第51話 ツィタの魔法


 俺は今360°水平線が見える甲板に出ている。


 全て海なのでスピードが出ているのかよくわからない感覚に陥るが船近くを見るとかなりのスピードが出ているのが分かる。

 風の抵抗は風魔法で遮っているので微かな風が髪をたなびかせた。


 そう、船が完成したのだ。

 船は陸でも移動ができるようにホバークラフト式にした。

 船底が平らになっており、風魔法を使って少し浮かせながら進む。

 

 アリオクの飛行魔法も試したが大きな船を浮かすことはできなかった。

 船はなるべく軽量化するために木造にして大きさも長さ20mほどにした。



「旦那様、私、海なんて初めてです。

 しっかり守ってくださいね。」



 俺の手を握り横に立つのはサタナキアに操られていた少女だ。



「ツィタ、ご主人様は私のものなのであまりベタベタしないでくださいね。」


「えー。旦那様は私の旦那様なんですよ。だって私を魔族から救い出してくれたんですから。ねっ。」



 レダはまだ幼さの残るツィタを睨みつけて歯ぎしりしている。

 ツィタはレダに説明をしてもらったみたいだが、レダの説明が若干俺を美化してしまったのか、あの事件以降俺にべったりだ。


 ツィタはエルフだ。

 しかし、幼いころから変化のネックレスで人間として生きるように言われておりその通り生きてきた。

 エルフは基本美形が多く、魔力量が桁違いにある者が多い。

 そうしたことから子供や弱いエルフはさらわれて売られることが多いからだろう。

 ネックレスは着けているが本来の姿を俺に見てもらいたいらしく、変化の効果は切れている。

 

 ツィタは幼いころからカルビアの来たの森で暮らしていたが両親を魔物に殺されて以来、姉妹でなんとか生きてきた。

 サタナキアに操られ、このイデンにいたということだが、妹とどこではぐれたのかもわからない様子だった。

 妹を探しに街中を探し回ったがいなかったため、気晴らしに海に連れてきた。


 そんなツィタに手を引かれて船内を回ることになった。

 レダもそんな俺達の後を不機嫌そうに着いてきた。



「ルチアー!遊びに来たよー!」


「ツィタ、サトウ様、いらっしゃいませ。」



 ツィタとルチアは友達のように仲がいい。

 ツィタはエルフなので実年齢は容姿からはわからないが、外見的には女子高生くらいに見える。


 ルチアとツィタは俺に抱き着きながらこの船の過ごし方について話している。

 俺以外の個室はそれほど大きくなく、机とベッドがあるくらいで、トイレや風呂は共同である。

 レダがさり気なく後ろから体を当ててきている。


 ルチアを合流して各部屋のドアが並ぶ廊下を歩くと手をのれんのついた入口にたどり着いた。

 俺は二人に手を引かれてそののれんをくぐる。

 

 ルチアとツィタは二人で話しながら俺をチラチラと気にしながら服を脱いでいった。



「ご主人様、浴場が一つしかないなんて下心がばればれですね。

 私はお仕事なのでついていくだけですからね。」



 そう言ってレダは俺の服をスルスルと脱がしていき、自身もすごいスピードで服を脱いでいった。


 設置された棚に服を置いて戸を開ける。

 水の魔石と火の魔石を利用した中央から湧き出る温水システムで、3人ほど入れるバスタブがある。


 俺はレダに誘導されてバスタブ横に座らされて体を洗われる。



「ご主人様、そんないやらしい目で私を見ないでください。

 私は仕事でしょうがなくやっているだけなのに。」



 レダはそう言いながら時々自分の体を俺に当ててくる。


 4人同時だとバスタブは少し狭いが入れないことはない。

 お互いに肌を密着して入ることにした。

 ルチア、ツィタは俺の横で体を寄せ、レダはツンとしながら俺の膝に乗っている。



「ご主事様、狭いといって私の体にさわらないでください。」



 そう言いながら俺の手を自分の胸に持っていくレダ。



「旦那様は色々な女の方に手を出されているのですね。」


「そうですよ、気を付けてくださいね。

 寝室にも忍び込まれますし、見ず知らずの男に抱かせられてそれを見るのも趣味ですよ。」


「えっ、そんなこと……恥ずかしい……」



 レダは俺の考察を的確に指摘し、ツィタが体を手で体を隠しながら顔を赤くして俺のことをチラチラと恥ずかしそうに見た。



 その後甲板に戻り、風に当たりながらレダの尻を揉まされる。



「来たか。」



 俺は水平線をわずかに揺らす黒いもやを見つめた。



「魔物ですか?」


「ああ。」



 レダはさっと俺の手を放して仕事モードに入った。

 


「えっ、何も見えませんが。」


「あの水平線あたりだ。

 数は500はいそうだな。」


「ようやく暇つぶしができそうですね。」


「ずっと船の上で暇だったんだよ。」



 リナとラケーレが何かを感じて出てきた。



「あの……私本当に傷を負った人にその……飲ませてあげるんですか……」



 エリクサー担当のカルメラが恥ずかしそうに俺の袖を引っ張っている。



「サトウ様!何か出たんですか!」



 モアナが俺に抱き着いてきて、その後ろにグリゼルダが立つ。



「この船は私の障壁を張りましたのでもう安心ですよ。」



 ルーカスがにょきっと木の床から生えてきた。

 船のはるか上空には顔色の悪いアリオクがいるだろう。

 見えないが。


 水平線に見えていた魔物は水平線から海を黒く染めるようにこちらに向かってきた。



「あの、私の魔法を使わせてもらってもいいですか?」



 俺が亜空間から金属製の弓を取り出して構えようとすると、ツィタが申し出てきた。



「あぁ、いいぞ。

 やってみろ。」



 俺は弓を一旦下ろしてツィタを見守ることにした。

 船まで迫られても俺の弓とルーカスの障壁があれば大丈夫だろうと踏んでいる。

 ツィタはエルフの特徴通り、膨大な魔力量を持っていたことには気づいていた。


 ツィタは両手を結び魔力を練る。

 少し暗くなってきた。



「あれっ雨雲?」



 ルチアが空の異変に気付きだした時には一体の空一面が黒く染まり竜巻が発生しだした。



「これ……ツィタの魔法なの?」



 ルーカスの障壁で甲板の上は安定しているが、高波と荒れ狂う竜巻が魔物を襲っていた。

 竜巻は雨雲を巻き込んでいくと雷を帯び真っ黒な竜巻がビカビカと光っている。


 海面にいた魔物は掃除機に吸われるように竜巻に巻き上げられている。

 魔物は上空から放り出されたあと、雨のように降ってきて海面に叩きつけられた。


 海面は黒焦げになったサハギンやマーマン、クラーケンなどの魔物がぷかぷかと浮いている。



「だいぶ魔力使っちゃった♪」



 舌を出して振り返ったツィタに反応できる者はおらず、全員が唖然とその舌を出す可愛いエルフを傍観するしかなった。

 

 その後、暇だから自分達も相手をさせろと言ってきたので魔法などの遠隔は数を減らす程度にし、近づいてきた魔物をモアナ達近接陣が倒していった。



「カルメラ。」


「はいっサトウ様。」


「すまないが傷を負ったからエリクサーを頼む。」


「えっ……傷なんて……きゃあああああ」



 俺は有無を言わさずカルメラの服を開けさせ、たわわな乳房に高濃度の魔力を流した。

 カルメラは立ちながらつま先立ちになって足をがたがた震わせながら乳房から白いエリクサーを噴き出した。




「サ…サトウ様……あぁぁっ………恥ずかしいです……あああああ……」



 周りから白い目で見られながら涙目のカルメラからエリクサーを飲み続けた。


 その後、3人づつが交代して魔物に対応することになった。

 今はリナ、ルチア、モアナが担当だ。


 リナは遠距離から広範囲の雷魔法を放ち、海面全体が帯電しているようだ。

 その反対ではモアナが聖剣を取り出して光魔法と組み合わせた斬撃を水平に飛ばして魔物を真っ二つにしている。

 二人は傷を負うことなく余裕そうに迫りくる魔物を討伐している。

 回復担当のルチアはたまに二人の体力を回復させる魔法をかけているが基本暇なようで俺と一緒に二人を甲板から眺めていた。



「サトウ様、勇者たちはどうしているですか?」


「あぁ、あいつらはまだイデンで準備しているよ。」



 イヴァがオスカル達の動向を監視している。

 資材や兵集めなど、まだ準備をしているところだった。

    

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