刑務所のルール

とある刑務所の中庭で新入りのレイコブは先輩に囲まれ談笑していた。

レイコブの右隣の先輩が言った。

「おい新人、ここで生きていくのに大事なルールが三つある。教えておいてやるよ」

「いったいなんなんだ?」

「ひとつめ、喧嘩はするな。特に俺みたいにでかいやつとはやめとけ」

右隣の先輩は丸太のような腕を見せつけた。

すると、今度は左隣の先輩がレイコブに向けて言った。

「ふたつめ、時間を守れ。働くのもサボるのも、起きるのも時間どおりが鉄則だ」

左隣の先輩は腕時計を指すような仕草を繰り返した。

そして最後にレイコブの正面に立つ先輩がニヤニヤと笑いながら言った。

「最後に三つ目は……看守のオリバーには近づくな。あいつは受刑者を見ればすぐに殴ってくる。特に新人はみんな『教育』されてきた」

正面に立つ先輩は腕を素早く振り下ろしながらケラケラと笑った。

レイコブは悲惨な光景を思い浮かべ、顔を歪めた。

「その、オリバーって看守はどんなやつなんだ?」

レイコブが訊ねると三人の先輩は大きく笑って応えた。

「「「お前の後ろにいるやつだよ」」」

レイコブは慌てて振り返った。

しかしそこにオリバーの姿はない。

それを見て周りにいた受刑者が一斉に笑い出す。

「冗談だよ! オリバーなんて存在しない。最後のルールは「新人は一回騙せ」だよ」

レイコブはため息をついた。

「なんだよ……面白くない冗談だ」

すると瞬間レイコブの後ろから鉛のような沈んだ声が聞こえた。

「そうか、俺は面白いと思うがな?」

正面の先輩が言い放つ。

「わるいな、オリバーなんて存在しないってのは嘘だ」

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