—第21章:無職の変身
「ぐへへへ」
にんまりと笑う。真面目な顔をしようとしても、どうしても笑ってしまう。先ほどから笑いを堪えていたせいか、余計に我慢ができなかった。
悪魔たちとの戦闘を終え、興奮も一段落した後、調査が行われた。調査の結果、特に何も発見されず、痕跡も不明とのことで骨折り損ということになった。だが、結果に関係なく報酬はもらえるため、気にもせずその報告を聞き流してそのまま王城に戻り、国王に謁見した。
報告の最中、仲間の一人が悪魔たちとの戦闘で自分が活躍したことを伝え、特別報奨金を追加でもらえることになったのだ。
部屋の端に置いてある、大きな袋に視線を移しながら、椅子に座って酒を飲む。
「はは、手で持ち上げるのも一苦労ね」
上機嫌に酒を煽る。その大きな袋には、1万ギア相当の硬貨が数え切れないほど詰まっている。これだけあればしばらく遊んで暮らせると、何を買おうかと考えを巡らせる。
「最高級のチーズもいいわね、この際武器も買い換えようか…高級ワインを片っ端から買うってのもいいなぁ」
明日やることを何度も妄想する。妄想だけで酒が進む。すると、アモンが近づいてくる気配を感じた。
「お、来たわね」
アモンのためにグラスに酒を注ぐ。今日は機嫌がいいのでこのくらいはやってやろう。
窓がガチャっと開き、アモンが入ってくる。
「よう…」
自分の機嫌とは真逆で、アモンは沈んだ声と疲れた顔で部屋に入ってきた。
「お疲れさん!まぁ座ってお酒でも飲みなよ。いやぁ細かいことはよくわからないけど、いい仕事してくれたようで」
そう言って、静かに座ったアモンの前に酒が入ったグラスを置く。
「ん?どうしたの?お手柄だったわよーとりあえず一杯飲んで、今日はおいしいご飯を食べよう。今日はあんた好きなもの、いっぱい揃えてるわよ」
俯きながらアモンが口を開く。
「俺、クビになっちゃった…」
「えっ、クビってどういうこと?ああ、中級悪魔のポジションを解かれたのか。まぁ、しょうがないでしょ。あたし逃げるの早すぎだろって思ったし。味方だったらそりゃ信頼を失うって!」
笑いながらアモンの肩をバンバン叩く。
「ま、いいじゃない。下級になっても、また1から一生懸命がんばれば…」
……あれ、それってもしかして中級悪魔ではなくなったってことは、つまりもうインチキが使えない…?
全然笑いごとじゃないことに気づき、絶望にうなだれる。ちらりとアモンがこちらを見て、静かな声で答える。
「いや、魔王国をクビだってさ」
「そっち!?…いや、どういうこと?魔王国をクビって、悪魔じゃなくなっちゃうの?」
「いや、そうはならないだろう。悪魔は悪魔だよ。ただ、魔王国に属してない悪魔なんていないからな…」
「今までいなかったの?」
「いや、いたにはいたさ。でもクビになるってことは殺されるってことだ。そういう意味では、クビになって生きている悪魔なんてのは普通いないな」
「じゃあなんであんたは生きてるの?」
察したようにアモンは答える。
「戻った先で聞き耳を立てて、俺の処分を先に知ったんだ。それで一目散に逃げてきたってわけさ」
そう言うと、アモンは目の前に置かれた酒のグラスを一気に飲み干した。
「どうしよう?」
「いや、知らないけど…」
本当にそんなこと言われても知らない。悪魔が追放された場合の生き方なんて、どの書物にも載っていないだろう。
「ねぇ、マリア、何かいい手はない?殺す以外で」
アモンは嫌そうな顔をしつつヴェルヴェットを見た。
—そんなこと急に言われましても…殺す以外の答えって難しいです。
「なんか言ってるのか?」
アモンが尋ねてくる。
「殺せばいいじゃないかってさ」
そう言って酒を飲むと、アモンも「ケッ」とつまらなそうに酒をつぎ、2杯目を飲む。
「あ、そうだ」
「ん、なんか思いついたの?」
「俺、魔王国から逃げるときに変身して逃げてきたんだ。人間にも変身しようと思えばできるんだが、人間に変身して隠れて暮らすってのはどうだ?」
「変身してバレないの?」
「人間にはまずバレないな。聖女のような位の高いやつにはバレるだろうが、それと悪魔には結構バレる。集中してじっと見られると多分バレるが、アモンだってことは変身を解かない限りわからない。…ただ、口調でバレる可能性はある」
「ふ〜ん」
なんとなく聞きながらあまり興味なさそうに酒を飲む。もうインチキできないし、アモンが変身して住んだところで旨みがない。
ふとマリアの「殺す以外思いつかない」というセリフが脳裏をよぎる。さすがに部屋で一緒に酒や飯を共にしてきた相手を、旨みがないからといって殺すのはあまりにも薄情すぎる気がする。
などと考えているうちに、そもそもの原因が悪魔たちを殲滅した自分にあることを思い出す。うん、やっぱりなんとか助けてやろう。
「とりあえず変身してみてよ」
「よし、見てろよ」
アモンが立ち上がり、自分の前で全身に力を込めていく。
その姿から伸びる髪が変化し始めた、銀色の髪が生え揃っていく。光が反射し、銀のように輝く長い髪がゆらりと風に揺れる。その髪は肩にかかり、完璧なまでに整えられたかのようだ。
顔立ちが変わっていく。シャープな顎、鼻筋の通った端正な顔立ちが露わになり、その瞳は赤く輝く。鋭い眼差しで睨みつけるその姿は、とても魅力的な目を引かれるほどの魅力を放っていた。
身体も変わっていく、たくましい体躯が現れ、筋肉の一つひとつが緻密に形作られた。そこにはまさに何年も鍛え上げ、肥大した筋肉を極限まで凝縮して細め、完全に洗練された肉体だった。
驚いているこちらの様子を見て、アモンは薄く笑みを浮かべた。
「どうだ、いい感じだろ?」
「う、うわあああ!服着てないのかよ!このバカ!」
そう叫びながら、その顔を殴りつけた。
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