第10話 戦犯探しはやめよう!
「………あ〜、なんだ?一旦話をしないか?」
「…誰だ?」
「俺の名前はグレイ。まあちょっと特殊なイレーネちゃんの協力者だと思ってくれれば問題ないよ」
「グレイ…」
アクトくんの鋭い眼光が俺に集中する。泥のように濁った暗い紫色の瞳だ。
でも、それが逆に闇の深いイケメンという感じで様になっている。なんだろう…イケメンって得だな。
そんな全く関係のないことを考えながらも、グレイは今思うことをそのままアクトに伝える。
「いや、別にクレームとかそんなじじ臭いことするわけでもないんだけどさ…催眠ってちょっと卑怯じゃない?」
「ほう?」
「こっちもまあ人数差はあるし?ちょっと絡めてはあってもいいけどさ…流石にこのレベルの催眠だと勇気とか根性でどうにかできるもんでもないよね?」
そう。この戦い、確実にイレーネちゃんの敗北が決まっているのである。
魔術の効果は使用者の力量によって決まる。
魔力量、才能、魔術の級、そして本人の修練。
魔導具の影響で被害が増えているものの、他者の意識を曖昧にし操る、という催眠魔術自体が相当上位の魔術なのである。
そんな魔術を序盤の敵が使ってもらっては困るのだ!
「いや、視聴者はさ?催眠にかけられた王女様が覚醒して〜…みたいな展開を望んでるわけですよ。だからもうちょっと催眠魔術の出力を抑えて貰えると…」
“敵に説教は草”
“ワロた”
“テレビの音に迷惑する隣人かよwww”
圧倒的な理不尽相手は動画的にも面白くない、そう意見するのだが…
「跪け」
アクトくんは俺に向けてさらに強い催眠魔術をかける。
「うぬっ…おぉ…!?」
その言葉を聞いた途端、抵抗もできずに俺は片膝をつく。
「急に現れたかと思えばなんだ?鬱陶しい…何者かは知らんが…ここで死ね」
(意識は無事だけど…これ結構まずいかも?)
精神に影響する魔術はある程度対策を用意していたのだが、それをも貫く魔術に段々と意識が浸食されていくのを感じる。
“あれ?ピンチじゃね?”
“片膝ついてますやん”
“強キャラ感満載手魔術で敗北は草”
そんな俺を見て、コメントは俺の敗北を予想する。
「安心しろ視聴者諸君!こんな事もあろうかと…」
“お?”
“打開策あるのか!!”
“用意周到だな”
“えらい!”
そう、防御の対策もしているが、当然突破された場合に解く方法も用意しているのだ。
「じゃじゃーん!マンドラゴラから作った万能薬〜」
“お〜…お?”
“それが万能薬?”
“マンドラゴラ…の薬…?”
だが取り出したポーションを見た視聴者達は何故か微妙な反応であった。
ん?試験管に入ってるしTheポーションみたいな色と見た目なんだけどな…?
ポーションなどのファンタジーアイテムは視聴者も喜ぶと思っていたグレイは、魔術や魔剣とは違う反応に困惑する。
「およ?」
そしてその原因を探るため自分の手の方を見たグレイには…
人参のような植物が目に入ったのであった。
「ガッ…!!?!!」
耳から血が溢れ、耳鳴りとともに周りの音が小さくなる。だが、それでもその原因である叫び声は脳に直接響く。
跪いていたさっきよりも深く体を丸め痛みにもがき苦しみながら耳を抑える。
鼓膜が破れたのにもかかわらず未だに響く高音。それが止むまで、グレイは耳を抑えただ耐え続けた。
そして…
「…スゥッ」
完全に鳴き止んだ人参もどきを…
「ふんっ!!!」
グレイは全力で踏み潰した。
“え?何があった?”
“騎士が全員消えた…”
“アクトも蹲ってて草”
幸いにもマンドラゴラの絶叫があまりにも高音過ぎたためか音を認識しなかったようで、何故その状況になったのか理解できない視聴者は困惑する。
視聴者に影響が出なかったのは不幸中の幸いだ。もし聞こえていたら向こうで集団ヒステリーみたいなことになっていただろう。
現状がどうなっているかを回復しながら把握し、とりあえず現状を説明する。
「あ〜…ちょっ…とポーションじゃ…どうにもならなそうだったから…裏技を使った…だけだ…」
“え?でもポーションって言ってたよね?”
「…全員の催眠を…トクホウホウヲオモイツイタカラタメシテミタダケダヨ」
“なんか棒読みじゃね?”
「ソンナコトナイヨ?」
声は上ずりながらも、どうにか言い訳をしミスを隠蔽する。
流石に今のミスはダサい。魔術師としてマンドラゴラを取り出して自爆したなんて黒歴史を残すわけにはいかないのだ。
ちょうどいいことに視聴者は何が起きたのか理解していないみたいだし、バレないだろう、多分。
「ま、ちょっとやり過ぎたみたいだけどね」
周囲を見渡すと、そこには気絶したらしきイレーネちゃんとアクトくんがいた。
「ん〜今起きたのはマンドラゴラの絶叫なんだけど、多分騎士の皆は強制帰還を食らったんじゃないかな?」
“マンドラゴラが叫んだんだ…”
“災害で草”
解説をしながら倒れたイレーネちゃんに近寄る。
「にしても…なんで発動しなかったんだ?」
イレーネちゃんの傷を治しながら、黄金の羽を調べるが、特に異常はない。
気絶しているし、転移が発動してもおかしくないのだが…?
「ま、調べるのは後でいいか」
“適当だなおい”
“というか、アクト倒れたし一件落着ってこと?”
“あっさり終わったな〜”
“おもろかった!”
そして、現場は静まり返り、視聴者達は決着ムードとなるのだが…
「いやいや、そんな簡単な話じゃないぞ?」
“お?どして?”
“なんかまだあったっけ”
「はぁ〜…これだから素人は」
“UZEEE”
“ため息やめろ”
“ムカつくなwwww”
そう、この事件はまだ終わっていないのである。
「んじゃ、解決編と行きますか?」
グレイは視聴者にそう言い、転移魔法を発動した。
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