだな。……やっぱりここにはねぇか」



 物置きの方も探してみるか。


 どっかにありそうなんだけどなぁ。



 引っ張り出して来た引き出しには、結局 目当てのものはなく、中から出したものを片付けていると部屋の扉が開いた。


 視線を向けると真依と瑠輝が目を擦りながら立っている。



 ──お。起きたな。つか、完全に寝起きだな。でっかい欠伸こぼれてっし。


 髪もボサボサで、爆発してやがる。



「あら、起きたのね」



 紀子さんが二人の頭を撫でると、真依は「眠い」と言って、瑠輝は「うぅー」と唸りながら手を伸ばしていた。


 紀子さんが瑠輝を抱き上げると、そのまま腕の中で眠りにつく。



 二人とも眠いのに起きて来たかよ。


 あぁまぁ、隣りに誰もいないきゃ起きて来るか。



 真依はソファに座ると、ゴロンと寝転んだ。



「こら真依。ソファで寝ないの。座りなさい」


「うぅぅー」



 紀子さんの怒った声に、真依はうとうとしながらも起き上がると、しばらくしてやっと目が覚めてきたのか俺の存在に気づいた。



「──! お兄ちゃんだぁ!!」



 満面の笑顔で近寄ってくる真依。


 足に抱きついて来たその顔を覗き込むと、眠気はなくなったのか 完全に目が開いていた。



 フハッ! ホント。すげー嬉しそうに抱きついてくるなぁ。



「真依、おはよ。寝れたか?」


「うん!」



 真依の頭を撫でながら、まだクシャクシャに乱れた髪を手櫛で梳くと、隣りの椅子に座ろうとしていた。


 けれど椅子の方が高いからか、座る所によじ登ってから前を向くのがいつものことで、「よいしょ」と呟きながら頑張っている。



「……ふぅ。お兄ちゃんなにしてるの?」



 やり切ったようなため息をつくと、真依は俺を見て首を傾げた。



「充電器を探してたんだ」


「まいもさがす!」


「残念。もう終わった」


「ガーン……!!」



 真依がおおげさに頭を抱えると云うリアクションを見せる。


 そんな真依の反応が面白くって、俺はフフッと笑った。



「まだ見つかってはないから、一緒に探すか?」


「うん!」



 俺は引き出しをもとに戻すと、真依の身体を持ち上げて椅子から下ろした。



「それじゃぁ、まずはカメラがありそうな場所を探そうか」


「うん!」


「どこにありそうか分かるか?」


「えーと、ねー。カメラ……。──あっ!!」



 真依は思いついたに声を上げると、走り出してどこかに行こうとした。



「ちょっ、真依!?」



 急に走り出した真依に驚いたのもあって慌てて叫ぶ。



「こっちなんだよ!」


「え、真依分かるのか?」


「うん!」



 これ、マジなやつだよな?


 取り敢えず付いてってみるか。



「じゃぁ教えてくれるか?」


「うん!」



 真依は元気よく返事をすると、俺の手を握って引っ張って行く。


 向かったのは廊下を進み玄関を通り過ぎた部屋で、親父と紀子さんが使ってる寝室だった。


 真依と瑠輝はほとんど同じ部屋で寝てるから出入りは自由だが、俺は滅多に入ったことがなくて、入るのに少し気が引けてしまう。



「あのね、おとうさんがね、えっと、たんす?

_に、入れてたんだよ!」



 入れてた?


 いったいいつ見たんだ?


 親父がカメラ持ってる姿なんて見たことねぇぞ。



 あ……、いや。小学校の頃に使ってた、な。


 確かデジタルカメラもだけど、ビデオカメラも使ってた気がする。



「ここだよ!」



 手を引かれて連れて来られたのは、クローゼットの前だった。



 なるほど、あのカメラは親父のだったのか。


 まさか親父の部屋にあったなんてな。



「ありがとな、真依」


「うん!」



 ──にしても、忘れてたことだんだん思い出してきたな。


 確かお母さんがお祝いごとが大好きで、パーティーとかも良くやってたんだったな。


 そんで運動会とか、お遊戯会とか、必ず親父と一緒に来て写真を撮ってたわ。


 親父のヤツ、あの頃から忙しかったはずなのにな。


 そうなると、親父がこれなくなったのはいつの頃からだ?


 記憶が正しければ、その後か、少し前からか、お母さんも来なくなったんだよな。


 その変わりに家でのパーティーをするのが増えたけど。



_ガタッ



 突然のクローゼットの扉が開く音に俺はハッとすると、真依が片方の扉を開けていた。



「そっちもあけるの!」


「あぁ。開けるな」



 俺は考えてたことを頭の隅に追いやると、扉を開けた。


 中には衣紋掛けにぶら下がってる洋服と、箪笥が三つに、収納ボックスがいくつか積まれている。



「お兄ちゃん!これっ!」



 ぴょんっぴょんっと跳ねて、真依が指差したのは収納ボックスだった。


 白とベージュの二種類が三つずつ交互に重なっている。



「どれだ?」


「それっ!」


「どれだー??」


「それなのッ!!」



 ……プッ。あぁーヤバイ。可愛いな。


 すげーウサギみたいによく跳ねてる。





 

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