ウルフェンナイト
姫崎
第1話 はじまり(1)
今から約五百年ほど昔、とある大陸には人狼や吸血鬼が存在していた。
人狼は森の中で人間との接触をできるだけ避け、独自の社会を築き生活していた。
しかし人間と関わることなく危害を加えることもしない、平和な生き方を選ぶ者達がいる一方、自ら人間の暮らしを脅かし襲い、喰らう、そのような人狼も存在した。
危険な者の存在により人間達は人狼を恐れていた。人狼とは人を襲う生物なのだ、人間を食料としているらしい、常に人間を見張って隙を伺っているなど噂し、恐怖の対象でしか無かった。
つまりそんな人狼が目の前で大怪我を負っていたとしても、普通の人間なら助けようともせず見殺しに、それどころかとどめを刺す者までいるかもしれない。
だがこの女はそうでは無かった。まだ息のある血にまみれた二足歩行の狼に、あろう事か簡易的ながらも手当を施していた。
その人狼も手当を受け入れ大人しくしている。二人の間に会話は無かった。ただ、とても綺麗な薄青色だと、人狼は女の瞳を眺めていた。
数日後、人狼は女と出会った場所に行ってみることにした。すると、まるで待っていたかのように女もその場所にいた。いや、実際待っていたのだ。
人狼は獣人化を解き、完全な人間の姿で女に接した。
それ以降二人は何度も会い、互いのことを話し合った。
町の美味しいパン屋の話、森での暮らし方、昨日見た猫の話、些細な事でも何でも話した。お互い相手の気持ちなどとうに理解していたからだ。
ある時人狼は意を決して伝えることにした。あの日何故自分はあんな大怪我を負っていたのかと。
つい最近のことだ、人狼と吸血鬼との間で戦争が始まった。何故そうなったのかは分からない。領地の問題か、
ただ一つ分かることは戦争で人狼が大敗したと言うことだ。残った人狼達も散り散りになってしまった。
その上吸血鬼は残党狩りを始め人狼ももう数はいないだろう。この人狼も何度か襲われ返り討ちにはしたものの怪我は避けられなかったのだ。
きっとまた吸血鬼達は襲ってくるだろう。
「俺のそばに居てくれないか。」
だから君とは一緒には居られない、そう言うつもりだった。しかし、自分の言葉は頭ではなく感情を優先した。
数年後、町である家族が暮らしていた。女はアリシア、男はヴォルフという名で、二人の生活は幸せそのものだった。
隣人たちから見ても仲睦まじい極有り触れた夫婦という印象だ。
だが、夫婦には周りに隠している事があった。
それは夫ヴォルフが人狼であるということだ。
人狼には人型をした狼の姿と完全な人間の姿の二通り存在する。ヴォルフは町で住み始めてから一度も獣人化していない。だからこそ誰にも気付かれずに暮らしていくことが出来た。
もちろんそれは二人の間の子にも徹底していた。
獣人化を人には見られてはいけないと教えていたのだが、そもそも産まれた時から人間の姿で産まれてきており、獣人化をしている姿は一度も見た事がない。
人狼が獣人化するのは野生で生きるためであり、安全な町の中で暮らすには必要のないことであることが影響しているのでは無いかと夫婦は話していた。
しかしなんの問題もなく息子が成長していくのであれば気にすることでもないのであろう。そんな幸せな日々を家族は過ごしていた。
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