第2話 カール、宰相を引き受ける

 翌日の夕方もロックはディルクと食堂へ行く。テーブル席に座って食事を注文するとカールがロックの前の席に座る。

 「どうですか、私に言うことはありますか。」「僕には欲がない。」

 「ほお、まるで聖人のようだ。」「違うよ。もうすでに満たされているんだ。」

 「そのような者に進歩はありませんよ。」「だが、リースのためにこの国を守る。僕が幸せでいるために人々を助けて、良い国を作ることにするよ。」

 「リースとは誰ですか。」「アンネリースのことです。名を捨ててリースになったのです。」

 「面白い、あなたのために名と魔王の座を捨てたのか。」「そうさ、僕たちは愛し合っているんだ。」

 「いつまで続くのですかね。」「永遠だよ。命を懸けて口説いたんだ。」

 「あなたは普通ではないようだ。平凡の言葉は撤回しよう。」「僕は気にしていないよ。」

 「それに、民を守る理由がいい。征服者でも偽善者でもない。どんな国になるんだ。」「豊かな国になるよ。」

 「当然、この冬は乗り切れるだよな。」「すでに手を打っている。」

 「なら、出る幕は無いな。」「いいや、国の運営は王城で働いていた貴族に頼っているのが実情さ。」

 「貴族が邪魔なのか。」「僕はいづれ貴族制度を無くそうと考えている。」

 「そうか。でも民主制ではないのだろ。」「僕が王をするからね。だから地方民主制を行う。」

 「各地域を民が選んだ代表者が動かすのだな。」「そうだよ。」

 「ならば、国の運営も民から選ぶのか。」「今、ディルクに頼んでいる。」

 「それってまさか。俺を勧誘するつもりか。」「ディルクが説明しているだろ。」

ロックとカールがディルクを見る。

 「説明はまだですが、聡明なカールは見抜いているかと・・・」

ロックが後を引き継いで言う。

 「カール、君に宰相を引き受けて欲しい。」「いやだ。面倒だ。」

 「じゃあとりあえず。王城に見学に来てくれ。答えは後でいいから。」「遊びに行くだけだぞ。」

カールはやる気はないようだ。ディルクが言う。

 「命令して宰相にしてはどうですか。」「強制しても彼は協力してくれないよ。」

ロックは、カールが王城に来て、貴族たちの働きぶりに何らかの反応を示さないかと考える。

 翌日、カールはなかなか来ない。ロックは午前中、エスリムと回避の訓練をして、今はリースと剣の訓練をしている。するとカールがディルクと共にやって来る。

 「待っていましたよ。今汗を流してきますから待っていてください。」「ロック、こちらのすごく美しいお嬢さんは誰ですか。」

 「僕の妻のリースです。」

カールは片膝をついてリースに言う。

 「カール・プロイセです。お会いできて光栄です。ロック殿がうらやましいです。」「お前の下心は見え見えだぞ。」

 「手厳しいですね。諦めるとしましょう。」

ロックとリースは汗を流しに行く。リースがロックに言う。

 「あの男は女に手が早いようです。」「さっきのはリースを口説いていたの。」

 「口説く気でいましたよ。城内を案内する時はエスリムを同伴するとよいでしょう。」「色仕掛けだね。」

ロックを待つディルクはカールに言う。

 「何を考えているんですか。」「リースを口説こうとしたことかい。」

 「そうです。ロック様の妻で元魔王なんですよ。」「分かっているよ。美人がいれば口説く、当然のことだろ。」

 「そんな、ことはよそでやってください。」「ディルクも楽しんだ方がいいよ。」

ディルクは何を馬鹿なこととそっぽを向く。ロックはエスリムを伴ってカールの所に戻る。

 「カール、待たせてしまったね。」「これはまた、美しいお嬢さんだ。カール・プロイセです。お見知りおきを。」

 「こちらは四天王の水神エスリム、今日の見学に同伴するけどいいかな。」「もちろんです。こんなうれしいことはありません。」

 「ディルク、僕とエスリムで案内するから、ご苦労様。」「はい。」

 「エスリムさん、一緒に歩きませんか。」「いいですよ。」

カールはちゃっかり手をつないでいる。ロックはカールが四天王のエスリムを恐れないことに感心する。

 まず、財務大臣の中西の所へ行く。カールはしばらく働いている人の様子を見てから中西に質問する。2人はしばらく話し合う。カールがロックに言う。

 「有能な人材がいるではありませんか。知識も豊富だし、きちんと管理出来ている。」「中西さんは召喚者で経理の仕事をしていたそうですよ。」

 「なるほど、異世界の知識を役立てているのですね。」「内務大臣の所に行きます。」

カールはエスリムと手をつなぎながら楽しそうにしている。そして、内務大臣の所に来るとカールはしばらく様子を見て質問を始める。

 しかし、内務大臣が仕事の邪魔だと怒り出してしまう。仕方なく、カールを部屋から連れ出す。カールはロックに言う。

 「内務大臣は貴族ですか。」「そうです。」

 「彼は貴族の案件を優先して、重要度の高い案件を後回しにしている。やめさせるべきです。」「人材が足りないんだ。」

 「早く人材を見つけるべきです。」「分かっているよ。」

次はカールの希望で法務大臣の所に行く。カールは机の上にある書類を読むと法務大臣に質問する。

 「兵の処罰はどうするおつもりですか。」「この件は当事者の兵が戦死している。不問にする予定だ。」「そうですか。」

カールの顔が険しくなる。ロックがカールに聞く。

 「どうしたんだ。」「あの事件の被害者を知っています。兵に殴られて寝たきりになって死んだのです。それを不問とは・・・」

 「分かった。兵は死んでいるが追放と言うことにしょう。」「法は貴族や兵に甘い。」

 「カール、君が変えればいいだろ。」「宰相になれと言うことですか。」

 「秘書に気に入った侍女をつけてもいいよ。」「そこまで言われては引き受けなくてはなりません。」

カールは宰相を引き受ける。彼は女に甘かった。


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