第31話 黒龍

時は少し遡り、ヘロヘロが武王との戦いを認められた翌日…。


ナザリック地下大墳墓、アインズの執務室…。


「え…俺がデミウルゴスと戦うの?」


「正確にはヤルダバオトに扮した私ですが、武王との戦いの後に、乱入させて頂ければと…」


デミウルゴスは、小さく頭を下げて、ヘロヘロに応える。


「つまりは、ヘロヘロさんにも英雄になってもらうってことか?」


「はい、そうゆうことになります」


「だが、それだけのために帝都をお前が襲うってのはな…。ヘロヘロさんとデミウルゴスが戦えば、少なからず一般人に被害が出るだろ?」


アインズとデミウルゴスのやり取りを聞いていた弐式は、あからさまに嫌そうな顔をする。


アインズとヘロヘロは、人間に対する愛着心というものがない。


自身とナザリックの利益になるか、なりえないか、その上で行動を決める傾向がある。


しかし、弐式は違う。


2人と同じようにユグドラシルのキャラ、ハーフゴーレムでこの世界に転移していたのであれば、それも変わったのだろうが、リアルと同じく、弐式は人間なのである。


「その点は大丈夫でございます。ヘロヘロ様との戦闘は、闘技場内でのみ行います。また、観覧席にいる人間には、私の支配の呪言で動きを拘束しますので、混乱による死傷者も出ない算段となっております」


「ん?それなら、観客は全員外に逃がすか、帝都近くの更地で戦えばいいのではないか?」


「確かに、それなら観客が流れ弾に当たる、なんてこともないですね」


アインズと、ヘロヘロがデミウルゴスの提案に茶々を入れる。


「いえ、観客には残ってもらう必要があります」


「なるほど…。宣伝か…」


「俺とヤルダバオトの強さを見せるってこと?」


「そうか…。俺とモモンが2人で撃退したのを、ヘロヘロさんが一人で撃退したとなれば、その強さの証明になるってことか…。んで、それを多くの人間に見てもらうことで、宣伝能力と信用性を高めると…」


デミウルゴスの発言に、ようやくその意図を理解したアインズが短く答える。


続けて理解したヘロヘロと弐式も、ははーんといった様子で頷いて見せる。


「その通りでございます。さらに言わせて頂きますと、ギルド・アインズ・ウール・ゴウンの名を面に出したいと考えております」


デミウルゴスの発言に、3人は大きく目を見開く。


「アインズ・ウール・ゴウンをギルドとして?それはちょっとまずくないか?」


「だな…俺たちは一応人間の英雄として跋扈しているわけで、その中で異業種だらけのこのギルドとナザリックを面に出すっていうのは…」


「…異分子として攻撃対象になりかねないな…法国の件もあるしな…」


アインズ、ヘロヘロ、弐式が、待ったをかける。


しかし、その反応もデミウルゴスは予見していたようで、さらに弐式が漏らした一言によってそれを線として繋げる。


「弐式炎雷様、まさしくその法国を利用、牽制するために、アインズ・ウール・ゴウンの名をギルドとして、出したいと考えております」


「法国…あー、カルネ村とガゼフを襲った兵士の国か…。確か、ニシキさんも襲われたんですよね?」


「えっと、クレマ…クリマンジュウ…みたいな名前だった気がします」


「恐れながら、弐式炎雷様から頂いたお名前は、クレマンティーヌでございます」


デミウルゴスは、小さく呟き、弐式に助け舟を出す。


「ああ、そうそう、それ、クレマンティーヌだ!」


「全然違うじゃないですか…」


弐式のガバガバな記憶力に、ヘロヘロが呆れた様子で言葉を放った。


「話を戻させて頂きます。法国は、人間至上主義を掲げており、何も対策をしないままに彼の国と接触すれば、必ず軋轢が生まれます。最悪は、戦争にもなりましょう」


「確かにそうだな…異形種だらけのアインズ・ウール・ゴウンやナザリックが受け入れられるとは到底思えない」


「…その法国とうまく付き合っていくために、アインズ・ウール・ゴウンの名前を出すってこと?」


アインズとヘロヘロがなるほどなるほどと納得しているが、一人だけ血の気が引いている人物がいた。


「…ちょっとまって、やべ…忘れてたわ…」


「どうしましたか?弐式さん」


「…法国から聖王国宛に、俺との面会の申し込みがあったんだった…」


「え⁉それめっちゃ大事な情報じゃないですか⁉早くいってくださいよー!」


「ごめん、まじごめん…てかヤバイ!その申し込み受けちゃった…」


「「えー!!!」」


弐式のドジに、アインズとヘロヘロが大声で困惑する。


しかし、デミウルゴスは『もしや…いや、それなら…』とブツブツと呟いている。


「弐式炎雷様、失礼ですが、法国との面会はいつ行われるのでしょうか?」


「あーっと、確か2か月後くらいかな?」


「そうですか…それならば…」


弐式の返答を受け、デミウルゴスは再度独り言を呟きながら思考に耽る。


そして、数秒の後に、はっと顔を上げて再び口を開く。


「…先ほど、法国への牽制の意味を込め、アインズ・ウール・ゴウンの名を出す、と申し上げましたが、弐式炎雷様の働きによって、計画が大幅に短縮できるかもしれません」


「……ごめん、何言ってるのかさっぱりわからない」


「「同じく」」


至高と謳われるただの一般人3人組は、とんでもない叡智を誇る悪魔の考えに、完全にお手上げ状態であった。


「では、僭越ながら…。結論を先に申し上げますと、御三方には…いえ、至高の41人の御方々には、この世界においても、『神』と同等の存在になって頂きたく思います」


「「「…はい?」」」


またも素っ頓狂な発言をする悪魔に、一般男性3人は、大きく首を傾げた。






時は戻り…。


帝都アーウィンタールにある闘技場では、今まさに衝撃的な戦いが繰り広げられていた。


拳と拳のぶつかり合いとはまさにこのことで、ヘロヘロとヤルダバオトが、目にも止まらぬ速さで殴り合っていた。


それは一切の介入を許さないものであり、それは圧倒的な衝撃波を生むものであり、そしてそれは、間違いなく帝都を、いや帝国を、世界を破滅させるに足る力であった。


見たこともない戦いを繰り広げる両者を見て、ジルクニフは目玉がカピカピになり掛ける。


しかし、何とか思考を取り戻し、観覧席の壁の淵に立つ絶世の美女に声を掛ける。


「ソーイ殿!」


「…なんでしょうか?」


名前を呼ばれたソーイは、特に感情の起伏なく、ゆっくりと首を回し、淀んだ眼をもってしてジルクニフに振り返る。


その美貌と艶めかしい肢体に、些少の劣情を抱くも、即座にそれを振り払い、再び声を掛ける。


「私のことはいい!ソーイ殿も、どうかヘロヘロ殿に御助力を!」


「…皇帝のその勇断は認めましょう…。しかしそれは、お兄様が負けると仰りたいのですか?」


「いや…そういうわけではないが…」


ジルクニフは、不満げな様子を見せる。


ヤルダバオトは、確実にここで仕留めなけらばならない、人類の、世界の敵である。


であれば、ヘロヘロと同じく強者たるソーイが加わり、それを確実なものとしたいという思いを抱いていたのだ。


「…申し訳ありませんが、私でもあの戦いに介入することはできません…。お兄様は、神と同等の力と強さを持っています。そして、それはあのヤルダバオトも同じ…」


「か、神だと…⁉まさか…そんな…」


ジルクニフは、今までにない驚きを露にする。


バジウッド、ニンブル、フールーダは声を出せない状況であるが、同じように驚きは表情に現れている。


「この戦いは、世界を守る神と、世界を破滅させる神との戦いに同義であると、ご認識ください。そんな戦いに、非才の身である私如きが、介入できるはずもありません」


ソーイの言葉に、声を出せるはずのジルクニフさえ、言葉を詰まらせて黙り込む。


「…それに…お兄様に敗北はありません」


そんな静寂を斬るようにして、ソーイが力強く、微笑みながら言葉を続ける。


「お兄様は…漆黒のモモンさんと、黒金のニシキさんよりも、お強いですから…!」


その言葉は、ジルクニフ達の沈黙を継続させるに、十分たるものであった。






他の観客たちと同じように声を出せず、身動きの取れないフォーサイトであったが、その目に映る光景だけは脳に焼き付けていた。


ありえないほどの速度で繰り広げられる拳と拳のぶつかり合い。


そして、スキルとスキルのぶつかり合い…。


そのどれもが人知を遥かに超える応酬であり、もし声が出せるような状況であっても声を出すことは叶わず、動ける状況であっても、この神々の戦いのような様相を見逃すまいと、動くことはしなかっただろう。


そして、その戦いにも新たな動きが見られる。


拳の応酬を見せていた両者であったが、デミウルゴスが上空へと身を預ける。


「『悪魔の諸相・触腕の翼』!」


ヤルダバオトの巨大な漆黒の翼から、羽に似た触手が無数にヘロヘロへと向かって進撃する。


それを見たヘロヘロは、両の拳を高速で打ち出し、応戦する。


「『飛翔連正拳』!」


まるで腕が何本を生えたかのように見える高速の拳から、空気砲を発生させる。


触手と空気砲が両者の間で幾度となくぶつかり合う。


それは十秒程度であったが、あまりの激しさにそれ以上の時間に感じられた。


互いの応酬が終わり、些少の静寂が闘技場に流れる。


「なるほど…。どうやら私はあなたに対する評価を改める必要があるようです…」


「どういう意味だ…」


ヤルダバオトの発言に、ヘロヘロは冷静に答えて見せる。


「貴方はお強い…単純な戦闘能力ならば、漆黒と黒金を上回る強さだ…」


「おかしなことを言うな…。モモンとニシキの全力を見たとでも言うのか?」


ヘロヘロの発言に、ヤルダバオトは肩を竦める。


「そうですね…。確かにあの2人の全力を拝見したことはありません。これは早計でしたね…。しかし、今わかったことが一つ…」


ヤルダバオトの含ませた言い方に、ヘロヘロは怪訝さをもってそれを視線に宿す。


「一対一で、あなたを斃すことは難しいことがわかりました。…ここは引かせて頂きます」


「…逃げる気か?」


「らしくない挑発ですね…。このまま戦いを続け、私が全力を出したら、あなたはこの闘技場にいる無数のゴミ共を守りながら戦えるのですか?」


「………」


ヤルダバオトの言葉に、ヘロヘロはただただ黙りこくる。


「…理解して頂けたようで何よりです…。アインズ・ウール・ゴウンの力が、帝国にも及んでいたことは大誤算でしたが…、最後に勝利を収めるのは我々であることをお忘れなきよう…」


ヤルダバオトが大空へと姿を隠すように消えていく。


「個で敵わぬなら、集団で挑むまで…」


その呟きは小さきものであったが、静寂が包む闘技場では酷く響いていた。


ヤルダバオトが消えるのと同時に、帝都を包んでいた炎の壁も消失を見せる。


加えて、支配の呪言も解除され、観客たちは自由の身となった。


その瞬間…。


「「「「うおおおおおおおおおおッッッ!!!!!」」」」


という、涙混じりの大歓声が、闘技場のみならず、帝都全域に響き渡った。


ヘロヘロはその歓声を受け、ほっと溜息をつく。


そして、皇帝のいる観覧席へと視線を移し、声を張り上げる。


「ソーイ!帰るぞ…」


「はい!お兄様!」


先ほど皇帝と話していた時とは打って変わり、艶めかしい声を発したソーイは、観覧席から跳びだし、ヘロヘロの横へと着地する。


高さ10数mを超える観覧席からの着地は、それだけでソーイすらもただものではないことを見せつけることになる。


ソーイと合流し、闘技場を後にしようとするヘロヘロであったが、大きな声で呼び止められたことでその動きを止める。


「ヘロヘロ殿!どうかお待ちいただきたい!!」


ヘロヘロは、背中に受けた声に答え、ゆっくりと後ろを振り向く。


「ぜひこの度の戦いを…聖戦を、皇帝である私の名の元に、お祝いさせて頂きたい!」


「それはありがたいお言葉にございます。ですが、お気持ちだけ受け取らせて頂きます」


ジルクニフは、予想していた返答とは大きく異なるそれに、酷く動揺する。


「そ、それでは私の気が済まない!…どうだろう、話しだけでもさせてはもらえないだろうか!」


ジルクニフの提案に、ヘロヘロは真剣な眼差しを抱く。


「ジルクニフ皇帝陛下、私は陛下にヤルダバオトの討伐を約束した…。しかし、私は奴を逃がしてしまった…。陛下の願いを叶えられなかった私に、そのような過分な心遣いは無用にございます」


「そ、それは、私や帝国の民が人質に取られていたからであろう…!。貴殿が私の願いを叶えられなかったとは思っていない!!私は奴の討伐よりも、我々の命を優先してくれた其方の決断を尊重したい!!」


ジルクニフの言葉は、闘技場にいる全ての者達の総意であった。


目の前にいる男、ヘロヘロは、あの強大な悪魔が、『一対一では倒すことは難しい』と言わしめたほどの男である。


この男はあの大悪魔を斃せていたかもしれないのだ。


しかし、彼はそれをしなかった。


なぜなのかという疑問を持つものなど、この場に存在しないだろう。


「私は、貴殿に対し、この以上ない褒美を用意する準備がある!話し合いの場だけでも、作らせてはもらえないだろうか?」


「…承知いたしました。それでは、お受けさせて頂きましょう」


ヘロヘロの言葉に、ジルクニフは思わず顔が綻ぶ。


そして、高ぶる感情を何とか抑えながら、今度は闘技場にいる全てのものに言い放つ。


「聞け!帝国の民たちよ!バハルス帝国皇帝ジルクニフ・ルーン・ファーロード・エル=ニクスは、冒険者ヘロヘロを『黒龍の英雄』と讃え、ここに賛辞を贈ることを宣言する!!」


ジルクニフの宣言は、2人の会話によって静寂を取り戻した闘技場に再び歓声を上げさせる。


それは、先ほどの大歓声にも似た、実に巨大な歓声であった。





ヤルダバオト乱入後、すぐにヘロヘロと会談を設けたジルクニフは、皇帝の独断専行という異例をもってして、ヘロヘロをアダマンタイト級冒険者として認定した。


独断専行と言っても、帝都の冒険者ギルドも同じことを考えており、大きな障害も混乱もなく下賜されることとなった。


まあ、あの大悪魔であり、魔皇を名乗るヤルダバオトを単騎で撃退し、それを数多くの帝都の民が見ていたとなれば、当然と言えば当然である。


さて、ヘロヘロとの会談を終えたジルクニフは、執務室にてバジウッドとフールーダがいる中、大きくため息をついていた。


「…彼には、欲というものがないのか?」


「すでに満たされている…とかですかね?」


ジルクニフの困惑に、バジウッドが苦笑いをもってして答えた。


ジルクニフは、宣言通り、貴族位だろうが領地だろうが、それこそ莫大な金銭やマジックアイテムすらも与えようと考えていた。


だが、それらを望むことも、受け取ることもしなかった。


唯一欲したものがあるとすれば…。


「あれだけの力を持ち、英雄にも勝る功績をあげたにもかかわらず、欲した者と言えば、アダマンタイト級のプレートのみか…」


「ま、それすらも皇帝の提案でしたがね」


「提案…などではない…。必然だ…。あのヤルダバオトを撃退できるような男を、カッパーのままにしておくことなどできん」


「陛下お抱えにできなかったのは残念ではありますが、帝都での活動を中心にするという言質が取れただけでも、ここはよしとしましょう」


ジルクニフの苦悶するようすに、フールーダが嗜めるように呟く。


「そうだな…。爺の見立て通り、その男…ヘロヘロ殿は黒金と漆黒と同等かそれ以上だ。妹のソーイだけの発言では信用に値しなかったが、黒金と漆黒が2人掛かりで撃退したヤルダバオトを、単騎で撃退ともなれば、同等の力を持つのは確実、もしかすると本当にそれ以上の力を有している可能性も高い」


「となると、黒金と漆黒に送ったマジックアイテムは少々もったいなかったですね」


「もうちょっと早く頭角を現してくれたなら、とは思いますね」


それはジルクニフも思うところであったが、タラればの話をいくらしても仕方がない。


「しかし、それ以上に興味深いのはアインズ・ウール・ゴウンだ…。前々から王国で噂になっていた魔法詠唱者の名であったが、まさか集団としての名でもあったとはな…。そしてそのチームに、ヘロヘロ殿も属していると…」


「黒金も漆黒も仲間なんですよね?…強者揃いも良いところだ」


「じゃが、その4人の強者の1人と、帝国は繋がりができたのじゃ」


「ああ、爺の言う通り、それは非常に幸運なことだ…。なにしろ、彼が帝都に現れなけらば、今頃帝都は、いや帝国が滅びていた可能性すらある」


ジルクニフはふっと自虐するようにして笑う。


と同時に、扉が叩かれる音が響く。


許可を出し、入室してきたのは、四騎士の1人、レイナースであった。


髪を切り整えたのか、以前のように顔の右半分を隠すほどの前髪はなく、その顔をさらけ出すような髪型をしている。


そこに、呪いによって悪臭と膿を放つ見るに堪えない汚物は存在していなかった。


ソーイには及ばないが、男から見れば引く手あまたと言っても過言ではない、綺麗な顔立ちをしている。


ジルクニフは、その綺麗な顔を見ながら、しかし些少の落ち込みを察する。


「…どうやら、断られたようだな」


「…はい」


レイナースは、感情のこもっていない声でそれに答える。


「ヘロヘロ殿はなんと?」


「…あなたの人生だ、好きに生きるといい…と」


「なるほど…。随分と丁寧に断られたみたいだな…」


ジルクニフは、些少の憐れみを抱きながらレイナースへと言葉を発した。


「それで、どうする?私としても、好きにしてもらって構わないんだが…」


「そうですね…。ヘロヘロ様が帝都にいらっしゃるということなので、暫くはこのまま四騎士に名を連ねようかと思っています」


「そうか…。それならばそうしてくれ」


ジルクニフとレイナースの問答が、落ち着きを取り戻したことで、フールーダがジルクニフに詰め寄る。


「それで、陛下。法国への親書はどのように?」


その言葉に、ジルクニフはソファーへ座りなおすと、顎に手を当てる。


「そうだな…。一先ずは、今回の事件の詳細を記載し、その上で、貴国の言う『神』が現れたやもしれんと伝えてくれ…。あの国のことだ、隠し通してもすぐにばれる」


「承知いたしました。その上で、『黒龍』は既に我が国と友好的な関係であるということもお伝えしますかな?」


「…そうだな。その一文も加えてくれ。恐らく法国はヘロヘロ殿を引き抜こうとするだろうが…、彼がそれに乗るとは思えん」


「でも、ちょいと危険じゃないですかね?法国は謎の多い国です。我らが知らぬ、彼が欲している者を有している可能性も…」


バジウッドが、懸念を示すと、ジルクニフは理解している様子で笑みを浮かべた。


「確かに危険もある。だが、今回の事件と、皇帝自らが褒美…と言っても、アダマンタイト級冒険者の下賜と、形ばかりの感謝状だけだが、それでも皇帝が発したことは変わらない。国のトップが正式に認めた男だ。いくら法国と言えど、表立って無理やりに国に連れ帰ることはできんだろう」


「まあ、確かにそうなんですがね…」


「それにだ…」


バジウッドの発言を遮るようにして、ジルクニフは不敵に笑う。


「あの男を無理やり縛り付けるなど、不可能だ」


ジルクニフの言葉に、皆が一様に沈黙する。


その沈黙こそが応えであり、それこそがジルクニフがヘロヘロに国に仕えることを無理強いしなかった証左でもあった。


そしてそれは、法国が彼を引き抜くことの難しさを物語っていた。


彼は自由なのだ…。どこまでも、何物にも縛らることを拒否する。


シルクニフは、1時間程度の短い対話であったが、その考えを確信に近いものとして捉えていた。






ヘロヘロがヤルダバオトを撃退した2か月後…。


聖王国の宮殿の一室には、ニシキ、ナーベラル、カルカ、ケラルト、レメディオスの姿があった。


ニシキとカルカがソファーに座り、ケラルトとレメディオス、ナーベラルはその後ろで待機している。


なぜ待機しているのかというと…。


「カルカ聖王女殿下、法国からの使者が到着いたしました」


「入室を許可します」


執事の言葉を皮切りに、カルカとニシキが揃ってソファーから立ち上がる。


「失礼いたします」


執事が扉を開けると、聖王国の人間とは違った服装、しかし礼装を纏った10名近い人間が部屋に入ってくる。


その中でも突出して位の高そうな男女2人を先頭に、その後ろには護衛を担っているであろう若い男と老婆がついている。


全員の入室を確認した先頭の2人は、慣れた様相で膝を付いて平伏し、他も後に次いで膝を付く。


「お待ちしておりました。スレイン法国の皆さま」


カルカがそう一言発すると、位の高そうな2人組が静かに口を開いた。


「スレイン法国、火の神官長ベレニス・ナグア・サンテイニと申します」


「同じくスレイン法国、闇の神官長マクシミリアン・オレイオ・ラギエと申します。カルカ・ベサーレス聖王女陛下、本日はお招きいただき、心より感謝申し上げます」


ベレニスと名乗った女性と、マクシミリアンと名乗った男性の名乗りを聞き、カルカは微笑を浮かべる。


「面をお上げください」


「聖王女陛下から許可が下りました。どうぞ、面をお上げください」


ケラルトが次いでカルカの言を繰り返すと、法国の面々が面を上げて、カルカを視界に写す。


しかし、それはすぐにカルカの横に立つニシキへと移ろう。


「ご紹介いたします。こちらが、ローブル聖王国アダマンタイト級冒険者『黒金』のニシキ・エンライ様、そして、ナーベラル様です」


「お初にお目にかかります。ベレニス様、マクシミリアン様。ただいまご紹介に預かりました、ローブル聖王国アダマンタイト級冒険者のニシキ・エンライと申します」


「…同じく、ナーベラルです」


「ご丁寧なご挨拶、痛み入ります。ニシキ・エンライ様、ナーベラル様。本日はどうぞ、よろしくお願い致します」


ベレニスが、ニシキの挨拶に返答したところで、カルカが一歩横に出る。


「では、一度挨拶はこの辺りにして、どうぞ、お二方はこちらにおかけになってください」


カルカは、先ほどニシキと共に座っていたソファーの対面に座るよう誘導する。


「それでは、失礼いたします」


マクシミリアンは、それを丁寧に受け入れ、すっと立ち上がってソファーに腰かける。


「他の法国の皆さまも、楽にしてください」


「聖王女陛下からの許可が下りました。どうぞ、楽にしてください」


同じようにケラルトが復唱し、他の法国の面々も立ち上がる。


「カルカ聖王女陛下、もしよろしければ、我が国の者を2人ほど、ご紹介させて頂いてもよろしいでしょうか?」


「はい、是非お願い致します」


マクシミリアンは、カルカの許可をもって、一番近くに仕える青年と老婆に視線を向け、口を開く。


同時に、2人が一歩前へと踏み出す。


「こちらは、スレイン法国漆黒聖典第一席次のマルナロール。そして、風花聖典隊長のカイレでございます」


マルナロールとカイレは、紹介の後にそれぞれ挨拶をし、頭を垂れ、元の位置へと戻る。


同じようにして、カルカも自身の後ろに控えるケラルトとレメディオスを紹介後、威厳ある声で宣言するように言葉を発する。


「それではこれより、スレイン法国とニシキ・エンライ様との面会を始めさせていただきます」







※現在の弐式炎雷のレベル

・Lv97


※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)

・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv2 ・土遁忍術Lv1

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