妹の方が大事な旦那様。なら妹と婚約すれば？？

第4話

フリーゲンのもとで不穏な動きが始まっていたその一方、自分の家族の元に戻っていたルミアはその事を人伝いに耳にした。

「え？？フリーゲン様のお屋敷が内戦状態になっている？？」

「らしいよ。ルミア、君があそこからいなくなってからというもの、その雰囲気はかなり悪いものになってしまっているらしい。ほら、伯爵様には3人の妹がいただろう？なんでも誰が一番伯爵から愛されているかどうかを、言い争っているらしいんだ」

「まぁ…」

ルミアはその話を、自分の実の父であるオクトから聞かされた。

というのも、フリーゲンの元を去ってからの彼女はそれまで通りの穏やかな生活を取り戻していたため、もはや彼女の中ではフリーゲンに対する心残りや悔いなどは完全になくなってしまっていたためだ。

「ルミア、君がいた時から彼女たちはそんな雰囲気だったのか？」

「どうでしょう…。少なくとも私がいた時は、私を目の敵にして3人は結束していたように見えましたので…」

「なるほど…。共通の敵ができたことで、束の間の休戦状態にあったというわけか…」

ルミアの感覚は実際に当たっており、彼女たち3人は自分の言うことを何でも聞いてくれる存在であるフリーゲン伯爵の事をルミアに奪われてしまうことを危惧し、一時的に結束を強める結果となった。

ルミアはそのためにフリーゲン伯爵から愛想を尽かされ、結果として屋敷から追い出されることになってしまったのだった。

「でも、もうどうでもいい気もしているのですが…。お父様、どうして今頃そんなお話を？」

「それが、だな……」

オクトはやや言葉を詰まらせるような雰囲気を見せつつ、どう説明するべきか頭を悩ませている様子…。

彼のそんな姿があまり覚えのないルミアは、どこか不思議そうな表情を浮かべながらオクトの姿を見守り、向こうの言葉を静かに待った。

「実は…。そのフリーゲン伯爵の方から連絡があったんだ。ルミア、もう一度自分と婚約を結んでくれるつもりはないか、と…」

「…はい？」

その言葉は、ルミアにとって全く予想外のものだった。

それもそのはず、あれほどに一方的で乱暴な婚約破棄を通告してきておいて、今になってそれをキャンセルしたいなどと言ってくるなんて、到底理解のできるものではないのだから。

「…お父様、それは本当の話なのですか？なにかの冗談だったら本気で怒りますよ？」

「冗談などではないさ！本当に言ってきたのだから！」

低い口調でそう警告を発するルミアの姿を受け、オクトはやや気が押されてしまう。

しかしそれは紛れもない事実であるため、彼は再び胸を張ってルミアに事態の説明にかかった。

「どうやら伯爵様、その妹たちとトラブルになっている様子で…。詳しくはわからないんだが、ルミアがいなくなったことをきっかけにしてこのような状況になったのだから、君にはこの責任を取る使命があるだろう、などと考えているようで…」

「……」

ルミアは小さくため息をついた後、呆れて物も言えないといった表情を浮かべる。

それほどに伯爵の言葉は受け入れがたいものであり、想像するにもできなかったものだった。

「…伯爵様はいったい何を考えておられるのでしょう…。そんな意味の分からない身勝手なことを言われて、私があなたのもとに戻るとでも？返事なんて聞かなくても決まっているではありませんか」

「そ、それじゃあルミア、それをそのまま伯爵様に伝えてほしいんだ」

「…はい？」

オクトの言っていることが良くわからないルミア。

そんなルミアに対し、オクトは再び言葉を出しにくそうな表情を浮かべつつ、こう言葉を発した。

「じ、実は…。伯爵様からは今度開催されるパーティーにルミアを招待するよう言われてしまってな…。今回の返事はその場で返すことになっているんだ…。だから、提案を受けるにしても断るにしてももう一度伯爵様のもとに行ってもらわないといけなくって…」

「はぁ…」

「す、すまんルミア！！最初はきちんと断ったんだが、向こうがしつこく誘ってくるものだからなかなか断りきれず…」

再び小さなため息をつき、厄介な仕事が増えてしまったことを嘆くルミア。

しかし、その表情にあったのはただ嫌な感情というだけではなく、少し前向きな思いもあるように感じられる。

「分かりましたお父様。…そもそも、お父様にこうやって迷惑をかけてしまうことになったのは私のせいなわけですし…。ただ、おかげでいいきっかけを得られたように思います。これでもう一度伯爵様と面を向って会えるわけですよね？今度こそきちんとお伝えして差し上げます。私はもうあなたのものではないので、今回のお話は低調にお断りさせていただきます、と」

「ルミア…」

「きっと向こうは、私がこの誘いを喜んで受けるとでも思っているのでしょうね。だからそんな自信満々な行動がとれるのでしょう。でも、そんなものはただの自意識過剰だということを教えて差し上げなければいけません」

ルミアの言っている通り、おそらくフリーゲンは自分の誘いが通るものとして話を進めていることだろう。

…それが全く受け入れられない者であることを悟った時、彼は果たしてどのような表情を浮かべてみせるのか…。