第3章 再会編
第13話 慟哭
「ナ、ナーベラルッ!!」
涙混じりの、それでいて綺麗な声が聞こえてくる。
モモンガの中で抱いた違和感が、混乱に変わったのは、その声が耳に入った時だった。
思わず振り向く。
そして、目を見開く。
弐式炎雷が作ったNPCであるナーベラルが、両膝を床に着き、両手で口元を覆いながら、大粒の涙を流している。
その目から、徐々に生気が失われていた。
そんなナーベラルを心配するかのように、ソリュシャンが跪いて肩に手を置いている。
何が起こっているのかわからなかった。
「(NPCが、動いている…?)」
そんな疑問が頭をよぎった瞬間、玉座の方から震えるような声が響く。
「に、弐式炎雷様…ッ!モ、モモンガ様…こ、これは一体…何が…何が起こっているのでしょうか……!?」
アルベドも、ナーベラルと同様に、酷く困惑し、涙を流しながら口を開いていた。
モモンガは、一体なにが起こっているのかを理解するのに、相当な時間を要した。
「どういうことだ…」
自分の見慣れた部屋に戻っていない。
コンソールを開こうと、手を動かす。
しかしコンソールは浮かび上がってこない。
「なぜ……」
モモンガは困惑と焦燥を微かに感じながら、コンソールを使わなシステム、強制アクセス、チャット機能、GMコール、強制終了を実行しようとする。
どれも一切手ごたえがない。
「どういうことだ!!」
モモンガの憤怒を込めた声が、玉座の間に広がる。
その声に怯えた様子を見せたプレアデス達を見て、もう一つの異常に目を向ける。
と同時に、またも後ろから震えた声が聞こえる。
「モ、モモンガ様…。に、弐式炎雷様に一体何があったのですか…」
その言葉を聞き、ようやく目の前で消えた友人のことを思い出す。
「そうだ…。弐式さん…。弐式炎雷さんはどこだ…」
モモンガは酷く狼狽した様子をみせる。
そんな様子を見て、アルベドは苦悶の表情を浮かべながら、声を震わせる。
「弐式炎雷様は…今しがた…す、砂となって…消えてしまわれました…」
どうやら夢を見ているわけではない。
NPCと会話をしている…。
それを理解した時、モモンガは身体が硬直するような感覚に陥る。
ありえない…。NPCが自我を持っているのか?
その答えを探ろうと、モモンガはある一人のNPCを見つめる。
そのNPCは、ソリュシャンに肩を抱かれながら、大きく目を見開いて涙を垂れ流していた。
弐式炎雷が作ったNPC、ナーベラル・ガンマであった。
「ナーベラル……」
モモンガは、特に意味もなく発した言葉であったが、その言葉でナーベラルの目が少し動く。
そして、震える唇が、ゆっくりと開かれる。
「モ、モモンガ様…。に、弐式…弐式炎雷様は…本当に…ッ!!」
何度も言葉を詰まらせ、目から尋常ではない涙を流しながら、請うようにしてモモンガにその視線を向ける。
それを見て、モモンガは確信を持つ。
「ありえない…。どうすればいい…。何が最善だ…」
質問に答えるわけでないその言葉は、ナーベラルに更なる絶望を与える。
それが何を意味するのかを…。
ふぐっといった呻きを上げて、ナーベラルの身体から力が抜ける。
「「「「ナーベラル!!」」」」
同じプレアデスで達が、悲痛に似た声を上げながら、ナーベラルに駆け寄り、再びその身体を支える。
モモンガからすれば、さらに理解できない状況であったが、怒りを言葉にしても、何の解決にもならない。
まずは…情報だ…。
「セバス」
セバスから垣間見える表情は、動揺と混乱であったが、名を呼ばれたことで、些少の真剣な様子を持っていた。
神に祈りを捧げるかの如く、モモンガは心の中で意を決し、そして命令をして見せた。
ナザリック地下大墳墓。第十階層。玉座の間。
今ここには、玉座の間を埋め尽くすほどの異形の者たちがひしめき合っている。
守護者統括のアルベドは、最大限の集まりを見せる異形の集団を見て、モモンガにゆっくりと呟く。
しかし、その言葉に明るさは一切見られなかった。
「モモンガ様…。現在ナザリックにおけるほぼ全ての者たちが集まりました。ナーベラルは…使用人室で休ませています。傍にはペストーニャが控えております」
「そうか…」
その言葉を聞き、多くのNPCが頭に疑問を浮かべた。
その疑問を、あるNPCが代表して口にする。
「恐れながらモモンガ様…発言の許可を頂きたく…」
「許す、申してみよ、デミウルゴス」
モモンガは、抑揚のない口調でつらつらと言葉を並べた。
それがデミウルゴスにとっては、酷く恐怖を覚えるものであった。
「ナーベラル・ガンマは、一体どうしてしまったのでしょうか?休ませなければならぬほどの何かがあったのでしょうか?」
デミウルゴスの疑問は、NPC達にとっては最もであった。
敵の侵入はない。
また、ナザリック地下大墳墓に攻撃が加えられた形跡もない。
ナザリックの防衛責任を担うデミウルゴスは、それを確信している。
しかし、なぜだかナーベラルは休まざるをえない状況になっている。
至高の41人のまとめ役であらせられるモモンガ様がそう判断したのであれば、そこに間違いはない。
だとすれば、一体何が起こっているのであろうか。
デミウルゴスは騒めく心を何とか鎮めながら、モモンガに問うた。
「ああ…そのことについて話すために、見てもらうために…お前たちに集まってもらった…」
どのような話が為されるのであろうか…。
見てもらうとはどういうことであろうか…。
デミウルゴスの圧倒的な頭脳をもってしても、モモンガが発している言葉の意味を理解できなかった。
そうして悶々としている最中、ふと目にする。
アルベドが、苦悶の表情を浮かべ、涙を流していることを。
守護者統括として、御身の前でそのような醜態をさらすことは許されない。
一瞬、叱責にも似た感情が心を支配するが、それがアルベドだけでないことを知る。
セバスと、ナーベラルを除くプレアデス達も同じような様相であったのだ。
それが何であるのかを考察する前に、モモンガ様が口を開いた。
「落ち着いて聞いてくれ…。このアインズ・ウール・ゴウンのギルドメンバーの一人である、弐式炎雷さんが……死亡した」
玉座の間が、一気に静まり返る。
いや、そもそも静まり返っていた。
しかし、モモンガが言葉を発する前とは違う静けさであった。
理解しがたい…それ故の静けさであった。
デミウルゴスですら、モモンガ様の発する言葉の意味を理解するのに数秒を要した。
そして、負の感情が、絶望が心を支配する。
アルベドやセバス、プレアデスが、なぜ御身の前で涙を流していたのかを理解してしまう。
そして、なぜナーベラルがこの場にいないのか…。
なぜ休ませているのか…その全てを…。
悲鳴にも似た呻き声が、玉座の間のそこかしこから聞こえてくる。
「一つずつ説明しよう…」
モモンガ様の言葉により、その悲鳴のような呻き声が、些少ではあるが収まる。
弐式炎雷様に何が起こったのか、なぜ死亡したのか…。
その真相を聞くために、もしそれが敵の仕業であるならば、確実に滅ぼすために、玉座の間にいるNPC、僕たちは一言一句聞き逃しまいと耳を傾けた。
「事の発端は、3時間前…。昨日の23時過ぎに起こった。弐式炎雷さんが、久しぶりにナザリックに来たのだ。私は、それを円卓の間で迎えた。」
それを聞いて、感嘆にも似た声が玉座の間を埋め尽くす。
しかし、同時に疑問が浮かぶ。
3時間前にナザリックに来て頂けたのであれば、なぜ死亡してしまったのかと…。
同じように考えていたデミウルゴスは、心臓を直接握られているような感覚に陥る。
「(ま、まさか…円卓の間に侵入者が…ッ!)」
しかし、デミウルゴスはそれをすぐに否定する。
侵入者を感知する網にかからず、御身がナザリックに帰還される場所である、第9階層に位置する円卓の間に敵が直接侵入するなど、不可能であったからだ。
その推測が当たっていることが、すぐさまモモンガの口から発せられた言葉によって理解する。
「私は嬉しかった…。久しぶりに友人に会うことができて、非常に嬉しかった…。しかし、弐式炎雷さんの表情は優れなかった…。故に問うた…、『どうしたのか』と…。そして、弐式炎雷さんは答えた、『ガンという病に侵された』と…。そして、残された寿命が……明日…。つまりは今日であると…」
NPC達は、驚愕に声を出ない様子であった。
既に幾人かは、先のアルベド達と同様に涙を浮かべている。
そこで、一人の少女が、真っ赤な目を有した少女が口を開いた。
「そ、その病は…ナザリックの僕達でも治せぬものなのでありんすか⁉」
本来、モモンガの許可を得ない質問は、不敬であったが、アルベドやデミウルゴスですらそれを咎めない。
いや、咎める余裕などなかった。
「シャルティア…。我々の元居た世界…お前達からすればリアルというのか…。そのリアルで受けた傷や病は…ユグドラシル、つまりはこのナザリックで癒すことは叶わない」
モモンガの言葉に、シャルティアは表情を大きくゆがめ、その見開かれた大きな目には、即座に大粒の涙が溜まっていく。
「故に私は覚悟を決めた…。彼を見送ることに…」
モモンガは、玉座のひじ掛けを強く握りしめる。
骸骨のその表情は、苦悶の表情を浮かべていても、変わることはない。
しかし、僕達にはそれを読み取るのは容易い。
「そして、弐式炎雷さんは望んだ…。この玉座の間で…最後を迎えることを…」
「ッ!!で、では…弐式炎雷様はここで…ッ!!」
デミウルゴスは、バッと顔を上げ、玉座の間を見回す。
見回すと、デミウルゴスの後ろに控える無数の僕たちは、嗚咽にも似た表情を浮かべていた。
「そうだ…。ここで死んだ…」
「ッ!!!」
デミウルゴスの瞳が、ダイヤを有する瞳がギラリと光る。
モモンガは、それを知ってか知らずか、一つのマジックアイテムを手に取る。
それは、ユグドラシル内の出来事を記録する水晶であった。
「その時の、映像を見せよう」
モモンガは水晶をかざすと、玉座の前にプロジェクターのようにして映像が浮かび上がる。
映像の始まりは、弐式がアルベドの肩に手をのせているところであった。
それを見たアルベドは、足を震わせる。
『アルベド…今までモモンガさんを支えてくれて、ありがとう…』
『…弐式さん』
弐式炎雷様の行動を見て、デミウルゴスは溢れる涙を止めることを放棄する。
我々は、御方々に仕えるべくして作られた存在である。
故に、そのために働くことなど当たり前であった。
それが存在理由なのだから。
しかし、弐式炎雷様はそれでも、アルベドに労いの言葉を掛けたのだ。
アルベドが足を震わせ、そして今しがた座り込んでしまうに至るか、その心情を図る必要などないくらいに、デミウルゴスは彼女の心情を察した。
そして、弐式炎雷様は、ゆっくりと階段を降りる。
セバスへと歩みを進める。
『セバス…ナーベラルを…プレアデスを導いてくれてありがとう…感謝している』
そして、同じようにプレアデス一人ひとりに声を掛けていく。
そして、デミウルゴスは気付く。
弐式炎雷様が、淀みなく僕たちの名を発していることを。
…それだけで、分かった。弐式炎雷様がこのナザリックを、我々僕を捨てたわけではなかったと。
少しでも、ほんの少しでも捨てられたと考えていた過去の自分を、殺してやりたいくらいの感情が、デミウルゴスの中に生まれる。
最後の一人、ナーベラルの前に立った弐式炎雷様は、暫し瞳を見つめるようにして立ち尽くしておられた。
そして、ゆっくりと肩に手をかける。
『ナーベラル…すまなかった…。私は、ずっと君を待たせてしまった…。加えて、ナザリックを守ることもできず…さらには病に敗れ、無様に死にゆく私を、どうか、許してほしい…』
『…ッ!弐式さん…ッ!』
弐式の身体の一部が、砂となって掻き消える。
その言葉を耳にして、消えゆく弐式炎雷様の身体を見て、ダークエルフの双子…アウラとマーレが耐えきれないと言った様子で目を伏せていた。
他の僕たちも、守護者ですらすでに、御身の前に膝まづく際の矜持の一欠けらも見られない。
『モモンガさん…どうやら私は…ここまでのようです…』
『ッ!…弐式…炎雷さん…ッ!!』
『…モモンガさん…、私は、癌との戦いのため、ユグドラシルを…このナザリックを去った…。何も言わずに、何も告げずに、全てを遠ざけてきた…。ナザリックを…NPCを、あなたを巻き込みたくはなかった…。でも、今ではこう思います…。あなたにもっと早くに伝えられていれば、未来は変わったかもしれないと…』
『……ッ!』
なぜ、病に、がんに侵されてナザリックを一時的に去ったのか…。
それを聞いたデミウルゴスは、すでに正常な判断ができないまでになっていた。
弐式炎雷様は、足を引きずるようにして、ゆっくりと玉座へと足を運び、モモンガ様に向けて手を伸ばされている。
『だから…せめて最後に…本当のことを…ほんの少しだけ…』
『弐式さん!!』
モモンガ様は玉座から飛びだすようにして弐式炎雷様の手を掴み、肩を掴んで支える。
弐式炎雷様は、だらんと垂れた頭を、何とか上げて口を開く。
『もっと、あなたと一緒に居たかった…。もっと、ナザリックに居たかった…。もっと、NPCと居たかった…。もっと、ナーベラルと一緒に……』
『ッ!わかっています!わかっています!!弐式さん!!』
コキュートスから、ありえないほどの冷気が漏れ出ている。
それが感情によるものであることを理解できない者はいなかった。
『…ありがとう…ございます…。…モモンガさん…私は、あなたと出会えて…しあわせ…で…し……た………』
『弐式さん!!弐式さんッ!!!』
『アインズ・ウール・ゴウンに……栄光……あれ………』
…まるで粉塵のようにして、弐式炎雷様の身体が掻き消える。
…そこで映像は止まった。
映像とそれによって齎された音声が消えたことで、NPC達が咽び泣く声が、玉座の間を支配する。
玉座の間という神聖な場所にあるまじき光景であったが、それに異を唱えるものは誰もいなかった。
「これが…弐式炎雷さんの…死に様だ」
モモンガの最後の一言で、まるでダムが決壊したように、玉座の間は悲愴と慟哭に包まれた。
目を覚ますと、目の飛び込んできたのは真っ白な天井だった。
ゆっくりと身体を持ち上げる。
その目に、生気はなく、輝くような黒い瞳だったそれは、酷く澱んだ目をしていた。
それに気づいたのは、傍で彼女を見守っていたペストーニャであった。
「ナーちゃん…。起きたのね…」
その声に、ナーベラルの目が僅かに動く。
「ぺス……わたしは……」
ナーベラルはここに至るまでの記憶を探ろうとするが、心当たりはない。
しかし、自分がなぜこれほどまでに焦燥しているのかは理解していた。
それを脳で認知し、心に落とし込むと、耐えがたい恐怖と苦痛が身体を蝕んでいく。
「うぐっ!!」
ナーベラルは、胃のムカつきを覚え、思わず俯く。
即座に桶が差し込まれ、同時に胃の内容物が漏れ出す。
桶はその内容物を正確にキャッチしていた。
「ナーちゃん…ッ!」
同じナザリックに仕える仲間として、ペストーニャは見ていられないと言った様子で、背中を擦る。
暫く嗚咽を漏らしながらぜぇぜぇと息を切らしていたが、落ち着きを取り戻して、震える口を開く。
「ぺス……。弐式炎雷様は……どこ……?」
「………」
ペストーニャは、ほぼすべてのNPCが呼ばれたあの時、ナーベラルを看病するため、顔を出していなかったが、ある程度のことの経緯を、セバスから聞いていた。
そのため、正確にその質問に答えるだけの情報を得ていたが、それを口にはできなかった。
ナーベラル自身も、そんな質問をする意味などなかった。
目の前でそれを見てしまったのだから。
だからこそ、戦闘メイドとしての職務に当たっているはずのこの時間に、ベッドの上にいるのだから。
質問が帰ってこないことに、ナーベラルは酷く身体を震わせる。
夢であって欲しかった。
夢でないなら、否定して欲しかった。
しかし、そのどちらも得られない。
そんな、自分の求めている者が何一つ得られないため、それが涙となって溢れ出てくる。
「弐式…炎雷様ぁ…うっ、ううっ、うううっ!」
「ナーちゃん…ッ!」
そんなナーベラルの姿を見て、ペストーニャもつられて涙を流す。
ペストーニャはそっとナーベラルを抱きしめる。
他者の体温を感じたことで、ナーベラルは一気に狼狽し、ペストーニャの胸に顔を埋めながら声を上げて泣き出した。
…どのくらいそうしていたのだろう…。
ナーベラルはひっくひっくと子どものようにしゃくりあげながら、ペストーニャの胸から顔を離す。
と同時に、扉を叩く音が聞こえる。
「ナーベラル、ペストーニャ。モモンガ様がお見えよ」
声の主は、アルベドであった。
2人はビクッと身体を震わせたかと思うと、御方を迎え入れても差し支えないように地面に片膝をついて伏せる。
少しして、アルベドとモモンガが2人がいる部屋に入ってくる。
「楽にしてよい…」
「楽になさい」
モモンガの言葉をアルベドが反復し、2人はゆっくりと立ち上がる。
ペストーニャは一見すれば特に変わった様子はない。
しかし、ナーベラルは目の周りを真っ赤にさせ、美しい黒髪も所々はねている。
「大事ない…わけないよな」
「モモンガ様…ッ」
そんなナーベラルの様子を見て、モモンガは少し困った様子を見せる。
モモンガを不快にさせたと思ったナーベラルは、即座に頭を下げ謝罪を試みるが、それを「よい」と制されてしまう。
「ここにきたのは、ナーベラル。お前に私の口から真実を伝えておきたかったからだ」
モモンガは一呼吸をもってして、続けられる。
「弐式炎雷さんは死んだ」
「ッ!!」
モモンガの言葉は、僕たちとって絶対である。
モモンガが黒と言えば、透明なものでも黒になる。
故に、直接それを聞かされたナーベラルの心情は、酷い絶望感に支配される。
自死を請いたい…。そんな思いであった。
死ねば、もしかしたら弐式炎雷様に会えるかもしれない…。
そんな淡い希望をもって口を開こうとしたが、モモンガの方が早かった。
「だが、まだ生きている可能性が出てきた」
「ど、どういうことでしょうか…」
先ほどまでの絶望感の中に、一筋の光のようなものが差し込んでくる想いだった。
モモンガは、その説明をアルベドに投げる。
アルベドは一礼をもって答え、慈しみのある表情でそれを口にした。
まず、このナザリック地下大墳墓そのものが、ユグドラシルとは違う異世界に転移してしまったという内容であった。
にわかには信じられないことであったが、表層部が沼地から草原に変わっているとのことで、これは確実となった。
そして、その転移が弐式炎雷様が『完全な死を遂げる前』に起こったということだ。
つまり、弐式炎雷様も、同じように転移した可能性があるということであった。
だが、一つ疑問が生じる。ならばなぜ、『ナザリックにいないのか…』である。
ナーベラルは弐式炎雷によって生み出されたNPCである。
NPCは、自身の創造主である気配を感じ取ることができる。
このナザリックの拠点に居ればそれは確実である。
しかし、今はその気配は感じない。
その点に関しては、モモンガをもってしても超常的な力が働いたとしか今は説明できないとのことであった。
だが、弐式炎雷が『完全な死を遂げる前』にナザリックが転移したことは間違いないことであり、我々がこうして存在していることがなによりの証拠なのだという。
あの日、ナザリックは消滅するはずだったという。
ナーベラルはそれを聞いた時、弐式炎雷様も似たようなことを言っていたことを思い出す。
『ナザリックを守ることもできず…』
この言葉の意味は、このことであったのだと理解すると、またも涙があふれ出る。
ナザリックを守るのは、私を含めた僕たちであるにもかかわらず、弐式炎雷様はそれを為そうとしていたのではないかと。
色々と思考が混じるが、御方々のまとめ役であるモモンガ様の前で、これ以上の失態は許されないと考え、何とか冷静さを取り戻す。
消滅するはずのナザリックは存在し、モモンガもナザリックもNPCも無事…。であれば、弐式炎雷さんもどこかに転移しているのではないか…。
それが今、アルベドが口にしているモモンガの出した結論であった。
もちろん、これだけでは証拠に乏しい。
もし転移していたとしても、あの状態ではそう長くはもたないだろう。
しかし、そこはモモンガだけが知る、そして確信に近いものがあった。
モモンガは、本来の種族である人間ではなく、ユグドラシルで操作していた『アンデット』でこの異世界に渡った。
ならば、弐式炎雷さんも『ハーフゴーレム』で転移している可能性が高い。
そしてそれは、リアルで弐式炎雷さんの身体を蝕み、死の淵へと追い込んでいたガンも綺麗になくなっている可能性があった。
そこまで思考が固まり、結論付けたモモンガの行動は早かった。
アルベド、階層守護者、あの時あの場にいたセバスとプレアデスを呼び出し、先の説明をするに至る。
自分たちが元は人間であることや、これが実はゲームであったことなど離せないこともあったが、アルベド達はそれを真剣に聞き、各々が可能性を見出し、そして今の一縷の希望へと結論付けた。
それは、『弐式炎雷様が、この世界に転移しているかもしれない』というモノであった。
アルベドから一連の情報と可能性を聞いたナーベラルは、先ほどまでの澱んだ瞳は完全に捨て去り、元の綺麗な瞳、戦闘メイドプレアデスとしての瞳を取り戻す。
「モモンガ様…。数々の失態、申し訳ありませんでした」
「よい。お前の全てを許そう、ナーベラル・ガンマ」
モモンガはそう伝えると、ナーベラルの肩に柔らかく手を置く。
御方々のまとめ役であるモモンガに触れられたことで、ナーベラルは些少の赤面を見せるが、それを面に出さないように必死にこらえる。
「お前の悲しみ、苦しみ、不安、手に取るようにわかる。だが、弐式炎雷さんがこの世界に来ている可能性…。例えそれが不確定であろうとも、可能性がある以上、何もしないわけにはいかない…そうだな?」
「仰る通りでございます、モモンガ様」
「うむ。であれば、お前の為すべきことを為すのだ…。弐式炎雷さんがいつ戻ってきてもいいように」
「はっ!」
ナーベラルは、先ほどの憂いを一切見せることなく、威厳のある綺麗な声で答えて見せた。
※現在の弐式炎雷のレベル
・Lv95
※新しく得た忍術 (Mは上限の意味)
・写輪眼Lv3M ・万華鏡写輪眼Lv1 ・体術Lv1 ・形態忍術Lv2M ・時空間忍術Lv3M ・火遁忍術Lv3M ・雷遁忍術Lv3M ・風遁忍術Lv3M ・水遁忍術Lv1
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます