第11話 貴方が好き

 夜が来た。

 アーシャはウィルバートの手を握り、つきっきりで看病していた。

 夕方にウィルバートの両親も様子を見に来て、とても心配そうだった。二人とも、ウィルバートによく似た目元の、優しそうな人たちだった。

 先に目を覚ましたシャロンも、途中で様子を見に来てくれた。アーシャは彼女に支えられながら、わんわんと泣きじゃくってしまった。元気なシャロンを見たら、一気に緊張が解けてしまったのだ。

 

 治癒師からは、ウィルバートは安静にしていれば大丈夫だと言われた。でもアーシャは、彼がもう一度目を覚ますまで気が気でなかった。血を吐いて倒れた彼の姿が、何度も何度も脳裏に蘇ってしまう。


「………………アーシャ」

「ウィル?」


 ウィルバートの手を握ったままうつらうつらしていたアーシャは、声がしたのではっと顔を上げた。ウィルバートはしっかりと目を開けて、こちらを見ていた。彼が体を起こそうとし始めたので、慌てて支える。あまり上手く力が入らない様子だった。


「ウィル……!無理しないで。ああ、ウィル、目を覚まして良かった…………!」

「アーシャ、目が真っ赤だ……。沢山、泣かせたんだね。僕は、敵にやられてしまったのか……。記憶が曖昧だ……」

「特殊な毒にやられて。し、死ぬかと……思ったのよ……!ほ、本当に、怖かったんだから……!!」

「アーシャ、ごめん。心配かけた……」


 ウィルバートがゆっくりと手を伸ばし、アーシャの涙を拭った。気づけばもう、両頬を大粒の涙が伝っていたのだ。アーシャは涙と一緒に溢れ出す心のまま、大声で言った。


「ウィル、私やっと分かったの。貴方が好き。好きなの……!!」

「え……」


 突然の告白に、ウィルバートは目を見開いて固まっている。でも、アーシャは止まれなかった。どうしても、今伝えなければいけないと思った。

 

「貴方が死ぬかもって思ったら、今更になって、やっと分かったの。本当に、遅くなってごめんなさい。私はとっくにウィルのこと、好きになってた……ウィルを、愛してるの……!」

「アーシャ……!」


 ウィルバートは弱い力で必死にアーシャの手を引き、抱き寄せてきた。アーシャは彼の大きな背中に手を回し、自分に引き寄せる。温かい彼の体温に安心して、アーシャはしゃくりあげながら、懸命に話した。


「ウィル、あのね。ひっく。貴方の生真面目で、不器用なところが好き。愛情深いところも、好きよ。ぐすっ……。全部、全部、大好きなの……!」


 ウィルバートはアーシャの頭をさらさらと撫でながら、一旦顔を離した。金色の目が、アーシャの目をじっと見つめている。そこには愛おしそうな熱が、たっぷりと込められていた。


「アーシャ。嬉しい……。僕も、君の愛情深いところが好きだよ。優しい真心を持っているところも。頑張り屋で、突っ走ってしまうところも……大好きだよ」


 お互いに、間近でじっと目を見つめ合う。ウィルバートの顔が次第に近づいてきたので、アーシャは自然と目を瞑った。唇に熱くて柔らかいものが、そっと当たる。なんて心地良いんだろうと、アーシャは感動した。


「……ウィル、大好き」

「僕も、大好きだよ……」


 微笑みあって、ぽうっとしながら見つめ合う。

 そうしてしばらくしてから、アーシャはハッとして言った。


「ご、ごめんなさい!貴方は、毒で倒れてたのに……!今、治癒師を呼んでくるわね。リオン殿下にも、すぐ伝えなくちゃ……!」

「うん、慌てないで。僕は今のところ、大丈夫そうだ。でもありがとう、アーシャ」


 ウィルバートが優しく微笑んだので、アーシャはまた幸福感でいっぱいになった。そして、急いで治癒師を呼びに行ったのだった。


 

 ♦︎♢♦︎

 


「ウィル、食べられそう?」

「うん。アーシャが食べさせてくれたら」

「もう……。ほら、どうぞ」

「ありがとう。大好きだよ」

「…………私も」


 アーシャは、献身的に看病をしていた。ウィルバートは経過観察のため、三日間の入院となったのである。

 その様子を見ながらリオンとカイルは、驚きながらも苦笑していた。


「ウィルがこんなにメロメロな感じになるとは、ちょっと予想外だったな」

「ものすごい溺愛ぶりだね〜」


 ウィルバートは言った。


「僕も意外だよ。こんなに一人の女性に夢中になるとは思わなかった。きっと、アーシャが相手だからだと思う」


 そう言われたアーシャは真っ赤になりながらも、食事のさじをウィルバートに差し出している。確かにゲームのウィルバートは、攻略してもこんなに溺愛キャラじゃなかった。

 シャロンも嬉しそうに言った。


「アーシャ、自分の気持ちに素直になれて良かったね」

「うん。今はすごく幸せよ。ありがとう、シャロン」


 アーシャは朗らかに笑った。もう、彼女には何の迷いもなかった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る