第15話 黒金

港湾都市リムン。


都市内にいた溢れんばかりのモンスター、『魔物』は、ニシキがエスターク・イスカを倒すと、即座に動きを止め、消滅した。


ユグドラシルにおけるイベントレイドボス戦は、通常のレイドボスと違い、中程度のダンジョンを踏破したうえでボスと遭遇するという展開が多い。


そして、ボスが倒されることで、ダンジョンそのものが消え、準じてそこに現れるモンスターも消えるというものであった。


イスナが倒れ、魔物は消え、街は消えなかった。


ここから導き出される答えは、リムンはイベントレイドボス用のダンジョンではなかったということである。


歴史のある都市なので、当たり前のことではあるのだが、聖王国建国から200年、何かしらの条件が満たされず、いつの間にか都市として発展した、という線も捨てきれないと考えていた。


しかし、リムンは消えなかった。


故に、ニシキがひそかに考えていたこの説は、否定されることとなった。





港湾都市リムンの近郊には、何やら怪しげな集団が見て取れた。


皆それぞれに応じた装備を有している。


しかし、みすぼらしい槍を装備している男が居たり、老年の女性がチャイナ服を着ているなどしておかしな装備を有している人物もいた。


「これは、すぐさま本国に戻って指示を仰ぐ案件だとおもうぞよ」


チャイナ服を纏った老女が、少し興奮した様子で、みすぼらしい槍を有している若い男に話しかける。


「ええ、そうですね。まさか、『魔神』を支配下に置くつもりが、『神』と思しき人物を発見するとは思いませんでした」


「黒銀のニシキ様…か…」


大きな盾を有する大男が、密かに得ていた情報を仲間と確認し合う。


「たった四か月でアダマンタイト級…。しかもチームを組まずに単騎で…。確かに、異例中の異例…」


金色の髪を少し長めに有している美形の男性が、考え込むようにして顎に手を当てる。


「浅はかな行動はできんぞ…。彼のものの力は隊長を超えているのは明白…。もしかすると、神殿の奥にいる彼女と同格か、それ以上の可能性すらある…」


「…魔神も彼によって倒されましたし、任務自体は成功と言って差し支えないでしょう。急ぎ、戻りましょう」






さて、港湾都市リムンを解放したニシキは、カルカ達の馬車に相乗りという形で、首都ホバンスに向かった。


カルカを筆頭に、宮殿内の大広間で聖騎士や神官たちと酒を酌み交わしたり、会話を介して親睦を深めた。


ニシキとしては、一刻も早くカリンシャに飛雷神で戻りたかったが、聖王女の好意を無下にすることもできず、受け入れた。


そうして一夜明け、3度目となる祝典が開かれる。


今回の祝典は、地獄の帝王エスターク・イスナの討伐が主である。


というよりは、公式としてはそれのみであるが、王政府、聖王女側は裏の功績をもって祝典を開くに至った。


急な祝典開催もそのためである。


裏の功績、それはカルカの美貌を取り戻し、ケラルトの足を取り戻した。というものである。


カルカの身体の損傷も、ケラルトの足の損傷も、第5位階の魔法をもってしても、完璧には治せない大怪我であった。


この世界において、あらゆる傷を癒し、たいていの病を治せる魔法は、第六位階の大治療である。


当たり前だが、第五位階ではそれは行使できない。


カルカは一生歩けない身体、且つ美貌を失われた状態で生きることになり、ケラルトも不自由な足を退きずって、若しくは片足を失っての生活になっていたことだろう。


保守派の南部貴族が政敵として存在する手前、そのような状況になれば、助長をまねき、内乱にすらなりかねない。


それが、この一夜で王政府が出した結論であった。


ではなぜ急遽祝典が決まったのかというと、カルカ含めニシキを聖王国聖王女派閥に加える決断をしたからである。


カルカとケラルトが結構強引に話を進めたことが大きい。


イスナとのあれだけの戦闘を見せられれば、すぐさま傍に置いておきたいというのも無理もない。


今のニシキの立場をなるべく損なわず、且つ聖王女派閥に組み入れる方法…。


九色『黒金』の叙勲であった。


前回の祝典と同じような流れで九色を授かったニシキは、苦笑いを表情に出さずに受け取った。


特に九色の一人となったからと言って、王政府に献身的に使える必要はないという言質を取ったことで、些少の安心を抱く。


代わりに、今回のような聖王国の危機ともいえる存在が出現したり、その可能性がある場合は全面的に協力して欲しいという願いを承諾した。


また、今回の戦闘で多くの忍術を、聖王女はじめ多くの者が認知したことにより、その力を根掘り葉掘り聞かれてしまう。


その中でも、強力な攻撃性能をもつ火遁や風遁の説明をすることになったのは、ニシキも想定していたことだが、それ以上に興味を持たれた忍術があった。


それが、『飛雷神の術』と『影分身の術』であった。


それぞれの術の説明をすると、何やらお偉いさん方が集まってヒソヒソと会議をし始めたのだ。


そうして戻ってきたカルカとケラルトが口にした言葉は、『飛雷神のマーキングを宮殿の一室に施してほしい』と『ニシキの影分身一体をカルカの護衛につけてほしい』というモノであった。


飛雷神のマーキングに関しては、二つ返事で承諾した。


特にデメリットがなかったからである。


しかし、問題は影分身の方であった。


カルカ達からすれば、なぜ渋るのかがわからないと言った様子だったため、話していない影分身のデメリットを伝えることになった。


それを聞いて、なぜ渋っていたのかを理解したカルカ達であったが、それでも引き下がらなかった。


今回のイスナ襲撃の件が原因であることは、ニシキにも理解ができた。


特にカルカは、一人でいることが怖くなってしまったのだ。


あれだけの怪物を目の前にし、しかもその怪物に尋常ではない苦痛を与えられればその話も納得ができる。


しかし、そこはニシキの死活問題にもなる。


影分身を常にカルカの傍に着けるということは、ニシキは常にMPが半分の状態で生活しなければならないということになる。


ニシキのMPは、実はそれほど多くはない。


魔法職であるプレイヤーと比較すると、その魔力量は6~7割程度であった。


だが、結果としてはニシキが条件付きで折れることになった。


その条件は、『本体で強敵と戦う場合、本体側から予告なしで影分身を解除する』、『定期的(1週間に1回を目安)に影分身を解除し、記憶や経験を継承させてもらう』という条件であった。


既に影分身の説明を理解しているカルカ達は、それによるデメリットがほとんどないと判断し、嬉々としてそれを受け入れた。


ニシキから承諾を取った際に、カルカとケラルトがなぜか隠れて頬を赤らめながらガッツポーズをしていたのは内緒である。


その上で、カルカはもう一つ条件を追加してきた。


『1週間に1度、影分身を解除し、再び影分身する際は、1日ニシキ本体が宮殿にて過ごす』というものであった。


がめついことである。


しかし、これくらいがめつくなくては王など勤まらないのだろうなと、ニシキは考えた。


この考えが後に間違っていたと知るのは、意外に早く訪れるのであるが、今のニシキからすれば、九色を賜ったことで、聖王国公認の立場という固すぎる基盤を得られたお礼という形で、それを受け入れる。






さらに、もう一組、いや、一人…人と言っていいのかはわからないが、不可視化に似た、しかしそれ以上の高位の魔法で悟られないようにしてリムンの上空を佇む白銀の鎧がいた。


その白銀の鎧は、蹂躙され尽くした、しかし既に魔の手から解放された都市を見下ろしていた。


「ほぼ間違いなくぷれいやーだね…。そして相手はレイドボス…かな」


ため息に似た含みを持たせ、再び独り言をつぶやく。


「黒銀のニシキか…どうやら、世界に協力するもののようだね…。実績も人柄も疑う余地はないね…」


そして、ゆっくりと反転して向きを変える。


「一先ずは、リグリッド辺りに頼んで接触を試みてみようかな…ニンジュツというのも気になるし…」






「わぁ…あの時と同じ、ニシキ様が2人もいますわ…」


ニシキが影分身をしたことで、カルカは両の手を胸の前で合わせ、嬉しそうにしていた。


あの一件以来、カルカがニシキに付ける敬称が殿から様に変わっていた。


「あの、カルカ様。聖王女であらせられるカルカ様に、『様』付で呼ばれるのは抵抗があるのですが…」


ニシキは、不満な様子を一切隠さずに抗議する。


それを聞いたカルカは、子どものように頬を膨らませてニシキに肉薄する。


その距離は、30㎝未満ともいえる、非常に近い距離であった。


豊かに実った二つの果実までの距離で換算すると、更に近い。


「今の私があるのは、ニシキ様のおかげなのですから、当然ではないですか」


「いや…でも、身分の格が違いますし…。私はただの冒険者で、平民なんですから…」


「ニシキ様…。ただの冒険者は、時間を巻き戻したり、地獄の帝王を滅ぼしたりはしませんわ」


ニシキの反論は、カルカと同じくニシキに救われたケラルトの『ふっふっふ』という不敵な笑みと共に否定される。


「ま、まあそれはそうかもしれないですけど…。ってケラルトさんも敬称変わってますよ?」


「あら、親愛なる殿方に対して、そのようにするのは当たり前なことだと思いますが」


ケラルトも、カルカと同じようにその身をニシキに寄せる。


「近いですって…離れてくださいよ…」


「私が近くてはご不快ですか?」


カルカは、非常にしょんぼりとした様子でニシキを見つめる。


「い、いや、別に不快ではないですけど…」


「ならば、なんのもんだいもありませんね…えい!」


カルカはガバッとニシキの懐に飛び込む。


負けじとケラルトは分身のニシキに、擦り寄る。


その瞳は、何やら狂気を思わせるものを含んでいた。


「「ちょっと、いい加減にしてくださいよ…。私も一応男なんですから…」」


本体と分身、どちらもニシキであることに変わりはないため、同じような境遇においては、同じような反応を見せる。


「知っていますよ、そのくらい…。男だから、なんですか?」


「いや、だから、女性が、しかも聖王女様と神官団長様が、恋仲でも、ましてや対して親しくもない男とくっついてるのは良くないって話ですよ」


カルカとケラルトは、目を見開いて互いに見つめ合う。


「聞きましたか、ケラルト…。私達、ニシキ様と親しくないようです…」


「とても悲しいですね…。親しいと思っていたのは我々だけだったのでしょうか…」


そして、その瞳に些少の涙を浮かべて見せる。


女性というのは、非常に恐ろしいものである。


「ち、違いますよ。そういう意味ではなくて…」


ニシキは、あーもーっ!と言った様子で頭を掻きむしる。


「ふふっ!少し意地悪しすぎてしまいました…許してください、ニシキ様」


「そうですね、ニシキ様、お許しを…」


カルカとケラルトは、含みある笑いをニシキに向ける。


「わかって頂けたなら、それで…」


ニシキは、とっても大きくため息をついて見せる。


しかし、2人が互いに見つめ合い、屈託のない笑顔を浮かべているのを見て、孕んでいた些少の怒りと動揺が既にどうでもよくなっていた。





カルカに分身体を預けた後、ケラルトと共に客間の一室に案内されたニシキは、一枚の羊皮紙を受け取る。


「黒い物体の調査…ですか?」


羊皮紙に書かれていたのは、王政府直々の依頼書であった。


だが、妙な依頼であった。


先ほどまでよくない笑みを浮かべながら、分身ニシキをおちょくっていたとは思えないような、真剣な眼差しをもって、ケラルトは口を開く。


「はい。カリンシャとプラートの丁度中間地点、湾に沿ってこの辺りに、比較的大きな森林があります。その中の洞くつにて、何やら黒い物体が存在しているようなのです。詳細は全くと言っていいほど情報がないのですが、何やら動くらしいんですよ…」


ケラルトは真剣な表情から、怪訝な表情へと変える。


「動く黒い物体…ですか…。何か良くないものを想像してしまいますね…」


「…多分、ニシキ様と私、同じものを想像していると思います…」


ケラルトのその言葉は全くもって正解であり、ニシキとケラルトの頭の中には、カサカサと動き回る、黒いあいつが浮かんでいた。


「しかも、かなり大きいらしいです」


「…というと?」


「人間と同じくらいです…」


ひぇ…とニシキは顔を引きつらせながら依頼書を覗き込む。


「でも、これ一体だれが発見したんですか?」


「発見者は、プラートの都市長とその娘さんです。あの森は殆どモンスターが出ず、比較的安全なので、山菜や薬草を取るのに最適なのです。都市長はあの森で狩りを楽しんでいるらしいのですが…」


「なるほど、その時に遭遇してしまったと…。怪我とかはなく?」


「都市長も娘さんも幸いにして怪我はなかったようです。それと同等のことはあったのですが…、聞かないでいただけると助かります」


ケラルトは、目を伏せ、申し訳なさそうに俯く。


「…それ、私に死ねって言ってます?」


「ふふ…、ご冗談を。ニシキ様より強い存在なんていませんよ」


「私を何だと思っているんですか…」


「地獄の帝王を倒した大英雄です」


満面の笑みで、力強く答えて見せる。


「世界には、私なんか足元にも及ばない強者などゴロゴロいますよ」


「まあ、それは大変ですわ。であれば、ニシキ様にはカルカ様や私と常に一緒にいてもらわなければ…」「私が世界で一番強いです」


ニシキは、ケラルト一切見ず、抑揚もつけずに淡々と答える。


「はぁ…酷いお方ですこと…」


「巨大な黒い物体を討伐して来いって言う方が酷いとは思いませんか?」


「思いませんね。女心を無下にする方が、よっぽど酷いと思います」


「さいでございますか…」


ニシキはケラルトの小言を軽く受け流しながら、羊皮紙を懐にしまい込む。


「依頼完了の報はケラルトさんでよろしいですか?」


「はい、問題ありません」


「承知いたしました」


ニシキは軽く頭を下げ、ケラルトに背を向ける。


「ニシキ様…」


しかし、呼び止められる。


ケラルトがゆっくりと近づいてくる。


「はい…なんでしょう…ッ!」


呼び止めた理由を聞こうとするが、それはケラルトがニシキの頬に口づけをしたことで中断された。


「な、なにを…ッ!」


「ふふっ。ニシキ様…。私、本気ですから…」


ケラルトは、そう言い残し、先に客間を後にした。


残されたニシキは、暫く棒立ちでボケッとしていたとかいなかったとか…。





ケラルトからの依頼を受けたニシキは、一先ずカリンシャの街へと戻ることにした。


イスナ討伐の報は、今しがたカリンシャに届いた様子で、国家総動員令の解除も相まって、街はお祭り騒ぎになっていた。


イスナ討伐の功績を称えられ、様々な住民から歓喜の声を受け取るニシキであったが、その受け答えを簡単にしつつ、屋敷へと帰還した。


イスナ討伐は、ニシキの住む屋敷、すなわちツアレにも今しがた伝わった様子で、ニシキの帰りを待っているのか、通りに顔を出していた。


ニシキがゆっくりと通りを歩いているのを見つけたツアレは、大きく目見開き、駆ける。


そんなツアレの可愛らしい姿にニシキは笑顔を向け、ツアレの身体を受け止める。


既にニシキの屋敷であることは、カリンシャの住民には広く知れ渡っており、その様子を見ている者も多かった。


まるで英雄と姫の再会と言わんばかりに、周りの住民は拍手喝采とばかりに騒ぎ立てていた。


しばらくニシキの胸に顔を埋め、そんなツアレを抱きしめる。


「何も問題はなかったか?」


「…それ、私のセリフです…」


ニシキのどこか抜けたような問いに、ツアレは胸から顔をはがして微笑む。


些少の涙が、瞳に浮かんでいた。


ニシキは、その涙を指の腹で拭く。


「ただいま、ツアレ」


「おかえりなさい、ニシキ様…」


そのまま暫く、2人は抱擁し続けていた。






ニシキがカリンシャの屋敷に戻ったのは、正午過ぎであった。


ハンゾウとフウマにツアレの守護の礼を言うと、いつもの如く『主人に仕えるの当然のことにございます』という圧倒的な忠誠心を見せつけられる。


その忠誠心に応えられるほどの度量がないニシキは、半ば引きつつも傍で笑みを浮かべるツアレに今日の予定を話す。


戦いから帰還した今日。少なくとも今日だけは屋敷でゆっくり過ごすのであろうと思っていたツアレは思わず顔を引きつらせる。


「あ、明日では、ダメなんですか?」


「…?どうして?」


どうやらツアレの想いは何一つニシキに伝わってはいないようだった。


思わず、心の中に宿った黒い沸々としたものを吐き出しそうになったツアレであったが、それをぐっとこらえてニシキを見つめる。


「帰ってきたばかりですから…その、お休みになられた方が…」


「ん?…ああ、まあ確かにそうなんだけど…」


「ニシキ様は働きすぎです…少しはお休みになられてください」


ニシキは思わずぎょっとしてツアレを見つめる。


…リアルに比べれば、今は結構ゆるくやってる方なんだけどな…。


そうして、改めて考える。


ここはリアルではない…。


その価値観をもって生きるのは危険である。


また不治の病に侵され、志半ばで死ぬ可能性すらある。


「ツアレの言う通りだな…」


「わかって頂けてよかったですっ!」


ツアレは満面の笑みを向ける。


「…明日からゆっくりすることにするよ」


「………」


笑みが消える。そして黙り込む。


「い、いや…。行こうって心づもりがもうできてて…」


ニシキは、ははっと苦笑いを浮かべる。


そんなニシキの姿にツアレは、はぁ…とため息をつく。


そして、仕方ないですね…とばかりに小さく笑った。





ツアレを説得?した1時間後…。


ニシキはケラルトから受けた依頼を遂行するため、カリンシャから歩いて数時間の位置にある森に、疾走して30分で到着を果たす。


想像していたよりも森は深く、探索スキルを駆使しなければ迷ってしまう程であった。


森の中は丁度良い陽光が差し込み、風が吹けば木々がせせらぎ、


歩を進めれば草木が音を立てる。


「空気がうまい!」


この世界に転移した直後に感じたものと同じものを味わいながら、昔本で読んだ『ピクニック』なる娯楽を思い出す。


「この自然を味わえただけでも、異世界に来たかいがあるってもんだよな…」


人工肺もガスマスクも必要としない環境に、ニシキは改めて恵まれているという実感を得ていた。


暫くして、目的の洞くつを見つける。


確かに何やら異様な気配を感じ取る。


「頼むから黒いカサカサだけは勘弁してほしいんだけど…」


洞窟内に一歩踏み入り、一気に感知スキルを解放する。


ニシキが警戒していた、黒くてカサカサした物体と思われるものを捉えることはなく、些少の安堵の息を漏らす。


しかし、対して大きく長くもない、一直線に伸びた洞窟の、30mほど先にある行き止まりのくぼみに、人間大位の物体を確認する。


形は人間のそれを呈していない。


生命判定に引っ掛かるため、生き物であることは理解できた。


ニシキは万が一を考え、一本の刀を背中から抜き取り、感知スキルを発動させたまま忍び足でゆっくりと近づく。


後10mほど。


闇夜を見通すスキルに加え、写輪眼を発動させたことで、その物体を容易に認識できると踏んでいたが、生きている人間大の大きさということしかわからず、更に警戒を強める。


「(探知阻害…?俺が認知できない程とは…)」


後5m。


ここまで近づいてしまうと、もはや隠密スキルは意味をなさない。


確かに黒い物体であった。


その詳細を確認しようと、刀を構えて一気に近づく。


距離は既に2m程度。


特別なスキルがなくても、暗い洞窟内を照らす明かりさえあれば、容易にそれが何であるのかを確認できるほどの距離である。


写輪眼すらも発動していたニシキからすれば、それが更に容易であったことは理解できるだろう。


故に、ニシキはその黒い物体が何なのかを認知するに至る。


ガシャンっと洞窟内に金属音が響き渡る。


その音を生みだしたのは、ニシキが手に持っていた刀であった。


ニシキの手からするりと落ちたことで、地面に衝突したのだ。


あぁ…という呻きに似た声が、ニシキの口から漏れ出る。


動揺しているのは明らかであった。


そして、ニシキは口にする。


見間違えるはずはない、その黒い物体…。


「ヘ…へロ…へロ…さん……」


その動揺に至った、黒い物体の名を呟きながら…。





※現在の弐式炎雷のレベル

・Lv96


※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)

・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv2

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