2-6 結ばれる想い

時間はシリルとフェリシアの出会いの直前まで巻き戻る。半日くらいかかるとのこと。

二人は身を寄せ合いながら、今までのあれこれを話した。


「魔法の鑑定は、実は今回、初めてやってみたんだ」

「そうなのね」

「うん。粘膜接触が良いと出たせいで……前回は、君にキスしてしまった。それなのに君を突き放して、何度も深く傷つけた……」

「ううん。良いの」


フェリシアはシリルの手をぎゅっと握った。すぐに握り返され、優しいキスが一度落とされる。ひどく心地良くて、懐かしい気がする理由が、ようやく分かった。


「あの……」

「うん?」

「今までは、私たち、その……どこまで、進んでたの?」

「…………君にキスをしたのは、今回が初めて」

「嘘…………!?」


フェリシアは驚いた。自分は余程、大切にされてきたらしい。


「本当だよ。だから、俺も……歯止めが、効かなくて。正直……もう限界だったというか…………。でも、悪戯に触れるべきじゃなかった…………ごめん」

「謝らないで。貴方に触れられて嫌だったことは、一度もないもの」

「…………そっか」

「…………その。時間が巻き戻し終わったら、私を最後まで、シリルのものにしてくれる…………?」


フェリシアが勇気を出して言うと、シリルは首まで真っ赤になって、ぎこちなく頷いた。


「…………うん」

 

お互いにぎゅっと手を握り合う。

それからシリルは、意を決したように言った。


「その代わり、次の周で最後にする。絶対。それだけは、約束する」


フェリシアも強く頷いて言った。

 

「うん。次で、最後にしましょう。二人一緒なんだから、絶対に大丈夫よ」


シリルは目を赤くしたまま、また今にも泣き出しそうな顔で笑った。


「うん。そうだね……」

「祝福の鏡は、私の運命を打破するものだって、真実を見通す長老が言っていたもの。二人で頑張れば、きっと大丈夫よ」

「うん。初めて、本当の意味で一人じゃなくなった気がする。嬉しいよ……」

 

それから次の周で取る対策などを、二人で話し合う。そのうちいつの間にか、気を失ったようだった。



♦︎♢♦︎



フェリシアは真っ暗闇の世界に戻っていた。


――なんだか、懐かしいわ。こんな感じだったっけ……。


久しぶりにきた、侯爵邸の自分の部屋だ。目が見えず、足もなくなったけれど、じっと待つ。フェリシアは強く信じていた。

間も無くして、待ち侘びた音が聞こえた。


 

コン、コン。

 


窓を叩く、石の音だ。シリルだ。フェリシアは、すぐに窓の鍵を開ける。


「ありがとう」


涼やかで美しいテノール。間違いなく、世界で一番大好きな声だった。次いで、人が中へしゅるりと入ってくる。目の前の人物はフェリシアに問うた。


「俺が、誰だか……わかる……?」

「シリル……私の、大好きな人」

「シア!」


シリルはフェリシアにぎゅっと抱きつき、喜びの声を上げた。フェリシアがちゃんと覚えているかどうか、不安だったのだろう。

 

「シア!今から君を攫うよ。今度こそ、俺と一緒にクーデターを起こそう!」


暗闇の視界に、眩いほどの光が弾ける。

くるくると回る金色の光に導かれるようにして、フェリシアは手を伸ばした。途端、一気に視界が開けた。あまりの眩しさに目を細めながら、目の前の人にがむしゃらに飛びついた。


「ありがとう、シリル!今度こそ、私を――――本当の『共犯者』にして!!」

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