第7話 乙女に年齢を聞くのは野暮でございますぜ

「ごめんね、シケた話をしちゃって」サザンカさんはいつもの笑顔に戻って、「準備できたし……さっさと食べようか」

「……そうですね」


 それから俺達は2人で朝食を食堂まで運んだ。


 通称で食堂と呼ばれている場所。屋敷の中のほぼ中心に位置する部屋。大きなテーブルが1つあって、取り囲むようにイスが並ぶ。余計な装飾は見当たらないシンプルな部屋。


 ロベリア家に住む人間は、ここで食事をする。親の方針で食事は常に同じ時間、同じ場所で食べることになっているのだ。


 もちろん事前に連絡があれば他の場所で食べることも可能である。あくまでも一緒に食べたいという希望であって、強制ではない。


 俺とサザンカさんが料理をテーブルに並べていると、


「おはよう、お兄ちゃん」妹のナナが寝ぼけた表情で部屋に入ってきた。「ああ……いい匂い……」

「でしょ?」サザンカさんが明るい表情で、「そりゃボクとお兄様の愛情がてんこ盛りだからねぇ……当然、世界一美味しいでございますよん」


 ……変な口調だなぁ……


 しかし……ナナとサザンカさんは相変わらず仲が良い。というかサザンカさんにかかれば、どんな無愛想なやつでも一瞬で友達になる。


 次に、


「おはようございます」メイド長のローズさんが深々と頭を下げて入室してきた。「本日も良い一日になりますよう……心から願っております」


 ローズさんは毎日その言葉を言う。理由は知らないが……なんとなくのルーティーンなのかもしれない。


 次に部屋に入ってきたのは、


「どもども~」軽い挨拶で金髪のメイドさんが入ってきた。「あ……今日は白米と味噌汁? 朝からテンションがアガっちゃうねぇ」  


 金髪ガングロギャルのベロニカさん。とにかく元気で……たまに何を言っているのかわからないが、彼女と接していると元気がもらえる。そんな人。


「ベロちゃん、うぃーっす」サザンカさんがベロニカさんに合わせたあいさつを返して、「今日のゴミ当番、忘れてたでしょ?」

「あ……マジ? 今日だっけ?」

「そうそう。代わりに出してくれたから。お礼、言っときな」


 ベロニカさんの代わりにゴミ出しをした人。


 それだけでこの屋敷内では誰か伝わる。


 ベロニカさんはローズさんに向かってピースサインを作って、


「お姉ちゃん、サンキュ~」

「誰がお姉ちゃんですか……」血縁関係はないハズだ。「そもそも……ベロニカさん。あなたの忘れグセにも困ったものですね。メイドとして雇われている以上、仕事に責任感を持って――」

「は~い」ベロニカさんは軽く言ってから、少し真剣な表情になる。「ん……ごめん。気をつけてるつもりなんだけど……メモしても、メモを見るのを忘れちゃうんだよねー」


 ベロニカさんが真面目に頑張ろうとしているのは、屋敷の全員が知っている。しかしどうにも忘れっぽくて、気がつけば他の人が仕事をやっていることが多い。


 そのたびにベロニカさんはメモを取るのだが……そのメモの存在を忘れることもあるのだ。


 真剣に謝られるとローズさんも弱い。


「……まぁ、いいでしょう。人には得手不得手がありますからね……」誰だってできることと、できないことがあるのだ。それを補い合って生きている。「私が苦手な場面は……任せましたよ」


 ローズさんの苦手な場面。社交的で明るい場。人付き合い。


 たまにこの屋敷で他の貴族を招いてのパーティが行われるわけだが、その手の場がローズさんは苦手だ。だからそのときはベロニカさんやサザンカさんが大活躍する。


「りょうか~い。お姉ちゃん」

「……お姉ちゃんではありません……」


 ……実際……このメイド3人は3姉妹みたいなものだ。長女のローズさんと次女のベロニカさん。そして末っ子のサザンカさん。いや……ナナを含めて4姉妹?


 ……って、あれ……サザンカさんとベロニカさんってどっちが歳上なんだ? 同い年くらいなんだろうけれど……


 前に一度サザンカさんに年齢を聞いたとき『乙女に年齢を聞くのは野暮でございますぜ』と言われてから女性に年齢を聞くのはやめたのだ。


 結果として誰が歳上なのか、よくわからなくなった。


 まぁどっちでもいいか。


 ……

 

 ともあれ……


 ロベリア家のメイド3人衆。ここに集結。

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