第20話 初心者がおっさんでもいいじゃない
今日も安定の22時帰宅だ。でも俺が仕事をしている間にアナスタシアさんが、あのダンジョンをパトロールしてくれていると思うと不思議と苦にならず、帰ったら解決してることを願って家のドアを開けた。
「ただいま」
「おかえりなさい、マスター! 荷物お預かりしますね」
もはや当たり前のようにエリンが俺のカバンを受け取り、それから夕食をとる。
エリンは家事全般をそつなくこなす。いいところのお嬢様なので、子供の頃からみっちりと教え込まれたらしい。
俺とエリンは向かい合って、エリン作のオムライスを口へと運ぶ。エリンが料理本を見て作ったとのこと。どうやら異世界にはケチャップが存在しないらしく、調味料が赤いことにかなり驚いていたっけ。
「初心者狩りはどうなった?」
「お姉様に聞いたんですけど、何も起こらなかったそうです」
「手がかり無しか、困ったな。いや何も起きないに越したことはないんだけど、この場合どっちがいいんだろうな」
俺は複雑な心境で、卵のふわふわ感を楽しむ。実に絶妙な柔らかさで、エリンがものすごく丁寧に作ってくれたんだなと感じ取ることができる。
「それでそのお姉様はもう帰ったのか?」
「はい。これからSランクパーティーを鍛え上げると言って、ダンジョンを出て行きました」
剣聖様はSランク以上の強さということか。それにしてもアナスタシアさん、めちゃくちゃ忙しいんだな。もしも俺が異世界に行っても剣聖にはなりたくない。モブで十分だ。
「ごちそうさま。美味かったよ」
「よかったぁ! また作りますねっ!」
俺の何気ない一言にも、眩しすぎる笑顔を見せてくれるエリンに今日も癒される。姉妹であってもこうも性格が違うなんてな。
「それじゃ始めるか」
「はいっ!」
俺とエリンは隣同士に座り、一つの画面を共有する。昨日作ったオッサン重戦士を、ダンジョン内の人目につかない場所へ降り立たせた。
俺はコントローラーを握り、一通りのアクションを確認する。武器は斧だ。といっても、木を切るような小さいサイズじゃない。
人ひとり分ほどあるんじゃないかという大きさで、刃にあたる部分は人の顔の数倍はあるんじゃないだろうか。
そんなバカでかい武器を身長190センチで顔に剣傷がある、スキンヘッドのオッサンが軽々と振り回すのだから、その迫力は相当なものだろう。少なくとも俺なら近づかない。
そして出発。実を言うと初心者狩りの情報はほとんど無い。今のところは被害に遭ってしまったFランクパーティー四人の証言のみだ。
そのパーティーの話によると初心者狩りは一人らしい。どうせあれだろ、4対1なのに勝った俺TUEEE! ってしたいだけなんだろうな。
そのパーティーが襲われた状況なんだけど、出会い頭にいきなり攻撃されたらしく、Fランクパーティーも四人で応戦した。
でも全く歯が立たず敗北。その姿を見た初心者狩りは満足そうに立ち去ったという。
なんというサイコパス。通り魔の犯行といってもいいんじゃないだろうか。
ここは俺とエリンで作り上げたダンジョン。そんな奴を野放しにはさせん!
コントローラーを持つ手に力が入る。ここは初心者ダンジョンなので迷うことは無いだろう。
(とりあえずボス部屋に行ってみるか)
その途中にチラホラと他の冒険者パーティーを見かけた。周りをキョロキョロ見回していたり、警戒しているのか少しずつゆっくりと前に進んでいたり、初心者故の緊張感が俺にも伝わってくる。
そしてなぜか俺が操作するオッサン重戦士は注目されている。すれ違う人がみんなこっちを見ているのだ。そんなに珍しいか?
ちょっと考えてみると、無理もなかった。周りにいる冒険者はみんな若い。ここは初心者ダンジョンだから、オッサンがいること自体が珍しいのだ。別に何歳から冒険者を始めてもいいじゃないかー。
もう少しでボス部屋というところで、キンキンキン! と剣がぶつかり合うような音が聞こえてきた。急いでかけつけると、一人の人物が若い男の目の前に剣を突きつけていた。
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