第53話 ニコレッタとロフォカレ
SIDE:???
この魔大陸は魔物ばかりが住むところではない。
俺達のようなただの人間やエルフ、ドワーフも住んでいる。
俺達人間は日々魔族の脅威に怯えながら暮らしている。
俺は物心がついた頃からこの街で暮らしている。
暮らしていると言ってもそんな生ぬるいものではなかった。
俺の両親は小さなころに借金のせいで奴隷として売り飛ばされていった。
「また、お前か!このコソ泥が!お前なんてこの街のゴミだ!」
食べ物を盗んでは捕まり、体を痣だらけにされては路地裏に捨てられた。
今日も露店から盗ったリンゴを取り上げられ、道端に捨てられる。
そんな時、突然誰かが俺の前に姿を現した。
「おい、お前に飯を食わせてやる。
その代わり私の仕事をしてもらう。」
▽
俺はそれからその女の仕事を手伝っている。
女はきっと魔族なんだろうが、俺にとっては関係ない。
飯を食えればそれでいい。
魔族の女はこの体を透明化する指輪とナイフを貸してくれた。
俺は昼は借りているボロボロの部屋で寝て、夕方、部屋を出た。
大きな街道の道端で木の空き箱に腰を下ろし、道を歩く人々を観察する。
夕食の食材を買う女たち
儲けにつながることを考えながら歩く商人
鎧を着た冒険者たち
僕の目はその中から二人の男女に目をとめた。
「あなた、今日はあなたの好きな魚のスープにしますね。」
「ニコレッタ、今日もあまり稼げなくてすまないね。」
「いいんです。あなたがいてくれたら……」
露店で魚を選ぶその二人を観察する。
男は30歳ほど、女は20歳ほどだろうか。
うっとりと男を眺めるニコレッタ。
二人はその後、野菜を売っている露店でいくつか野菜を買い、再び街道を歩いて行った。
「今日はゴブリンを3匹倒したんだよ。
とはいっても僕だけで倒したわけじゃないんだけどね。」
「まぁ、すごいわ。
でも気を付けてくださいね。
あなたがいなくなったら私……」
「ニコレッタは心配性だね。
ゴブリン程度倒せるようにならないと冒険者とは呼べないくらいなんだけどね。
僕は弱いから……」
「いいの。こうしていつも一緒にいられるんですから。」
「ニコレッタ、ありがとう。
苦労かけるね。」
俺は手をつなぎ歩く二人の後を着いていく。
二人は壊れかけの小屋のような家に入っていった。
「それじゃ、ごはん作りますね。」
俺は体を透明化して鍵のついていないドアをそっと開けて中に入った。
「あれ、ドアが開けました?」
「いや、俺は開けてないよ……う……体が……」
俺はその男の手の甲にナイフを突き立てた。
男は手から血を流し、そのナイフからの麻痺の効果で体を震わせている。
「あなた!どうしたの!いたっ……え……誰?」
姿を現した俺にニコレッタは目を見開いた。
「誰だお前……何をした。」
俺は体の自由が利かなくなったニコレッタの顎を持ちその唇に唇を重ねた。
「いや……ん……」
俺はニコレッタの服の下に手を滑り込ませ、ニコレッタの垂れ下がる胸を優しく撫でまわした。
「やめて……」
床を這いつくばり逃げようとするニコレッタの服を少しづつ剥いでいき、その後ろから俺の体をニコレッタの体内に入れた。
「いや……あなた……」
「やめろ……」
ニコレッタの体を打ち付けると麻痺の効果のせいか体はブルブルと震え、中もビクビクとうねるように締まった。
麻痺に懸命に
動かなくなったニコレッタを床に寝かせてキスをしながら体を揺らしてその中に俺の体液を注ぎ込んでやった。
「ニコレッタ……」
涙を流しながらこちらを見る男のそばまで歩み寄る。
「おまえ………必ず殺す……」
俺のことを睨むその男の首をナイフで横薙ぎに払うと床と壁にべっとりと血を飛び散らした。
俺は魔族から預かった収納の指輪に男を収納して横たわるニコレッタの傍らに体を寄せるように寝そべった。
「きゃあああああ!」
部屋中に飛び散った血を見て俺の横で気絶していたニコレッタが発狂したように叫ぶ声で目が覚めた。
「あの人をどうしたの!どうしたのよ……」
「言うことを聞いたら返してやる。
服を着て、ついて来い。」
泣きながら服を着たニコレッタを連れて真っ暗な街道を歩く。
ニコレッタは嫌そうにしていたが俺が手を無理やり手を引いていった。
ニコレッタがお腹を抱える。
「俺の子種がお前の体から溢れ出てきたか。
あんなに愛する者がいるのに気絶してしまって俺の体液を受け入れてしまったからな。
はははは。」
「そんな……」
ニコレッタは体を震わせながら下着をジトっと俺の体液と自分の体液で滲ませた。
俺はニコレッタをいつもの路地裏に連れてきた。
「お待たせしました。
ロフォカレ様。」
すると地面に魔法陣が現れて黒い翼の女が地面から湧いてきた。
「あら、ご苦労様。
どれどれ。
あぁ……私のコレクションにするにはちょっと色々足りないわね。
まぁ、報酬は払うからまた明日。」
「すみませんでした。
明日また頑張ります。」
俺は
「何……今の……魔族……?」
「おい、来い。
命は助かったみたいだな。
だが、旦那を返してほしかったら俺の言うことを聞けよ。」
「はい……」
俺はニコレッタを連れて宿に戻った。
「その汚い服から着替えろ。」
「綺麗な服……あの、ここで着替えるんですか……?」
「他に部屋はないからな。
俺のほうを向いてゆっくりとだ。」
「はい……」
ニコレッタは恥ずかしがりながらベッドに座る俺の方を向いて服を脱いでいき、メイド服を着ていった。
「外の井戸で水を汲んでこい。」
「はい。」
「俺の服を脱がせて体を拭け。」
「はい。」
ニコレッタはひらひらするメイド服のまま俺の服を脱がせていき、汲んできた井戸の水で濡らした手ぬぐいで俺の体を拭いていった。
「あの…あの魔族は……」
「あぁ、お前は気に入らなかったから連れ去られなかったが、気に入られてたら連れ去られてどんなことをされたかわからないな。」
「そうですか……」
ニコレッタは無言で俺の体を拭いていった。
一カ月後
俺が起きるとニコレッタは小さな台所で朝食を作っていた。
「今日も行かれるんですか?」
「ああ。」
「……そうですか。あの、私も働くので魔族の仕事やめることはできないのですか?」
「俺はもう真っ当には生きていけないし、人を信じることはできない。」
俺はニコレッタはが作ったスープをそのままに逃げるように部屋を出た。
俺はいつものように女を
「お帰りなさい。」
ニコレッタは俺に言われなくても夕飯を作って待っていた。
「今日の魚のスープどうですか?」
「ああ。」
ニコレッタは旦那のことをあれから聞いてくることはなく、俺が外に出ている時も買い物にいったり、部屋を掃除したりしているだけで逃げようとはしなかった。
「今日は近くの魚屋でいいお魚を仕入れたみたいだったので少し奮発してしまいました。」
「そうか。」
「魚屋さんの奥さんに赤ちゃんができたみたいで、人でが足りなくなるみたいなんです。
明日からでも働けそうなんですがいいでしょうか。」
「ああ。」
「それじゃ明日から行ってきますね。」
ニコレッタは笑顔で食事を続けた。
「お体お拭きしますね。」
「ああ。」
井戸で汲んできた水を台所で一度温かくしてから手拭いを湿らせて俺の体を拭いていく。
「冷たくないですか。」
「ああ。」
「今日もお疲れ様でした。
毎日大変ですね。」
「俺の仕事は女を攫い、魔族に届けるだけだ。」
「それでも……」
ベッドに横たわりニコレッタに体を拭いてもらっていると薄暗い部屋の床に魔法陣が光った。
「いつかの女がいい感じに仕上がったじゃないの。」
「ロフォカレ様。」
俺は魔法陣から現れた黒い翼のロフォカレ様に跪いた。
「えっ……魔族の……」
「それじゃ、いただいていくわよ。」
「お待ちください。
この女、ロフォカレ様の満足するような女ではありません。」
「それは私が決めること、お前はただ私の元に女を運んでくればよい。」
そう言うとメイド服のニコレッタはロフォカレに抱えられて魔法陣の中に消えていった。
俺は裸のままベッドに再び横たわった。
いつもはニコレッタが隣にいて少し狭かったが今日は広い。
いつもはニコレッタの体を弄んでから寝ているが今日はいない。
朝起きるといつもニコレッタが朝食を作ってくれていたが今日もいない。
そのまま夕方まで寝た。
▽
そこはかつて大きな商会の代表の屋敷だった。
その大きな部屋にロフォカレはいる。
「あなた、恋してるわね。」
「えっ……」
「わかるわよ。私は魔族だからね。
あなたの最愛の人を殺したあいつを好きになるなんてね。」
「………」
「あなた気が付いていたんでしょう。
明日、あの男は殺すわ。
最近選んでくる女が
「そんな……もうあの人を助けてもらえませんか。
私はどうなってもいいのでお願いします。」
「そう。わかったわ。」
ロフォカレを真っすぐ見つめるニコレッタは足元から生えてきた透明な結晶に覆われて初めて、すぐに大きな透明なクリスタルの塊の中に封じ込められてしまった。
「うふふふ。いい出来だわ。愛した人を殺した人を好きになり、その男を助けるために自分を捧げる覚悟をしたこの表情……あぁ……たまらないわ。」
ロフォカレはクリスタルを見て頬ずりしたあと、魔法で浮かせて他に並ぶクリスタルの隣に並べた。
そのクリスタルの数は100を超え、怒っている表情、泣いている表情、覚悟を決めた表情、様々に感情を露わにしている女性がそこには並んでいた。
「随分とため込んだものだな。」
「誰だ?どうやって入った。ここは多重結界で入れないはずだが。」
「ああ、その結界なら俺の知り合いの魔族が簡単にゲートを開けたぞ。
魔力を結晶化させたのか。」
「私のコレクションに触るな!」
ロフォカレは魔力の結晶を触る俺に正面から殴りかかってきた。
「肉弾戦なら私の出番だな。」
ラケーレが俺の前に立ちはだかり、ロフォカレのパンチを受け止める。
「何なんだお前ら!」
ロフォカレの激しい連撃を紙一重でかわすラケーレはその攻撃に慣れてきたのか、少しづつカウンターを当てるようになってきた。
「くそっ!くそっ!この手を使うことになろうとはな……」
ロフォカレはクリスタルに手をかざすと女たちを覆っていたクリスタルが溶け始め、その溶けた魔力がロフォカレに流れ込む。
ロフォカレは元の美しい女からは程遠いトカゲの魔物の姿に変わっていた。
再びラケーレと殴り合いになったが、ロフォカレはしっぽまで使い先ほどとはスピード、パワーが跳ね上がったように見える。
先ほどまで余裕だったラケーレは何度か攻撃を受け始めるようになり、しっぽの攻撃を受けて吹き飛ばされてきた。
「大丈夫か、ラケーレ。」
「ああ、まだ大丈夫だ。」
俺はラケーレを受け止めてやり、そのままラケーレの体に高濃度の魔力を流した。
「うっ、サトウ殿ありがとう。」
ラケーレは体から沸騰する湯気のように魔力を体から立ち上げながら、拳にその魔力を集中し始めた。
「死ねええええ!」
ロフォカレがラケーレに止めを刺そうと向かってくるとラケーレは一瞬消えたかのように消えてロフォカレの懐に踏み込んだ。
二人が交差するように体をぶつけたが、ラケーレの右腕はロフォカレの体を貫通していた。
「お前ごときにこの私が……」
ロフォカレは床に膝をついてそのまま煙のように消えていった。
▽
「ニコレッタ!」
その日の朝、ドアを開けるとニコレッタは俺の借りる部屋のドアの前に立っていた。
俺はニコレッタを抱きしめて泣いた。
ロフォカレへ女を捧げるのはやめ、ロフォカレはあの日以降は俺の前に姿を現さなくなった。
「ニコレッタ、俺、お前の旦那さんを殺したんだ……」
「はい……知っていました。」
「もう、あなたのことを責めたいとも思っていません。
よろしければ、また、お世話させていただけませんか?」
「それはかまわないが、いいのか?」
「はい。
今日から魚屋で働いてきますね。」
ニコレッタはそう言って俺の胸に飛び込んできた。
俺はその日から仕事を探しに街を歩き回った。
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