第10話 毒系幼馴染
「クレアちゃん、ふっかーつ!!」
大食堂に緑髪の少女の声が響き渡る。
少女はその勢いのままバイキング形式の食堂で山盛りのベーコンを取り、フォークを突き刺しガツガツと食べだした。
「や、病み上がりなのに凄い食欲だね……」
引き気味にそう言い放ったのは紫髪の男子。
身長は180cm以上あるが、糸目で、体の線が細く、ヴィンセントやロアンに比べるとやや頼りない風貌だ。しかし顔つきは端正で、その笑顔は自然且つ見る者の心を一瞬で溶かすほど和やかだ。錬金術師のローブを纏っている彼はクレアの幼馴染で同じ錬金術師のシグレットである。
癖だらけの髪と右目だけに装着された片眼鏡が特徴的だ。
「食べなきゃ元気でないからね!」
「そんだけ食べたら逆効果よ」
級友のエマが
エマとシグレット、2人は
そしてもう1人、
「ちょっと! もっと上品に食べられませんの!? こちらまで食べかすが飛んでますわ! まったく、これだから平民は……」
金髪の麗人、エヴァリーである。
クレアはベーコンを口に咥えながら、
「なんであなたがここにいるの? エヴァリー?」
「話があるとさっき言ったでしょう!」
「それって僕たちが聞いても大丈夫な話?」
シグレットが問う。
エヴァリーは「ええ、別に構いませんわ」と相槌し、
「あなたに感謝の意を示しますわ。クレアさん」
「なんと」
「3日前、あなたがヴィンセント様と話した時から、あのお方の意識が変わりました。努力を怠らず、わたくしの指示も聞くようになりました」
そんなの当たり前だけどね、とエマは呟く。
「今のあの方は修羅のよう……すぐにロアンより優れた騎士になるでしょう。わたくしが言いたかったのはそれだけです。では」
エヴァリーは空になった食器を持って立ち上がる。
クレアはエヴァリーの背を目で追って、
「えーっと、感謝風パートナー自慢?」
「そうみたいだね。最初クレアがペアを組み直すって聞いた時はどうなることかと思ったけど、どっちのペアも上手くいってるみたいで良かったよ。組み直して正解だったね」
「結果的にはね~。色々大変だったんだから!」
「提案なんだけどさ、僕たち3組でパーティを組まない?」
シグレットの提案にクレアは首を傾げる。
「パーティ?」
「この3つのペアで一緒に行動して、狩りとか採取とかしよう、ってことでしょ?」
「あ、そういうことね。いいねソレ! 面白そう!」
「それじゃ決まりだね。次の休みに樹海に入ろう。目標は
体長4メートルもあるCランクの魔物である。特徴はその硬い体。一角獣の角を加工した剣でさえ、その体を裂くことはできない。
「
「僕が
「さすがシグね! 私の幼馴染だけあるわ」
「お褒め頂き光栄です。あ、クレア、口元にミルクついてるよ」
シグレットがハンカチでクレアの口元を拭う。
「ん! ありがとシグ」
異性に口元を触られたというのにクレアは一切動揺の色を見せない。それはクレアがシグに対し、兄弟のような感情を持っているからだ。
一方のシグレットは笑顔を浮かべるものの、その笑顔は珍しくどこかぎこちない。
「それじゃ私、ロアンに今の話してくるから! またね!」
クレアが大食堂を去る。
シグレットはクレアの背中が見えなくなるまで手を振った。
「それで、なんのつもり?」
エマが冷たい声色で聞く。
「なんのつもりって、僕はただみんなと仲良くなりたいだけだよ。幼馴染の君やクレアのパートナーとは知り合いと思っていた」
「嘘ばっかり。溺愛するクレアが他の男とつるんでいるところなんて見たくないはずでしょ」
シグレットは笑顔を解き、
「溺愛は言い過ぎさ。確かにクレアとは長い付き合いだ。彼女のことを
眼鏡の奥の瞳が黒く輝く。
「もしもクレアに相応しい騎士じゃなかったら?」
エマの問いを聞いたシグレットは明後日の方を見た。
「実は最近ね、一口で一日中腹を壊す下剤を開発できたんだよ。ちょうど
ふふふふふ、と不気味な笑い声を発するシグレット。
このクレコン(クレアコンプレックスの略)が暴走したら自分が止めねば。とエマは思った。
――――――――――
【あとがき】
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