第27話 弱点

 失われた家族を取り戻す方法。


 それを聞き出すのはあとだ。まずは……目の前のベロニカさんを拘束しなければならない。この調子で暴れられたら全滅だ。


 アマリリスのほうはサザンカさんに任せよう。フィオーレもいるし、心配しなくてもいいだろう。


 狙うは短期決着。ローズさんが帰ってくるまではまだ時間があるだろうし、なによりパドマの体調が心配だ。のんびりしている暇はない。


 ベロニカさんが誰か俺以外の2人に重力能力を使っているときに、俺がベロニカさんとの距離を詰める。


 そうすると今度は俺に重力がかかる。ならばその間に重力画から解き放たれた誰かが距離を詰めていく。


「良い連携だ」ベロニカさんは余裕の表情で、「ライラックとナナはともかく……パドマまで連携できるのは意外だな」

「……?」パドマは首を傾げて、「失礼……ちょっと意識が朦朧としてまして」


 聞き取れなかったらしい。いよいよ早期決着が望まれる。


 しかしベロニカさんは続ける。当然俺達は距離を詰め続けるが、ベロニカさんはまだ余裕たっぷりだった。


「主人公パドマの正体は、結局ゲーム終了まで明かされることはない。しかし……おそらく人間ではない」……人間ではない……? 「幽霊、狼。いろいろな説があるが、どれも確証はない。裏設定ですらない、プレイヤーの妄想なのだろうか」

 

 何の話をしているのか、まったく理解できない。


 ……


 理解はあとだ。捕まえて拘束したあとに聞き出せばいい。


 俺は言う。


「喋ってると舌を噛むぞ」

「心配してくれるの? ありがとね、ライ坊」


 だから似てねぇんだよ。声だけは本人そのものだが、イントネーションが違いすぎる。


 戦闘が再開される。遠距離では話にならないので少しずつ距離を詰めていくのだが、あと少しのところでヒラリとかわされる。


 相手は無限に空を飛べるようなものだ。追い詰めることなどできない……と思っていた。


 だがどうやら……無敵の能力ってわけじゃなさそうだ。


「お兄ちゃん」ナナも同じ弱点に気づいたようで、「ちょっと時間、稼いで」

「了解」

「うん。パドマさんも、お願い」


 そう言って、ナナは屋敷の中に入っていった。なにを取りに行くのかは知らないが、ナナならば有用なものを持ってきてくれるだろう。


「……なにを企んでいる?」ベロニカさんが言う。「2人になれば、すぐに決着はつくぞ?」

「そうかな? そっちの能力の弱点は、わかってきたぜ」

「……弱点? そんなものはない」

「アンタが知らないだけだよ」


 おそらく彼女は能力を使って戦うのが初めてに近い。だからこそ能力を試しながら戦っている。


「面白い。見せてみろ」


 ベロニカさんが俺に手のひらを向ける。


 能力が発動される瞬間、俺は上着を脱いで前方に放り投げた。できるだけ面積が大きくなるように。ベロニカさんの手のひらと、俺との間に障害物を置く。


 すると、


「やっぱりな」上着が地面に叩きつけられた。「目標との間に障害物があれば、それをすり抜けることはできない。それが弱点その1だ」

「だからなんだ? もう一度、ここからお前を狙えばいい話だ」


 まったくもって正論だ。そりゃ俺の服がある限りは防げるかもしれないが、最後には全裸になるだけだ。なんの解決にもならない。


「他の弱点は、すぐに教えてやるよ。見つけた弱点は、あと2つだ」

「どうせくだらない弱点だろう?」

「どうだろうな?」


 俺は会話をしながらベロニカさんの注意を俺に向けていく。


 ベロニカさんの背後からナナが近づく。そしての射程距離まで近づいて、一気に攻撃を放つ。


 背後からの奇襲。これで決まれば楽だったのだが、

 

「私が背後を警戒しないとでも?」ベロニカさんは振り返って、その攻撃に向けて重力を放つ。「……釣り竿……?」


 そう。ナナが持ってきたのは釣り竿だった。その釣り竿の糸と針を投擲して、ベロニカさんに攻撃をしていたのだ。


 ベロニカさんは首を傾げて、


「……そんなものが攻撃になるとでも思ったか……?」


 通常であればそうだろう。だが……俺はナナの意図をすぐに理解した。


 重力を受けた釣り竿の糸は、すぐに地面に撃ち落とされた。


 それだけではなく、


「げ……」その釣り竿を持っていたナナにも重力がかかっているようで、「……なるほど……重力がかかったものに触れているもの……それにも重力が加算されるのか……」


 釣り竿に重力を加算すれば、それを持っているナナにも加算される。


 そうだろうと思っていた。そうじゃないと服だけに重力がかかって破けてしまうだろううから。


 必要な情報は手に入った。そして道具も揃った。


 こっから反撃開始だ。

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