第13話 初めての笑顔
ルーカスお兄様に叱られたあの夜から2週間
3日後には、いよいよ領地対抗戦の剣術大会だ
この2週間の間に私はユリウス様のマントを作りハンカチにも刺繍をした
銀狼に翼の刺繍
強力な戦士であり、全ての疑問に対して正しい解答をすると言われる魔神マルコシアスの刺繍だ
「まあ、セシル様素晴らしいですわ
マントの裏の刺繍もすごく素敵です
もうこれは素人の仕事ではございませんね」
「ありがとう サマンサ」
実はユリア・マーキュリーのお店のお手伝いしたり内職で刺繍していたので実は素人ではないのかもしれない・・・
そうねそれでお金をもらっていたのだからそうなるのかしら
と思ったけど黙っておこう
あんまりこういう話をすると両親の立場もなくなるもの・・・
私にしてみたら いろんな経験をしたか普通に伯爵令嬢をしていたらお会えないようなイワン様やショーン様のような方達とお会いできていろんなお話を聞いたり見聞が広がったりしたのだけど上部しか見ない人たちには悪く言われてしまうことが多い
そういう人に限って噂話が大好きで自分で勝手に想像して思ったことを事実のように触れ回る
人間というものは可哀想なものでそういう話をまたまともに聞いてして受け入れてしまう人が大半だったのである
ある程度歳を重ねて「その人」を見ることに長けている人は「噂」ではなく私自身を見て話をしてくれて私を受け入れてくれていたような気がする
まあ、私のことを言われたり悪く言われることには慣れたがやはり両親のことを悪く言われるのは嫌なものだ
もちろん、サマンサたちはそういう人ではないということはわかっているのだがあえて言わなくてもいいかなって思うわけなのですよ
「あら、この膝掛けもセシル様がお作りになられたのですか」
「そうなの この膝掛けが少しずつ編んでいて・・・・
お世話になっていたアンナ・マトレシア公爵夫人にプレゼントしたくてっようやく完成したからお届けしようと思ってね」
「左様でございますか きっとマトレシア夫人もお喜びになられますよ
そうそう ユリウス様も」
「ユリウス様も喜んでくださるといいな」
「セシル様・・・ ユリウス様はなかなかご自分の感情を表に出さない方なのですがセシル様がいらっしゃってからは纏う空気がとてもやさしくなられましたよ」
「そうかしら・・・
でもサマンサ、私はユリウス様は表情に出されなくてもとてもお優しい方だと思っているの
だから余計に幸せになっていただきたいから・・・・
もし他に好きな方がいらっしゃるのであれば婚約は魔法契約で破れられないから結婚してから離婚して差し上げたほうがいいのかしらなんて思ってしまって・・・」
「え・・・? セシル様・・・今なんて・・」
サマンサは唖然としてしまった・・・ え? ユリウス様に今まで女性の影なんてなかったわよ
凄く幼い頃名前も知らないご令嬢の話しかきいたことないわ・・・
自分の知らないユリウス様の好きな女性の話にサマンサはびっくりした
「他に好きな方がいるなら離婚してあげたほうがいいかしらって・・・」
「セシル様〜!!そんなことはございません!絶対ございませんからそんなお考えはお捨てくださいませ」
普段は色々周りが見えていて淡々と物事を考えたり行動する方なのにこうやって時々とんでもないことをおっしゃるわ
このセシル様って方・・・・
先日お兄様のルーカス様が帰りがけに私に仰った通りだわ
「あの・・・セシルって子はねすごく真面目そうでまともそうに見えるけど周りのことが見えすぎて時々すごく斜め上のこと言い出すからその時は悪いけどあなたたちが止めてね
本当にほっとくと暴走するから・・・
ごめんね 苦労かけるね」とニコッと笑って帰られた
「本当にルーカス様のおっしゃられる通り」
「え?兄が何か?」
「いえなんでも とにかくセシル様! ユリウス様はあなたのことをとても好ましく思っていらっしゃいますから自信を持ってください」
「へ?自信?」
「そうです貴方様はこれから辺境伯家の奥様になられて辺境伯家を支えて引っ張っていかれるんですよ
もっと自信と覚悟を持ってください」
「覚悟してください・・・・って」
どこかで聞いたな・・・って私がユリウス様に言ったじゃない
「貴方のこと好きになりますから覚悟してください」って
「愛さなくてもいい」と仰った言葉は確かに気になるけど「好きにすればいい」とも仰っていたわ
「本当にそうだわ サマンサ ありがとう」
「それならよかったです」
セシルの言ってることが少し何をいっているのかわからなかったがこれがルーカスの言う「斜め上」ってことなのかしらとサマンサは思った
まあ、何にしろセシル様の気持ちがスッキリしたならよかったとサマンサはホッとした
その夜セシルはユリウスとの毎夜のお話タイムにマントとハンカチをプレゼントした
「ユリウス様のご武運をお祈りしながら作りました」
「ありがとう・・・・だが・・・俺は大会には出ない」
「へ? 」
「出場しない・・・」
「出場しないのですか?」
「ああ、騎士団の連中にそういった場所を経験してもらうほうがいいからな」
「あ・・・・」
セシルは自分の先走った勘違いに恥ずかしくなり顔が赤くなった
「も、申し訳ございません」と渡したマントとハンカチをユリウスの手から奪い取り部屋を飛び出してしまった
わ〜!どうしてちゃんと聞いておかなかったんだろう
ユリウス様なんて思ったんだろう・・・・
初めて彼の感情が表情に出ないことにセシルは困惑した
走って自分の部屋を飛び出した先は、あの東屋だった
東屋は月の明かりの照らされてそこだけがポウっと浮かび上がっているようだった
東屋の中の椅子にマントとハンカチを握りしめて丸まり座った
ああ、絶対呆れているし困らせてしまった・・・
そう思うのと自分だけが空回りばかりしているんじゃないかと思い恥ずかしさで涙が出てきた
こうして飛び出してくるなんてことも恥ずかしい・・・
どうしよう・・・
そう思っていたらファッサっと丸まった体にブランケットをかけられた
上を見るとユリウスの顔がすぐそこにあった
「風邪ひくぞ」
「ユリウス様 ごめんなさい 呆れたでしょう」
「どうして? 呆れることなど何もない」
ユリウスは丸まった私を抱き抱え
「部屋に帰ろう」
そう言って部屋へと進んだ
月明かりに照らされた庭園の中を抱きかかえられたまま通り部屋へと戻る
ユリウスはいつも何気なくセシルを抱きかかえるがセシルは抱きかかえられる度に胸の鼓動が激しくなるのを感じていた
ドキドキとしながらも、がっちりと抱えてくれるユリウスの大きな手 腕 そして目の前にある彼の広く温かい胸板に安心感も感じ始めていた
「ユリウス様重いでしょ おろしてください」
「いやだ また逃げるだろ」
「逃げないです!」
月明かりの光を浴びて
「ハハハ! 嘘つけ逃げるだろ!そのマントとハンカチも俺は返してもらうぞ」
初めてユリウスが笑った
「え?今ユリウス様 笑っていらっしゃいます・・・・」
「あ・・・本当だ」
セシルは思わず抱き抱えられたままユリウスに抱きついた
「ユリウス様の笑顔とても素敵です」
ああ・・・思っても見なかった・・・
俺はまだ笑ったりできるんだ・・・でも俺にそんな資格はあるのだろうか・・・
ユリウスは、自分が笑顔になったことに安心しながらも大きな戸惑いを感じた
嬉しさと困惑が混じりった月明かりの綺麗な夜だった
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