第13話【帰り道の問いかけ】

 夜空には星々がまばたき、冷たい風が静かに吹き抜ける。ルークとティアは交渉を終え、家に戻る道を歩いていた。の明かりが遠のくにつれ、周囲はさらに暗くなり、二人の足音だけが静寂せいじゃくの中に響いている。


 ティアと無言で歩いていたが、ルークはふと勇者についての疑問が湧き、彼女に問いかけた。


「ティアさん、勇者ってどうやって生まれるんだ?」


 ふと漏れたその質問に、ティアはゆっくりと口を開いた。


「勇者……ですか…?」


 ティアは短く息を吸い込み、敬意を持った口調で語り始めた。


「勇者という存在は、異世界から召喚されるのです。召喚される理由の一つは、その者が他者とは違い、貴重なスキルや多くのスキルを持っていることがあるからです。」


「この世界に生まれる者の約60%は、1つのスキルしか持ちません。そのうちの20%が2つのスキルを持ち、その中のさらに10%が3つのスキルを持って生まれます。3つのスキルを持っているは国の英雄と呼ばれる人か,、勇者ぐらいしかおりません。」


 ルークはその言葉に耳を傾けながら、自分自身の存在について考えていた。彼がこの世界に転生した理由が、スキルの数に関係しているのだろうか。考えが頭の中で渦巻き、彼は意を決して次の言葉を紡いだ。


「信じられないと思うんだけど、実は、俺も異世界から転生してきたんだ......」


 ルークの言葉は静かな夜の空気を切り裂くように響いた。ティアはその瞬間、足を止め、ルークをじっと見つめた。その表情には明らかに困惑こんわく疑念ぎねんが浮かんでいる。


「異世界から転生…ですか?」


 ティアは敬語を保ちながらも、その声には明確な戸惑いが混じっていた。


「勇者は魔王を倒すためにいるため、全て人間のなかからしか現れていないはずです。オーガが…勇者として生まれることは…」


 ティアの声にはまだ困惑が残っており、彼女の目が疑問を抱えながらもルークを見据えた。冷静を装っているが、その態度の裏にはこれまでの経験と知識が見え隠れしている。


 だがルークは真摯しあんな表情を崩さず、彼女の視線をしっかりと受け止めた。


「けど本当なんだ......俺が勇者なのか分からないけど、異世界から来たんだ。」


 ティアはしばし黙り込み、ルークの言葉をめるように思案っしあんした。彼女の瞳に映る月明かりは、心の中で何かを測るような冷静さを帯びていたが、やがて深いため息を吐き、ゆっくりと口を開いた。


「わかりました、ルーク様。ですが、私は勇者を判定するペンダントを持っております。試してみてもよろしいでしょうか?」


「もちろんだ。試してくれ」


 ルークはすぐに答えた。


 ティアは慎重に立ち止まり、首にかけていたペンダントにそっと手を伸ばした。そのペンダントは銀色に輝く細工が施され、中央には小さな宝石がはめ込まれていた。彼女がそれを軽くにぎると、宝石が柔らかく光をはなち始めた。


「このペンダントは、勇者を判定するための特別なものです。少しお待ちください…」

 ティアはそう言いながら、ルークに向かってペンダントをかざした。


 光が次第に強まり、ルークの体をゆっくりと包み込んでいく。その光は神秘的な輝きを放ち、静かな夜の中で周囲の空気が少し変わったように感じられた。


 その瞬間、ティアは驚愕のあまり目を見開いた。彼女の表情は信じられないものを目にしたかのように固まり、口元がかすかに震えた。


「まさか…本当に、ルーク様が…勇者であるとは…」


 彼女の声には、これまでの冷静さを一瞬にして崩された驚きがはっきりと表れていた。彼女は思わず一歩後ずさり、その場で立ち尽くした。


「勇者がオーガであるなど…そんなことは一度も聞いたことがありません。しかし、この光…確かに勇者の証です。そして、貴重な鑑定スキルをお持ちであることにも納得がいきます。」


 彼女の言葉には、戸惑とまどいとおどろきが混じっていたが、同時にルークに対する深い敬意と感動が溢れていた。そして続ける言葉はさらに熱を帯びた。


「まさかオーガの中から勇者が現れるとは、夢にも思いませんでした。ルーク様と共に戦えることを…心から光栄に思います。」


 彼女の震える声には、ルークへの尊敬がはっきりと表れていた。疑問や戸惑いがありながらも、ティアにとって、勇者とともに戦うことは名誉めいよ以上の意味を持ち、その思いはルークにも強く伝わってきた。


 一方、ルークの心には疑念が渦巻うずまいていた。勇者は魔王を倒すために存在する。なぜ、魔族であるオーガが勇者に選ばれたのか。


 彼の思考は、この不可解な状況に捉えられ、果たして自分が本当にその役割を担うべきなのか、そしてこの運命がどこへ導いていくのか、疑問に思うのだった。

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