第39話 義妹とデートを
翌日、小型艇を飛ばして二時間、おれとメイシェラは首都にたどり着いた。
惑星フォーラⅡで最大の都市である首都は、相変わらずの賑わいだ。
まあ、エルフを除くこの星の人口のほとんどがここに住んでいるわけだからね。
エルフも種族全体の二割がこの首都に住んでいるんだから、たいしたものである。
そんなわけで、行き交う人混みの中にはエルフの姿もけっこう見かけた。
といっても特に街中で魔法を使うわけでもなく、リターニアがよく使うような杖型の発動体を所持している者もいない。
魔法は禁止なのかな? そのあたり、よくわからないんだよね。
とりあえず、まずはメイシェラに従い、買い出しに精を出すことにする。
「兄さん、兄さん。こっちです!」
とやたらテンション高く動きまわる義妹を微笑ましい気持ちになって目で追いながら、大型デパートで、なぜか値上がりしている生活必需品やら何やらを、おれたちを追尾してくる買い物籠ドローンに放り込む。
最後に端末で支払いをすれば、あとはドローンが勝手に小型艇まで運んでくれるという寸法だ。
大型デパートは、このへんが楽でいい。
小型店をまわるのもまた別の楽しみがあると義妹は主張するが、おれはこういうの楽で早く済む方がいいよ……。
「兄さんは、何か欲しいものがないんですか。服とか買っていきましょうよ」
「いや、別にいいよ。服はいざとなったら現役時代のもの着るし」
「家で軍服はちょっと……」
うん、ごめん、それはさすがにナイかもしれない。
家の中でくらい好きな服を……と言いたいところだけど、最近はリターニアとホルンが入り浸っているからなあ。
最近、というかこの星に引っ越してきた当初からだったわ。
あいつらずっと、おれの家を我が物顔で闊歩してたわ。
いいんだけどね、別に嫌じゃないし、メイシェラの顔も明るいし。
いまはアオイもいるし。
ちなみにアオイは、今日は留守番である。
ホルンとリターニアが相手をしてくれているはずだ。
ホルンは、昨日、アオイを連れ戻してから、やたらと彼女に構うようになった。
いや、以前から構ってくれてはいたのだが、なんか昨日の夕方からはべったりって感じなんだよなあ。
竜の”繭”を使う彼女を、自分の子どもみたいに……というか、保護者になった気分なのかな?
そのあたりを聞きたいところではあるが、何ごとにも順序というものがあって、それはいまではない気がしていた。
「わかりました! わたしが兄さんの服を選びます!」
「ええ……」
「何でそんな、嫌そうな顔をするんですか!」
「いや、絶対に着せ替え人形にされるパターンだから」
「おとなしく着せ替え人形になってください!」
「だったらアオイを連れてくればいいだろ!」
「あの子は後日、着せ替え人形にします!」
堂々と宣言された。
アオイの服は現在、だいたい体格が同じであるメイシェラのお古である。
今日、そのアオイを連れて来なかったのは、あくまでもメイシェラがおれとふたりのデートを、と主張したからだ。
最近、ふたりきりで穏やかな時間、というのがなかったからな……とおれは承諾し、リターニアとホルンも「たまにはふたりきりで」と快く送り出してくれたのである。
そういうわけで、まあ、今日ばかりは彼女のわがままを聞いてやりたいところなのだが……。
服かぁ……仕方がないなあ。
「三十分だけだぞ」
「一時間! 一時間だけです!」
「……四十分!」
熾烈な交渉の末、四十五分間、おれの服探しが行われることとなった。
結論から言うと、とてもとても疲れた。
※
ふたりでランチを取ったあと、帰るまでの間、自由行動となる。
これはおれが総督府に挨拶に行くためだ。
いやさあ、これだけお世話になっていたら、一度こっちから顔を出すべきじゃないですか、そうは思いませんかね、とメイシェラを説得したところ、「義理を通すことは重要ですね」と納得してくれたのである。
総督府の受付でおれの名前を告げると、係の者はすぐに直通エレベーターへ案内してくれた。
前回来たときより、受付の混雑はマシになっている気がする。
新総督の改革は上手くいっている様子だ。
エレベーターで百階まで上がり、総督のオフィスに入る。
そこには、見慣れた中年男と、そしてもうひとり帝国軍の軍服を着た若い女性がいた。
金髪碧眼の、目が覚めるような美人だ。
冷たいその表情が、おれの顔を見て、氷が溶けるように微笑んだ。
少し、驚く。
彼女がここにいるのはちょっと予想外だ。
「待っていましたよ、閣下」
「いまはもう閣下じゃないよ、イスヴィル中佐。出世おめでとう。まあ、いまのおれは、ただの一般人だよ。この会話、いろいろな人とやったんだよねえ」
「わたしたちにとっては、未だにあなたは閣下です」
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