--第5章:死にかけの貴族2


そこでふと閃いた。

山賊からこの二人を助ければ、明らかに絶大な感謝をされるだろう。そしておそらくだが、この二人はそこらの貴族ではない。騎士が10人も護衛していることもさることながら、彼女たちの身に纏っているドレスは明らかに豪奢で、他の貴族の服装をも凌いでいる。

だが、問題は山賊の数が20人もいることだ。今、不意打ちで仕掛ければ、5人は倒せる。しかし残り15人がいる。彼らは弱い者を蹂躙するだけの山賊だが、

こちらは見知らぬ敵とも戦ってきた経験がある。回復用のポーションも持っているので、ラッキーパンチでもなければ負けるはずがない。

とはいえ、このラッキーパンチが怖い。戦闘では不運がしばしば起こるものだ。例えば、血が目に入ったり、汗で剣がすっぽ抜けたりと、さまざまな理由で不利な状況が生まれる。無視できないリスクだ。

ふと、騎士の護衛がいる貴族をなぜ山賊がわざわざ狙ったのか、という疑問が浮かんだ。しかし今は、決断を迫られているため、その考えを振り払う。

よし、援軍が来たように見せかけて声を上げる、山賊どもも慌てて逃げ出すだろう。

頭の中で決断を下し、森の茂みから飛び出していく。素早く動き、一番後ろにいた背を向けた山賊の頭を立て続けに跳ね飛ばした。計算通りだ。最初の2人は簡単に仕留め、その後の3人も動揺から動きが鈍く、すぐに切り捨てて残り15人になった。

「な、なんだこの女は!」

貴婦人の目の前にいた体格の大きな男が大声で叫ぶ。間髪入れずに叫んだ。

「おい、こっちだ!ここに山賊どもがいるぞ!」

その声を聞き、山賊たちが動揺した。何人かが踵を返して逃げようとする体勢になる。想定通りだ。ニヤリと笑みが浮かべる。

「落ち着け!てめえら、逃げてどうするんだ!」

体格の大きな男が叫び、逃げかけていた山賊たちがこちらに向き直る。…あれ?なぜ逃げない?援軍が来たら数の優位が崩れるかもしれないのに、普通なら無謀な賭けはしないはずだ。

再び、先ほどの疑問が浮かびあがる。なぜ騎士を護衛につけた貴族を山賊が狙ったのか…どうやら襲わなければならない理由があるようだ。

だが、ここで引くわけにはいかない。さっき考えたように、決して勝てない相手ではない。自分は騎士とは違い軽装で素早く動けるし、火炎瓶や矢程度なら対処できる。多少のダメージは受けるだろうが、ポーションで治癒しつつ殲滅してやる。

援軍のフリが効かないとわかり、意を決して山賊に飛びかかった。敵の近接武器は斧だ、ボロボロだが重量はある。斧の攻撃をかいくぐり、一撃、二撃と山賊に叩き込んでいく。火炎瓶を投げてくる山賊もいたが、軽く避けて首を刎ねた。

矢を放ってきた山賊もいたが、無駄な動作が多く、矢もさほど速くないので、簡単に剣で撃ち落とし、間合いを詰めて仕留める。残り11人。次々と斧の攻撃をかわしながら攻撃を加え、残りは8人。

「いける!このまま一気に殲滅だ!」

そう思い、さらに踏み込んだ瞬間——

「ザクッ」

足に激痛が走る。足元には、小さな黒い棘がびっしりと突き出た茶色の板が隠れていた。足を突き刺され、動揺しながらも必死で罠から足を引き抜く。

初めて見る罠と激しい痛みに息が荒くなる。ポーションではここまでの傷を完全には治せないし、足を使って間合いを取りながら回復する余裕もない。くそ、山賊ごときに!

山賊を睨みつけるヴェルヴェットに、男が高笑いしながら言った。

「よく見たら上玉じゃねぇか。降参すれば命だけは助けてやるぞ?」

それを聞いて冷ややかに睨む。こっちは山賊仲間を殺しているんだ、命を助けるつもりなどないだろう。足に激痛を感じつつも、まだ勝機は捨てていない。

そこへ、マリアの声が頭に響く。

—セラフィム・ブレスを唱えて!

「セラフィム…ブレス?」

その言葉を口にした瞬間、突如として体が光に包まれる。見る見るうちに足の傷が癒え、痛みも和らいでいく。

「これは…」

驚くヴェルヴェット。山賊もまた、彼女の異変に驚いている。

「おい、なんだあの光…魔法なのか?剣士なのに…」

彼らが隙を見せた瞬間、罠を飛び交えて一気に間合いを詰め、次々と山賊を仕留めていく。最後に残ったのは、一番体格の大きな男だった。

「ま、待ってくれ!俺は頼まれただけだ!誓ってもうお前にもあの親子にも手を出さない!」

馬鹿馬鹿しい。今まで山賊の命乞いが聞くに値したことなど一度もない。

「だめだ、死ね」

閃光のような一閃が、男の首をはねた。

「はぁ、はぁ…」

どうにか勝てた。正直、癒しの力がなければ危なかった。二度とこんな愚かな真似はしないと心に決め、強い後悔と疲労を感じながら剣を収める。

すると、視線を感じて振り返ると、先ほどの貴族の親子がいた。

「ありがとうございます!あなた様は命の恩人です!」

「ありがとう、お姉さん!」

二人は涙を浮かべ、深く感謝を示してくる。

「礼は言葉だけでなく、金で頼む」

指で円を描きながら、当然のように謝礼金を要求する。

—あなたという人は…

マリアが呆れたように声を響かせるが、気にせず親子を見つめる。

「謝礼ですか…もちろんお支払いします。ただ、今は持ち合わせが少ないので、よければ私たちの屋敷までいらしていただけませんか?私たちも、このまま2人きりで帰るのは少々心もとないので…」

なるほど、つまり家に帰るまで警護をしてくれと頼んできているのだ。

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