異世界にオーガ転生!鑑定士のスキルと仲間全員に経験値を分配するスキルで、人間と魔族の共存を目指して戦争を終わらせる!

@narimasa1129

第1話 【終わりの始まり】

 佐藤直樹さとう なおきは、大学の図書館にいた。窓から差し込む午後の柔らかい陽光ようこうが、彼の目の前に広がる一冊の古書こしょを照らしている。


 タイトルは『戦国武将列伝』。彼の好きな戦国時代を扱った本で、戦国大名たちの戦略やその生き様が詳細に描かれているものだ。


「ここが…秀吉の天下取りの決定的な瞬間か…」


 直樹はページをめくりながら、心の中で感嘆した。豊臣秀吉が信長の遺志を継ぎ、着実に天下統一へと歩を進めたその戦略は、彼の憧れそのものだった。


 無名から成り上がり、知略と大胆さを兼ね備えた行動で道を切り拓いていく秀吉の姿は、直樹にとっての理想の生き様であった。


「俺も、こんな風に…生きてみたいよな」


 ふと、彼は本から顔を上げ、窓の外を眺めた。キャンパスの木々が風に揺れ、静かで穏やかな時間が流れている。だが、その穏やかさとは裏腹に、彼の胸の内には何か満たされないものがあった。


「現実は、そんなにうまくいかないよな…」


 彼は肩を落とし、静かにため息をついた。大学生活は退屈で、単調だった。友達はそこそこいたが、特別親しい存在でもなく、彼女もいない。


 日常は、淡々と流れていくだけだった。彼はただ、戦国時代の本を読み、その中に自分を投影することで、刺激を求めていた。


「戦国時代に生まれてたら、俺も…」


 ふと、胸の奥がズキリと痛んだ。


「あれ…?」


 一瞬の違和感。直樹なおきは顔をしかめ、軽く胸を押さえた。だが、それはすぐに消え、彼は再び本に目を落とした。気にするほどのことではない…そう思ったのだ。


 だが、次の瞬間、激しい痛みが彼を襲った。


「うっ…!?」


 鋭い痛みが胸を貫き、彼は本を落とし、思わず机に突っ伏した。視界が急速に揺れ、呼吸が浅く、苦しい。心臓がまるで爆発しそうなほど強く鼓動を打ち、全身が痛みに包まれていく。


「なんだ…これ…?」


 彼の手が震え、指先が冷たくなっていくのを感じた。頭の中は混乱し、何が起きているのか理解できない。視界がだんだんと暗くなり、音が遠ざかっていく。


 周囲の気配も、図書館の静けさも、すべてがぼんやりとした霧の中に溶けていくようだった。


「俺…死ぬのか…?」


 その瞬間、彼の頭の中に家族の顔が浮かんだ。母親の優しい笑顔、父親の厳しいが温かい言葉。彼らの元へ帰れないかもしれないという恐怖が、急に彼を襲った。そして、それと同時に、彼の胸の中にポツリと湧き上がる後悔。


「あの時…もっと…」


 何かを言おうとしたが、言葉にならなかった。言葉は虚空こくうに溶け、意識は暗闇へと吸い込まれていく。


 彼はゆっくりとまぶたを閉じ、最後に思ったのは、秀吉の天下取りのシーンだった。戦場で旗を掲げ、勝利を収めるその姿。反対に自分は、何かを成し遂げることなく、このまま終わってしまうことにむなしく感じた。


 自分は夢見るだけで、何も実現できないまま終わってしまう。戦国の世に生まれていれば、もっと違った生き方ができたかもしれない。


 意識が完全に途絶える直前、彼は静かに呟いた。


「戦国の世に…生まれていれば…」


 それが、彼の最後の言葉だった。

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