第15話 めでたしめでたし
「めでたしめでたしってことかねぇ」
それから、あっさりと全てがまとまった。
犠牲となった貴族や使用人たちの埋葬、その後の後継者の件、騎士の欠員の補充に他国への説明なども、何かが起こるわけでもなく片付いた。
後継者争いでちょっと問題も起きたみたいだが、決闘でさくっと決着がついたらしくその話もいつの間にか聞かなくなった。
人間と半魔の二人に乗っ取られたとはいえ、さすがは大国というべきであろうか。
ちなみに、新しくエアラルの王となったのは、辺境で優雅にスローライフ王弟であるスクトゥムという男のようだ。
まだ整理のついていない様子で色々と大変そうだし、そんなときにイレーネが女王に、なんてことはないようで安心である。
まあそんな心配も必要ないだろうが。
「よし、こんなもんか」
“これは一級建築士”
“すげー”
“立派ですねぇ”
“こんな綺麗な城だったのか”
そんなこんなですべてが終わったエアラルで、グレイは雑談配信を行いながら修復作業のお手伝いをしていた。
「ありがとうございます。こんなことまでお手伝いいただき…」
「気にしないでいいよ。この程度手間ですらないし」
“イレーネちゃんかわいい”
“この娘を見るためだけにこの虚無配信を見てる”
“イレーネちゃんスーハースーハー”
変態の湧いたコメント欄を無視し、彼女と話をする。
「それじゃ、そろそろ俺は行くかな」
「本当にありがとうございました。兄の件といい、グレイ様にはお世話になりっぱなしで…」
「いんや、俺もいい刺激になったよ。こんなに色々やったのは久々だし」
「それは…」
グレイはそう言い、この数週間の出来事を振り返り、笑みを浮かべる。
心底楽しそうな、それでいてどこか哀しそうな表情のグレイに、イレーネは口を噤んだ。
「じゃ、また会おう」
「はい。また、どこかで」
そうして別れを告げたタイミングで、思い出したかのようにグレイはイレーネの元に近寄る。
「あ、そうだ。イレーネちゃんちょっといい?」
「何でしょうか?」
「えーっとな…ごにょごにょ」
「…なるほど?何かは分かりませんが大丈夫です。えー、ごほんっ」
カメラに指を指し何かを彼女の耳元で囁く。
そして…
「ここまでご視聴、ありがとうございました!チャンネル登録と高評価、よろしくお願い致しますね?」
そう可愛らしい笑顔の彼女の言葉と共に、その配信は幕を閉じた。
「良いのですか?本当の事を話さなくても」
フラフラと、カメラを手の上で転がし、まるで何事もなかったかのように生活する人々を眺めながら街中を歩いていると、後ろから少女に話しかけられる。
その誰かを、グレイは確認することなく理解する。
「いいんだよ。知らなくていいことなんて、世界には沢山ある」
「知らなくていいことですか。人間とは、その言葉が好きですよね」
「ん〜…?好き…まあ、結構使う人多いか…?」
「…知る権利は、あるのでは?」
「権利はあるかもね。でも、そんなこと知ったこっちゃないよ。これが一番ハッピーエンドだって俺が判断したんだから、これ以上何かをするのはナンセンスってわけ」
軽く笑いながら、肩をすくめそう話すグレイに、ユノは困惑する。
「はっぴーえんど…?なんせんす…?」
「あれ?まだ横文字は教えてなかったっけ。それじゃあ説明しながら次の街まで歩こうか」
「…帰らないのですか?」
思わぬ言葉に、ユノは思わず無表情で鉄仮面のような表情を少しだけ目を見開き驚きを顕にする。彼女が知っている男は、好んで人の街を観光するような男ではなかったから。
「あぁ。俺の記憶以上に、この世界はまだまだ楽しいことが沢山ありそうなんだ。だから、ちょっとゼロから全部やってみようかなと思ってね」
「そうですか」
「あ〜…改まって言うのもなんだが、ついてきてくれるか?」
「構いませんよ。マスターは私がいないとすぐに暴走してしまいますので。それに、今後はあのような被害者を出さないためにもしっかり監視させていただきます」
「うっ…気をつけるよ…」
ジトーっという音がしそうな目でユノに見つめられ、後ろめたいのか目を逸らすグレイ。
そうして二人は、賑やかな人混みの中に姿を消した。
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以下、特に本編に関係のないあとがき
奥様聞きました?一章完結ですって。
ということで、どうにか一章描き終えることができました。くらげです。
最近忙しくて超不定期更新になって申し訳ありませんでした。ぼちぼち書きているのでこれからもたまにでいいので見に来てくださると幸いです。
イレーネちゃん視点の話は、どこかで追加したりするかもしれません。ちょっと駆け足になっちゃったかなとは思いますが、これぐらいあっさりしてたほうが読みやすいかなとも思ったり思わなかったり。
二章はもうちょっと早めに更新していきたいとは思ってます。(未定)
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