第54話  クラウスとの再会

 港に行くと遠目でも目の引く背の高い男性がいた

 ハイネの兄であるクラウス先輩 クラウス・グライシス小侯爵だ


 長くなった黒髪を髪紐で一つに括り気合いを入れ、彼に近づく


「おい、ブルー、ホクト、マシロ 念のために姿を消すんだ」

 3頭はフッと姿を消した


 ここからは、えっと名前・・考えてなかったいきなりクラウスがいるとは思わなかったし・・・・・・リアイアルでリルだから アル!よし冒険者アルだ。


 俺は今から冒険者アルを演じあげるんだ

 俺の中の役者スイッチが入る

 港の人達や船員たちと話しているクラウスに近づいていく

 声はいつもよりもっと低くして・・・・


「こんにちは、旅のものだが今日は船は出港しないのか?」


「ああ、旅の人申し訳ない事情があって今出港できない状態なんだ」

 船の船長らしき人物が答えた


「そうか、何かあったのか?」


「実は・・」と船員が話そうとすると、クラウスが遮った


「いや、今船の点検の作業員が怪我をして作業に時間がかかってしまって、船を出すのが遅れているだけなんだ

 あと2日間ほどで出港する予定だ」


 クラウス、噂をこれ以上流したくないんだな


「そうか、わかった

 では、2日間ほどなら宿屋にでも泊まって出港できるのを、待っているよ」

 この場から立ち去ろおうとすると、クラウスに呼び止められた


「いや、待ちたまえ

 実は今、宿屋も出港を待っている人でどこも満室なんだ」


「そうなのか、どうせ俺1人だ

 飯も寝るのもその辺でするから大丈夫だ」

 と振り返ろうとするとクラウスが回り込んできた


「いや、それでは申し訳ない

 よろしければ我が家で泊まるといい!」


「いや、いや、いや結構だ

 名前も知らない人間なのに申し訳ないよ 

 ありがたいお誘いだが遠慮しておくよ」


 え〜!クラウス先輩!!何言ってんだよ 

 見ず知らずの人間だぞ今!俺は!そんな人間軽々しく家に招くなよ


「いやいや、気を使わなくても大丈夫だ!」

 とクラウスに無理やり引っ張られ馬車に押し込められた


 馬車の中でクラウスは何故かニコニコしている


「あなた、大丈夫なんですか、見ず知らずの人間をお邸に連れて行って

 俺が悪党ならどうするんですか」


「いや、大丈夫、私はこれでも人を見る目があるんでね」


 その、自信はどこから来るんだ


「あ!でも1人だけすごく信頼していた後輩がいたんだがそいつだけは外したな」


 え?


「妹がさ、そいつに利用されてっというか・・・・

 とにかく傷つけられたんだよ 心をね」


 ううわぁ〜!それ俺だよね 俺ですよね。


「妹は、何も言わないけど、妹が変わったのはあいつのせいだって俺にはわかるんだよ」


 ・・・・・・・ 


「あの、いつもこうやって知らない人を、家に呼んでるんですか?」


「いや、君が初めてだよ なんとなく呼ばないといけない気がしてさ」


「そうなんですね」


 とにかく、泊まるだけ 関わらない、部屋から出ない

 そう固く誓った


 そう、俺は冒険者アル、名前はアル

 旅の途中でここに立ち寄った

 天外孤独、親も兄弟もいない色々な「アル」という人物の背景

 性格などを考えながら頭と体に刷り込む

 馬車の中で到着まで役作りに没頭した


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