魔族
「なぁにぃを言っているぅ!」
覚悟を持って、本当の自分としてこの場に立った。
そんな僕に対して、シアーは声を震わせながら大声を上げる。
「そのような馬鹿な話があるかっ!」
「何がだ?実際に見せただろう?これが答えだ」
そんなシアーの前で僕は両手を広げながら答える。
「今の我こそが成功作であり、人類の希望」
これまでずっと暴走していた、自分が一切の制御を手放していたせいで暴走していた力をシアーの前で開放する。
「我が王だ。我こそが悪魔の王よ。神話上の悪魔、そのすべてをわが身に内包し、その力を振るう。これこそが我だ」
僕は何か、それはすべての悪魔たちの王。
力は何か、それはすべての悪魔たちのもの。
「異界に住まう悪魔が眠りし王たる我がここに立ったのだ。喝采せよ」
我こそが王だ。
「なら……なら、私は何をっ!」
喝采を求める僕に対して、シアーの方は頭を押さえながらうめき声を上げる。
「お前の行為に何の価値もなかった。既に完成していたのだからな」
喝采をしなかったことは不満だが、それでも、良いだろう。
シアーの方も今の僕の力を見て、本能的に悟ったのだ。
自分が作ろうとしていたものが既に完成していたことを。
「悪魔……悪魔だと?なんだ、それはっ!」
「何だ?お前は神話を呼んだことがないのか?語り草だろう。神へと反逆したこぼれ落ちた者たちだ」
「あんなもの、ただの伝承だろうっ!我々研究者が追うべきなのはもっと現実的な……」
「お前が遅れているだけだ。あの場では悪魔の存在を確認し、事実のものとしていた。そして、それを元にした研究を行っていたのだ。内容が内容であるがゆえに、箝口令が敷かれ、下の研究者には伝えられていなかったけども」
ルータだって、僕の中に力の正体が何であるかまでは知らなかったと思う。
それくらい悪魔の存在はしっかりと秘匿されていた。
「馬鹿なっ!」
「認めたまえ。君の今まではすべて無駄……いや、それは言い過ぎだな。こうして、お前の行為は我の覚醒を後押しした。誇りたまえ」
「違うっ!私はそんなことがしたかったわけではないっ!あの人たちに追いつきたかったの!私は、研究者としてぇっ!なぜ、何故、こうなるっ!私が完成させなければならないのだ。実験は変わらない。そうだ、そうに決まっている。私が待ちがっているはずもない」
僕の言葉をシアーは強く否定し、ありえないと声を荒げる。
「それに、ここに来るまでで私の同士は皆、知らなかった。ただのお前の妄言だ」
「そんなはずもあるまい。なら、隣の奴に聞いてみると良い。お前の上に立っているであろうそいつは全部を知っているぞ?ついでに言うのなら、そもそも、デュナミスなんて奴、あの街にはいなかった。そして、そいつは人間ですらないだろう」
「……何?」
悶えていたシアーは僕の言葉に反応し、その視線をデュナミスの方に向ける。
「なぁ、魔族よ」
あの日と同じ。
僕が街へと襲撃を仕掛けてきた魔族を殺し、それと共に街まで滅ぼしたあの日のことを思い出す。
だけど、それでも僕はもう止まらない。
「……ちっ、いつまでその似合わない三文芝居続けるつもりだ?我などという一人称をつけるようなキャラでもないだろう?」
「……へへっ」
実はちょっと無理していた。
自分を受け入れ、悪魔の王として君臨して生きる。
そう決めてキャラも変えようと思ったけど、うん、ちょっとなんか違うかも。
「白く逆立った髪に光り輝く瞳。そして、淀みないその力。完全に悪魔の力をものにしたか、人類」
そんな僕とは対照的に、先ほどまでの何処か飄々とした態度を完全に捨て、険しい雰囲気を纏っているデュミナスは淡々とこちらの状態を分析してくる。
「待ってっ!お前っ!……知って、いたのか?」
そして、そんなデュナミスを見て、シアーは驚愕に目を見開きながら、彼の肩を掴みかかる。
「用済みだ」
だが、それに対して、デュナミスは鉄扇を一振り。
シアーの首を斬り落とす。
「……僕は救わないよ」
彼の首が地面を転がり、体は地面へと倒れる。
シアー、君は先ほどまで僕の敵として立っていた。
助けに入らなかったを責めないでくれよ。
「それで?」
地面を転がるシアーの首から視線を外し、デュナミスの方に視線を戻した僕は疑問の声を上げる。
「君たち魔族の目的は何だったの?」
「お前を今のうちに狂わせようと思ってな。力押しで殺すより、先ほどの男が作っていた薬を用いてお前とその娘を混ぜ合わせ、バグらせようとな」
「そこそこ面白そうなことを考えているじゃん」
相手を倒すための方法でその選択をまず取るのは中々にクレイジーと言わざるを得ないね。
「それで?君たちの目論見は失敗したが、どうするの?」
「失敗など関係ないとも。ここでお前を再度潰す。それで終わりだ」
僕の疑問に対して、デュナミスはゆっくりと鉄扇を構えながら、殺意でもって答える。
「お前一人で勝てると思っているのなら、それは舐めすぎだと言わざるを得ないけど?」
そんなデュナミスへと僕は再度、天ノ橋を展開することもなく、ただその場に仁王立ちで構えるのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます