別れと出発
「…この状況は何かな?」
開口一番、キルトは頭を抱えそう言ってきた。
「何と言われましても…ご覧の通りですが」
カシアはユイカとユアを見て見た。特段いつもと変わりは無いし、私も普通だ。
「どこかおかしな所でもありましたか?」
カシアは質問した。すると、キルトは少し呆れた様子で
「……はぁ。まず、その子は誰。賊討伐への準備はどのくらい進んだのか。そして最後に。どうやってこの部屋に急に現れたの。」
質問攻めだった。どう返事をしようか。
「えぇとですね…まず、賊討伐の件は片付きました。この部屋に突然現れたのはワープです。で、この子はユア。賊に捕まっていて、生かされていたので助けました。」
キルトはとても驚いていた。依頼してからたったの1日足らずで解決してしまうとは、と。
改めてこの子達の強さを認識する。
ワープとか、聞いたこともないし。
そして同時に、新たな疑問が湧く。
「捕まっていた?何故?」
賊は基本拉致等をしても、すぐに他国に売り飛ばす。因みに、しっかりと金目の物も奪う。
「それがなぜか、この子を拉致したままだったんですよね。理由は分かりませんが。」
カシアは嘘で切り抜けた。影世界から来た殺戮ロボットとか言ったら即破壊される。
「それに、賊の話を聞いていて『影世界』と関わりがある事もこの子から知りました。」
まぁこれに関しては多分嘘では無いしいいだろう。すると、ユアが前に出てきた。
「私はお姉ちゃんに助けられました。有益かは分かりませんが、情報は出せますよ。」
キルトは驚いていた。それも結構。
「そうか…陰世界…ありがとう。君達は予想を遥かに超える働きをしてくれた様だ。」
「と、言うと?」
カシアが深堀する。
「実は、大陸の国全体が陰世界について研究してるんだけど、どうにも難しいらしくてね。情報が来たら、回す事になってるんだ。無論、僕も情報を掴んだのは初めてだけどね。」
陰世界は、どうやら謎の世界らしい。
ユアには、あまり喋らないように言い聞かせておこう。
「そうだったんですか。じゃあ、ユアの情報はなんでも有益な物になる…という事ですね?」
キルトは頷く。
「出来れば、情報を出して欲しい。断ってくれても結構だ。話してくれれば、討伐とは別に望みを聞こう。」
おぉ。これ程美味しい話はこの先あるか分からないぞ。カシアはユアを見る。ユアも頷いていたので、すぐに答えを出した。
「情報を出しましょう。情報を出したら、私達の望みを言うと言う事で。」
キルトはふっと笑い、
「交渉成立だね。ありがとう。」
と言って話を聞いた。
カシアは、陰世界では序列を作る程の力を持った存在が多くいる事。向こうからこちらの世界に来る方法は確立している事。そして魔人は既にこちらの世界に溶け込んでいる事を話した。
情報としてはしっかりしているし、ユアが聞いたとしても問題ないレベルだろう。他の事はあまり話さないようにした。
「そうか…既に人間は出遅れているのか…」
キルトは考え込んで、立ち上がった。
「こんな情報、そうそう手に入れられる物では無い。本当にありがとう。君達の望みはできる限り応えよう。」
それを聞いたカシアはニヤリと笑い、
「それじゃあ、お金を沢山下さい。あ、あと冒険者登録も忘れないでくださいね。」
と、間髪入れずに言った。キルトは笑って、
「そのくらいなら、言われなくてもやってるって。せっかくだし洋服とかも色々サービスしておくよ。」
と言ってくれた。
翌日には沢山のお金に冒険者カード、洋服や靴に加えて、旅のセットが部屋の前に置いてあった。いやぁ。いい仕事をした。
出発する準備を進めていると、ノックする音が聞こえる。部屋の扉を開けると、キルトが立っていた。
「さて、準備はした訳だけど、これから君達は何をするんだい?」
キルトが宿の部屋に入ってきて言った。
カシアは、
「うーん、そうですね…ユアも居ますし、旅をしながら陰世界の事を調べようと思います。」
と答える。これは本心である。
「そうか。しかし残念だなぁ。この街で冒険者をやってくれてもいいのに。英雄になれんじゃない?」
キルトは残念そうにこちらを見ている。
「まぁ、時間が経てば帰ってきます。」
カシアはキルトに言った。これも本心だ。一段落したら帰ってこようと思っている。何かと思い出のある街だ。
「そうか。楽しみにしているよ。」
キルトは笑顔に戻り、外まで見送ってくれた。
「ではまたいつか。」
「あぁ。待ってるよ。」
いい感じで別れた。
さぁ、これからどうしようかな。
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