-4- 釘

 釘を持ち帰ったその日の夢見は最悪だった。身体はすっかり汗をかき、自分の荒い息だけが自室の唯一の音だった。

 その夢はまるで、丑の刻参りの藁人形にでもなったような夢だった。


 暗闇の中、女の声とゆらゆら揺れる視界。揺れが収まると体を押さえつけられ、胸に強い衝撃。

 その衝撃は身体のつま先からてっぺんまでをつんざくような感覚で、うめき声が漏れる。その声に姿の見えぬ女の声は笑うのだ。


 笑って、笑って、嗤って、嗤う。

 打って、打って、討って、討つ。


 気が狂いそうな時間が、続いた。あるいは、狂っていたのかもしれない。


 気がつくと身体は地に落ちて、地面にぶつかると感じたときに目が覚めた。呼吸はしばらく落ち着いてくれなかった。


 まるで、あの釘に呪われたかのようだった。第一、手紙をあんな祠に置くやりとりなんておかしかったのだ。


 もう、手紙には返信しない。そう、決意した矢先。


 カタン。


 郵便受けから、音がした。


 寝巻きのまま玄関に走る。チェーンを急いで外し、玄関の扉を開けた。


「誰だ!」


 しかし、玄関の外に人影は無い。足音すら聞こえない。念の為、扉の裏側も覗いてみたが、誰ひとりいない。


 そこには、冬の朝の冷たい空気だけが存在していた。

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