悩みを解決する祠
ウォルターの住む地域の小学校はとある噂で持ちきりだった。
それは、校舎裏の細い崖を壁伝いに超えた先にある祠のことで、何やら500円を添えて悩みを書いた手紙を置けば未来の自分から返信が来て解決してくれるというものだった。
最初はみな半信半疑だったが、悩みを持つ生徒が一人またひとりと手紙を書いたところ見事に悩みが解消したため瞬く間に話題は学校中に広がった。
ウォルターも友達が書いた手紙の返信をもらいに祠へと向かっていた。
「どんな悩みを書いたんだ?」
「わたしは成績があがるかどうか」
「ぼくは肩の怪我が治ってまた野球ができるかどうか」
「おれは好きな子と付き合えるかどうかだ」
各々が祠に置いてきた悩み事を打ち明けていた。 崖を過ぎて祠が見えると祠にはそれぞれが出したものと同じ便箋に封がされ置かれていた。
「いま、頑張っているのは知っています。すぐに報われる結果が得られますよ」
「肩は日に日によくなっています。焦らなければ来年にはまた野球ができています」
「その恋は失敗します。けれど他に気になっている子がいることも私は知っていますよ」
封を切るとそこには未来の自分からの手紙が届いていた。
みんなはその手紙に喜んで帰って行ったが、ウォルターだけは500円とあらかじめ用意しておいた手紙を祠に置くと近くの茂みに隠れた。
日が沈んで辺りが暗くなり始めると崖の方から物音がして一人の男が現れた。
男は祠に近づくと手紙と500円を手に取った。
それをみてウォルターは姿を現す。
「やっぱり誰かが受け取っていたんだな」
突然現れたウォルターに男は驚いた。
「まさか、近くに人がいたなんて。どうかこのことは黙っていてくれないか?」
男のおねがいにウォルターは上から目線でいい切る。
「分け前として今までとこれからの報酬を半分くれるならいいよ」
「……仕方ない。それでいい」
ウォルターの提案に顔を歪ませた男だったが少しして渋々それを認めた。
しかし、ウォルターはまだ聞きたいことがあった。
「どうやってみんなの悩みを解決したんだ?」
すると男は何食わぬ顔で答えた。
「解決なんかしていないよ、大丈夫とかがんばれとか言っているだけさ、人間の悩みなんて打ち明けた時点で自己解決してるのさ」
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