第44話 dance for the first time
音楽が流れはじめた
「グライシス嬢、あなたの初めてのダンスを踊る栄誉をどうか私に」
と手を差し出す
「よろしくお願いいたします」
手を取るハイネ指先から彼女の緊張が伝わる
「大丈夫、いつも一緒に練習したじゃないか
この煌びやかなホールに2人だけいると思えばいい」
そうリルに耳元で囁かれハイネは緊張はほぐれたが胸の鼓動はおさまらなかった
軽やかに息のあったダンスを踊るふたりは、この場で間違えなく主役であった
皆が息を呑むほど美しく眩しかったのである
夢のような時間が終わると今日からみんなそれぞれこのまま寮に戻りまた明日から学校生活が始まる
寮への帰り道
リルが「グライシス嬢、少しいいだろうか」と足を止めた
先程まで降っていた雪は止んで空には星が輝いている
リルは2人の周りに魔法をかけ温かくし話が外に漏れないよう魔法をかけた。
「グライシス嬢、パートナーとしての時間はここで終わりだ
これからは、名前で呼ぶことも気安く話かけることもやめていただけるか
それと見守り隊と言うのも即刻解散していただきたい」
「え! リル様先程休憩室からお戻りになられてからご様子がおかしかったですが何かあったのですか?」
「いや、別に何もない
グライシス嬢、そういったことをやめていただきたいと申し上げている
今回私のパートナーを務めていただいたのは有り難いと思っている
だがもう、舞踏会は終わったのだ
パートナーの役目は終わったのだ 話は以上だ
ここからは寮は目の前だから君1人で帰れるだろう
今日はありがとうグライシス嬢」
そう言ってリルはハイネからの言葉も聞く事無く一方的に冷たく立ち去った
ハイネは、先程までの夢心地の気分から一転した今の状況が理解できなかった
リルに言いたい事、問いたいことは沢山あったが言葉にも声にすらならなかった
月の光が降り積もった雪を美しく照らし雪がキラキラと光っている
リルと過ごした時間は、穏やかで今までに感じた事のない夢のような時間だった
しかし、初めてのダンスは甘く切ない思い出になってしまった
それから、淡々と学校生活は毎日過ぎていきリルとハイネは変わらなく過ごしていた
「ねえ、ハイネあれからリル様と何もないの」
「何も って何があるの?
だから言ったじゃない冬休みの帰り道にたまたま話したからパートナーに誘われたってただそれだけよ」
「うーん、わかってるし周りのみんなもハイネのことラッキーガールって言いながらも綺麗になったねって言ってるよ」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど何もないの」
「そうなんだ・・・・・・」
◇◇◇◇◇◇◇◇
カラーン とバルトの店の扉の音がなる
「いらっしゃいませ、リル様」
「こんにちは、バルト。懐中時計の組紐をいただきたいのだが……」
バルトはいくつかの組紐を出した
「お好きな色に別の色を刺すこともできますが」
「じゃあこの薄いエメラルドグリーンに薄いピンクを刺してもらえるか」
「はい、ではこちらに・・・
この糸を指してまいります しばらくお待ちください」
とバルトが奥に入った
しばらくしてバルトがリボンをかけた箱を持ってきた
「すまない、プレゼント用でなく自分で使うものなのだが・・・・・ 」
「リル様、実はハイネお嬢様からリル様がもし組紐を購入にお越しになられたらご自分からのプレゼントにして欲しいと仰せでして、すでにお代金も頂戴しております」
「それは、いつのことだ」
「ちょうど、舞踏会の打ち合わせで私がお伺いしていた時でした
リル様の組紐が痛んできていたことが気になったご様子でした
組紐ならリル様のご負担にもならないかと思われたようです」
「そうか、ありがとう」 そう言って店を出た
組紐の箱を握っていた手は震えていたが、表情は変わらずまっすぐ前を見て歩くリル
しばらくして学園からリル・ジーザメリウスの姿が消えた
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