第29話 環境テロリスト迎撃作戦(5)
おっとり刀で駆けつけた警備隊は、全長百メートルの駆逐艦が二隻、小型機が五十機というそうそうたる陣容だった。
というかだいぶ多いな?
惑星警備隊の旗艦は重巡洋艦で、ぜんぶ合わせて十五隻くらいだった気がするから……。
総督は、この短時間で投入できる限りの戦力をこの地に派遣してくれたということになる。
その大戦力が到着する前に勝負はついていたんだけどね。
とはいえ彼らが駆けつけてきてくれたからこそ、逃げた環境テロリストたちの捕縛や、おれに降伏した者たちの拘束と移送も簡単だったわけで、感謝の言葉しかない。
生き残った彼らには、重い刑罰が下るだろう。
おれとしては、こいつらが二度とショバに出て来なければ、それでいい。
で。
環境テロリストたちの狙いであったジミコ教授であるが……。
「教授、よくも会議を放り出して、勝手にこんなところまで逃げてくれましたね」
「逃げたわけじゃないよ。ただちょっと、どうしても会いたかった弟子がいてね。あとついでに、
「はいはい、言い訳は船の中で聞きます。帰りますよ」
屈強な護衛を数名連れた若い男が警備隊と共に現れ、嫌がるジミコ教授をさくさくと拘束すると輸送機に乗せた。
どう考えても、脱走した教授を捕まえたことが一度や二度ではない手際である。
「助手の方ですか」
「はい、閣下」
だから、もう閣下じゃないんだって。
「このたびはうちの教授がたいへんご迷惑をおかけしました。お詫びについては後日、必ず。いまは大学の重要な会議をすっぽかしたこの方を椅子に縛りつけてでも帝都に連れて帰ること、優先させてください」
「あ、はい。えーと、おつかれさまです……」
教授、重要な会議をすっぽかして来てたのかよ。
この人がこれで大学の重鎮であることは知っていたけどさあ……。
なにせ業績がでかすぎるので、役職につけるしかない状況らしいのだ。
彼女でなければできない差配というものが存在するそうで……。
責任のせいで迂闊に動くこともできない状況はご愁傷様だが、だからといってそれをほっぽり出して旅に出るのは青春とか言える時期までにして欲しいところである。
おれが何度、責任から逃げて逃避行に出たくなったことか……。
現在は、ドロップアウトして気ままな生活なんですけどね。
その気ままな生活に、なんでこんな血と硝煙の臭いが混じってくるんですかね……。
※
エルフたちの損害は、幸いにしてほとんどなかった。
数名が倒壊した樹木の下敷きになったり、転んで足をひねったりした程度である。
下敷きになった、と言ってもバリアで身を守ることはできたらしいので、入院する必要もないほどのかすり傷だ。
正直、今回の作戦における最大の懸念点はここだったので、心から安堵した。
リターニアも、少しの間気絶しただけで、外傷はない。
レーザーを自前のバリアで受け止めた際、”繭”から流れてきた強い衝撃にノックアウトされてしまったのだという。
「あれほどの衝撃とは、思ってもみませんでした。精進あるのみ、です!」
とたいへんに前向きである。
初めての戦闘で、怯えることなく前に出ることできるというのは、これは才能だろう。
新兵なんて怯えて漏らしてなんぼだからね。
なおメイシェラと何やらごしょごしょ話したりしていたのは、見なかったことにする。
で、そのエルフの皆さんは、引き続きこの屋敷を警護したいと申し出てきたのだが、それは丁重にお断りした。
厄介ごとを持ってきた教授も帰ったし、もう大丈夫、と説き伏せる。
そんな彼らも、屋敷からホルンが出てくると、緊張でガチガチになってしまった。
竜だもんなあ、と呑気にその様子を眺めていたところ……。
「ゼンジさまは、どこまでも自然体でいらっしゃいますね」
とリターニアに呆れ半分、褒められ半分の言葉をかけられた。
まあおれの場合、
「皆のもの、大義であった。以後も、ゼンジの求めがあれば手を貸してやって欲しい。これは竜としての願いである」
ホルンは最後にそう言って、エルフたちを王国へ帰還させた。
エルフたちは竜に『お願い』をされて、感涙にむせび泣き、喜んでいたから……まあ、いいのかな。
おれから彼らに手助けを求めることなんて、たぶんもうないと思うんだけど……。
それはあくまでも、彼らを帰すための方便なんだろうな。
「助かったよ、ホルン。このまま屋敷の周囲に駐屯所とかつくられたら、どうしようかと思った」
「うむ、われもそれはさすがにちょっとな……。彼らが面白い奴らであることは、よく知っているのだが。プリンを取られかねん」
それはたぶん、大丈夫だと思うよ……。
それはそれとして、メイシェラがよかれと思って彼らにプリンを提供するとかはありそうだけど。
警備隊による現場検証などで、数日はこのあたりも騒がしいことになるという。
これは仕方がないことなので、「よろしくお願いします」とだけ頭を下げておく。
現場レベルの人たちの邪魔をしちゃいけない。
これは軍にいたころ、身に染みて理解させられているのだ。
「ホルン、リターニア、それからメイシェラ。何なら、数日、どこかへ出かけようか」
ふと、旅行を思い立った。
どうせなら、この地におれたちがいない方が、警備隊の方も楽かもしれないなと思ったのである。
「素敵ですね、兄さん!」
メイシェラは乗り気で、ホルンとリターニアも悪い気はしないようだった。
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