私が理想の天使になります!

詞音れもんちゃ

プロローグ

「将来ですか?私は...カウンセラー?心理士?みたいな...」


 将来のことを聞かれると、思わず私はこう返していました。私は人の話を聞くのが得意だと思っていますし、相手の悩みをいとも簡単に解決できるスーパーカウンセラーの卵だと信じて疑いませんでした。私は人を救うために生まれてきた。そう信じて...


「お!じゃあ、あすみちゃんは先生と同じ道を行くわけだ!応援するよ~」


 私は人を救う人間なんです。だから


「最近はどう?睡眠はよくとれてる?」


 私は救われる側の人間ではないんです。


「薬は前回と同じ量出しておくね」


 だから、私がここにいるのはおかしいんです。そう、私は下見をしてるんです。公認心理師の資格を取ったら、きっとこういうところでお仕事をするはずなんです。だから社会見学のようなものです。私は精神科医の知識だってあるんです。動画投稿サイトでユングやフロイトのことについて学んだりしているんです。統合失調症や強迫性障害、発達障害の動画だって見ています。将来を約束されたようなものです。


「あ、はい...」


「それじゃあ、またね~」


 スライド式のドアを閉めると安心感で胸がいっぱいになります。あそこはいつも胸が詰まります。受付のお姉さんと目があいました。私の前髪は長いですから、きっと表情は見られてませんよね?

 斜め下を見ながらそそくさとソファに移動します。心療内科で唯一、安心できるのがこのソファです。座るとぷす~と空気が抜けて面白いのです。薬...処方箋をもらいましたが、薬は貰いたくありません。飲みたくないんです。私は病気なんかじゃない。だから、こんなものに頼らなくたってきっと大丈夫。だって私は凄いんだから。とっても、とっても凄いんだから。

 処方箋は誓約書のように思います。なんだかとっても重たいんです。こんなに重たいものがさらに重たい薬に変わります。どれが何の薬なのか毎度、丁寧に教えてくれる薬剤師さんに気まずさを覚えます。薬剤師さんはいつも私の変化に気づいてくれます。薬の配合やらで大変でしょうに。私は惨めになるだけです。

 薬が入ったバッグは重たく、足が上手く上がりません。一歩一歩が鉛玉のようです。地面がぬかるんで、ずぶずぶと足が沈んでいきます。私を慰められるのは私しかいません。だから、ドーナツを買って帰りましょう。ドーナツを十個、買って帰りましょう。そうして、私は誰よりも幸せになりましょう。

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