友達のまま好きになってもいいですか?

みやび

#1 友達を好きになる話




「――エッチなこと、しよ?」

「……は?」


 クラスメイトの岩沼ちはるは、突然に俺を押し倒してそう告げた。


「な、」

 何を言っているのかわからない。

 けれどその目はマジだ。冗談を言っているそれではない。


「やなの?」

「やっ、イヤってことは、ない、けど……」


 確かに俺――名取悠太は、彼女と仲がいい。客観的に見て、勘違いかどうかも含めて、楽観的観測をしなくてもそう思う。たぶん。


 高校に入学して、漫画やアニメの話をしてるうち仲良くなって……たまにこうやって互いの家を行き来する間柄になっていた。

 今日はクリイブ。彼女と部屋で二人きり。

 客観的に見ればワンチャンあっても……って感じだが、俺は全く期待していなかった。

 彼女は友達だから。

 そういう期待を向けていい相手じゃないと思っていたからだ。



「あたしたち、ぼっちじゃん」

「そ、そうだな」

「お互い彼氏彼女なんて、できるわけないでしょ?」

「っ、認める」

「つまりさ、一生童貞処女ってわけじゃん。それでいいの? ってハナシなのよ」

 早口にまくし立てる。


 彼女なんてできるわけない……という部分には異議を申し立てたかったが、あくまで意地に過ぎない。彼女の言うとおりだった。非モテが服を着て歩いているような俺に、彼女ができるとは到底思えなかった。


「でも、」俺は言い淀む。

「――ちはるは……」

 俺がじっと彼女の目を見ると、


 彼女は一瞬考えるような表情を見せた後――少しばかり目を泳がせて、意を決したように、口を開く。


「悠太だから、だよ」

「――、」

「悠太だから、したいの。いけない……?」

 うっすらと頬を赤く染めて。

 訴えるような目線を送られて俺は、ごくりと唾を呑む。


 正直、イヤだなんて少しも。けれど。

 ――その先を考えたところで、唇を奪われる。


「……あま」

「ケーキ、食べたし」

「マジレスすんな」、とちはるは苦笑を浮かべて――再び口づける。ゆっくりと、入り込むように。


「……ずるいかな、あたし」

 答えなんて期待してないだろうから、


 その口元を、今度はこちらから塞ぐ。


「馬鹿、ちはる。持ってないのに」

 持ってないと、できないでしょうが。


 でもちはるは、そっと俺の髪をなでると。

「――あたしの鞄の外ポケット、開けて?」

「……ッ!」

 手を伸ばせば、丸いシルエットが浮かんだ包みが手元に触れて。

「引いた?」

「……やべぇ女」


 すべてが終わった後――ちはるは身に着けた制服を直し、何事もなかったかのように去っていった。



     ◆



ちはる『きょうはありがと⭐︎悠太とクリイブ過ごせてよかった(猫の絵文字)悠太、大好き! また遊んでね(きらきら)』



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