燗酒

第2話

燗酒の楽しみ方

身体がポカポカあたたまる、美味しいお燗をつけるには

飲み方・使い方を知る - 酒のたしなみ方


冬の寒い日など身体を温めたい時に、燗はぴったりの飲み方です。美味しい燗をつけるには、湯煎(ゆせん)をおすすめします。湯煎にすると徳利の中の酒が全体的にゆっくりと温められるため、味を損なうことなく旨味が引き出されます。陶器や磁器の徳利で酒を温め、やや広口の酒盃で飲むと、いっそうおいしく感じられます。

酒を温めることで、常温では感じにくかった甘味や旨味が引き出され、味わいを感じやすくなります。「甘さ」は人間の体温の35度ほどで最もよく感じられます。旨味のもとになる「アミノ酸」は温度が高くなるほどよく感じられます。




燗に適した酒


熟成香が少しあり、味がまろやかなタイプの酒が燗によいとされています。例えば味わいの深い「味吟醸」、夏越しの「ひやおろし」、長期間貯蔵熟成させた「古酒」などです。これらの酒を燗すると、味わいを引き立たせ幅を持たせるので味や香りがよくわかり、熟成した旨味を楽しめます。 逆に、フルーティーで淡麗な「吟醸酒」やフレッシュさが特徴の「生酒」を燗すると、香りがつんつんし、味はピリピリと舌を刺激するなど違和感があるかもしれません。吟醸酒のような高級酒は50度を超す「熱燗」(あつかん)にしてしまうと、淡麗で繊細な持ち味が台無しになってしまいます。「人肌燗」(35度)から「ぬる燗」(40度)あたりの低めの温度にするか、冷やしてその微妙な風味を味わって下さい。

▲中央に煙突がついた湯煎式酒燗器。酒燗器の下に炭火を入れ、円筒の中の湯の温度を保つしくみで、把手付きの酒タンポを温水槽に浸して温める。高さ 73cm、直径 35cm、月桂冠・蔵




燗の温度


「日向燗」(ひなたかん、30度)、「人肌燗」(35度)、「ぬる燗」(40度)、「上燗」(じょうかん、45度)、「熱燗」(50度以上)と、燗には温度帯ごとにいくつかの段階があります。燗のつけ加減ひとつで、同じ日本酒でも味わいはがらりと変わります。

酒の燗は、熱くしすぎないことがポイントです。美味しい燗ができる温度として45度ほどの「上燗」をおすすめします。吟醸酒や古酒(長期熟成酒)を温める場合は、人肌燗(35度)、ぬる燗(40度)あたりの低めの温度帯をおすすめします。




お燗のつけ方


湯せんの場合


鍋に湯を沸かし、いったん火から下ろします。酒を注いだ徳利を肩まで浸け、温度計で測りながら酒を温め、好みの温度になるまで待ちます。徳利の底で加減を見ることもできます。徳利の底に手が触れることができるぐらい、約45℃の上燗が適温です。ただし、確認される際には火傷などされないようにご注意ください。それを目安に「ぬる燗」「上燗」「熱燗」と、好みの燗具合をみつけてください。直火にかけられるポットを使えば、小さめの徳利でも簡易に燗がつけられます。湯せんによる燗では、徳利ごと温めるため酒が冷めにくく、目的とする燗の温度を保つことができます。


電子レンジの場合


電子レンジで酒を温めることも可能ですが、長時間の加熱や再加熱により徳利が高温になり、やけどの恐れや、酒が突然噴き上がる突沸(温まりすぎた酒が小さな衝撃で突然沸騰する)現象が起こり危険です。加熱時間には十分ご注意ください。

電子レンジの使い方により突沸が生じることについて、独立行政法人製品評価技術基盤機構では、「調理中の突然沸騰(突沸)による事故の防止について」として注意喚起を行っています(末尾の参考文献の欄に引用)。

また、次の点にもご注意ください。


・カップ酒を電子レンジで温める場合、ふた・キャップは必ず外してください。

・徳利に入れる酒の量は肩口ぐらいまでにしてください。温めることにより酒の体積が増え、徳利からあふれ出ることがあるためです。




燗酒のよさ


古老によると「昔は団扇(うちわ)をパタパタしながら、夏でも燗酒を飲むのがあたりまえだった」といいます。江戸時代、貝原益軒は著書『養生訓』の中で、「腸を助け、気を巡らす」「酒は夏月も温なるべし」と燗酒をすすめています。燗酒で体が温まることによって内臓の働きが助けられ、気持ちを落ち着かせてくれることを示唆しています。

燗酒は適量飲酒にも向いています。体温に近い人肌(35度)程度の温かさでは、アルコールが体内で早めに吸収されるため酔いも早めに感じられ、飲む量を適度におさえることができるからです。 さらに、酒を温めるという少々の手間をかけることにより、もてなす人の心遣いが伝わってきます。身も心も温まる燗酒をぜひ味わってみてください。

▲居酒屋・飲食店で使われた酒燗器。左横に突き出た入り口から酒を注ぎ、胴部の温水槽に巡らした蛇管の中を酒が流れるうちに燗ができる仕組み。温められた酒は左側の蛇口から出てくるようになっている。製造元は「木村酒類用品店」とあり、「東京市」の文字も見える。「東京市」は1889年(明治22年)に発足し1943年(昭和18年)までその名があった。少なくとも昭和18年以前に作られたものだと推定される。 高さ 57cm、横幅(外寸)55cm、胴体直径 27cm、月桂冠・蔵。




なつかしの酒燗器


酒の温まり具合を確かめながら、ちびり、ちびり。マイペースで楽しめて、心身をよみがえらせてくれる燗酒。酒を温めるさまざまな工夫を凝らした道具類のうち、ここに紹介するのは湯煎(ゆせん)式の酒燗器です。湯煎による燗酒は、沸かした湯を通して間接的にゆっくり温めるため酒の味を損なわず、おいしい燗がつけられます。いずれも明治時代から昭和初期頃に使われていたもので、銅板を加工して作られています。

▲燗銅壷(かんどうこ)。炭火で両側の温水槽の湯の温度を保ちながら燗がつけられる。胴部の取っ手の下には月桂冠の前身、笠置屋(かさぎや)のマークが記されている。 高さ(やかん含む) 35cm、幅 53cm、月桂冠・蔵

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