第12話 お金持ちなの?
さて食事の後片付けを終えて、今後についてナナと話し合おうと思って屋敷内を探し回っていると、
「ナナ様ならお出かけになられましたよ」
ローズさんにそう声をかけられた。
「……どこに行ったか、わかります?」
「釣り道具を持っておられましたので……おそらく川ではないでしょうか」
「……なるほど……」
……
川釣りか……今すぐ会いに行きたいところだが、今のギンを放っておくのも問題があるかもしれない。
仕方がない。ナナが帰ってくるまで待つか。そう結論付けた瞬間、
「ご安心を。今の屋敷には私とサザンカさんがいます。大抵のことには対処できるかと」……まぁ筆頭はその2人だよな。「ロベリアさんもアマリリスさんも、フィオーレさんもいます。ご主人様もおられますし……ギンのことは、しっかりと見張っておきます」
そうしてくれるとありがたい。ギンは俺以外には手を出さないと言っているが、どこまで信用できるものか。
ともあれ、ローズさんの言うことなら信頼できる。ナナだって、この人たちが残っているから屋敷を出たのだろう。
「そういうことなら……お昼までには戻ります」昼食当番も俺だ。それまでには戻らないといけない。「じゃあ……ちょっと出かけます」
「承知しました。屋敷のことはお任せを」
「……ありがとうございます……」
お互いに頭を下げてから、俺は屋敷を出た。
☆
今日は雲の多い空だった。どんよりとした空気が俺の体を包み込む。別に不快ってほどでもないが、なんだか嫌な予感が増幅された。
「……一雨、来るかもな……」
誰ともなくつぶやいて、俺は下山を開始する。
ロベリアの屋敷は小さな山の山頂付近に存在する。なんでそんな不便なところに家を建てたのかは不明だ。数代前の当主が勝手にやったのだ。俺のせいじゃない。
とはいえ俺はこの環境を気にいっている。屋敷外の人間に会うには下山しないといけない。つまり騒音被害やご近所づきあいもない。ある意味では理想的な環境だ。
……
まぁ買い物をするのも情報収集をするのも、下山というステップを挟まないといけないのだが。それは不便である。一長一短だな。
さて静かな山をのんびり降りていくと、少しずつ子どもたちの声が聞こえてきた。
山を降りた場所にはロベリア家が管理している公園がある。数代前の当主様が子供好きで、すぐに子供たちの笑顔を見られるように、という思惑から設置されている公園だ。
さて、その公園の子供たちをなんとなく眺めていると。
「あ、ライちゃん……」1人の少年が話しかけてきた。「……」
その少年は俺をしばらく見つめてから、視線をそらした。
見るからに悩みがありそうだな……
「……どうした?」
俺は少年の隣に移動して、そう聞いた。
少年は目線を合わせないまま、
「……ライちゃんって……お金持ちなの?」
「そうなるだろうな」子供2人、メイド3人、使用人3人を養えるほどの家に生まれている。「……俗に言う辺境伯ってやつだ」
「辺境伯……?」
「ああ。この近くに関所があるだろ? デカい壁と、扉。俺のご先祖様は戦争中にあそこを管理するために、ここに来たんだと」
無能だから辺境に来たわけじゃない。国境にある関所の守りを任せられると判断されたのだ。俺はそう思っている。
俺はその子孫になるわけだ。
実は俺自身もその関所をくぐったことはなかったりする。というかこの場所から遠くに離れたこともない。家から出たこともない世間知らずのボンボンである。
とはいえ……
「まぁ戦争なんて、とっくの昔に終わってるからな。今は国外に行くのも、国外から来るのも歓迎する世の中だ。関所なんてほぼ役に立ってない」どこからでも国を出られるし、どこからでも入ってこられる。「一応、辺境伯って肩書きは残ってるが……中央での発言権はほとんどない」
没落貴族と呼ばれる日も遠くない。というか呼ばれ始めている。
「んで……それがどうした?」
「……お母さんが……」少年はたっぷりと間を取ってから、「あそこの家の人達とは遊んだらダメだって……」
……
……
なるほどねぇ……
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