学年一の美少女ぼっちに偽彼氏に任命されたので、彼女のことを全力で幸せにしたいと思う

やこう

第1話 『学年一の美少女、川越さんからの告白』

 俺、塩谷琢磨しおやたくまは、平凡な高校2年生だ。


 派手なことは好きじゃないし、学校生活も目立たないようにひっそりと過ごしている。


 昼休みは友人と適当なおしゃべりを楽しみ、授業が終わればさっさと帰宅する。

 それくらい穏やかで変わりばえのない毎日が、俺には丁度いいと思っている。


 ──しかし、そんな俺の日常に、突然「嵐」が訪れたのは、秋のある昼休みのことだった。


 昼休み、いつものように友人の中村涼太なかむらりょうたと昼食をとりながら、他愛もない話をしていると、突然周りがざわつき始めた。

 なんだか人の視線を感じて、ふと顔を上げると——。


「塩谷くん、少しいいかな?」


 目の前には、クラスでも一番の美少女、川越瑠奈かわごえるなが立っていた。


 ──川越瑠奈。

 

 学年一の美少女で、いつも綺麗に整えたロングヘアに、抜群のスタイル。

 そして、成績もトップクラス。


 SNS上では多くのフォロワーに囲まれ、華やかなリア充ぶりをアピールする様子がたびたび話題になっている。

 だから、俺のような「普通の人間」とは無縁の存在だ。


 それなのに、そんな彼女が俺に話しかけてきた。


 どういうことだ?

 少し考えただけで脳内がパニックに陥る。訳が分からない。


「え、俺?」


 自分に用があるのかと聞き返すと、川越は小さくうなずき、表情を変えずに言葉を続ける。


「ちょっと廊下で話せないかな?」


 そう言って、俺を廊下に促す川越。

 俺は周りのざわめきを背にしながら、逃げるように彼女の後についていった。


 廊下に出ると、川越は一瞬だけ周りを見回し、しばらく沈黙した。

 なんだろう、もしかして用件を言うのをためらっているのか?


「……実は、塩谷くんにお願いがあるんだけど」


 そう切り出した彼女の表情は真剣そのもので、目をそらすこともできずに俺は頷いた。


 何だ、勉強でも教えて欲しいのか?それとも課題の手伝いか?いやでも彼女は成績トップクラスだが俺の成績はいたって普通。俺に声をかける意味がわからない。


 しかしそうこう考えていた次の瞬間、彼女は予想もつかない言葉を口にした。


「──私と、付き合ってくれないかな?」


 ……え?


 いやいやいやいや、そんなのあるわけないだろう?

 もしかして俺の聞き間違いじゃないか?


「え……えっと、付き合うって……俺と?」


 思わず聞き返すと、川越は頷いてみせる。本気なのか?それとも何かの冗談か?


 だが、俺が思い浮かべる限り、彼女が俺に冗談を言う理由なんて何一つない。


 そもそも俺と川越は、同じクラスではあるけど、ほぼ関わりがない存在だったのだから。


 確かに、川越瑠奈は学年で一番の美少女だ。


 SNSではリア充として有名で、華やかな写真を投稿するたびに「いいね」が数百単位でつく。


 それなのに、クラス内では基本一人で行動していて、休み時間にも誰かと話している様子はあまり見かけない。


 そんな孤独そうな一面が気になって、つい見てしまうこともあったけど——まさか、彼女が俺に告白してくるなんて。


「えっと……」


 頭が混乱して言葉に詰まっていると、川越がさらに一歩近づき、小さな声で言葉を続けた。


「もちろん、突然こんなこと言ってごめんね。でも、塩谷くんにお願いしたいことがあって……」


 お願い?なんだ、これはただのお願いってことなのか?


 しかし、彼女の真剣な眼差しに飲まれて、俺は結局その場でうなずいてしまった。


「……わ、分かった。じゃあ……いいのかな?」


 俺自身も何が「いい」のかよく分からないが、そう返事をすると、川越は満足そうに微笑みを浮かべた。


「ありがとう!じゃあ、今日からよろしくね!」


 そう笑顔で言い残し、川越は何事もなかったかのようにその場を立ち去っていった。


 俺は廊下に一人取り残され、目の前で繰り広げられた出来事が夢なのか現実なのか、もはや判別がつかない。


 ぼんやりと教室に戻ると、友人の涼太が俺をじろりと見てきた。


「おいおい、塩谷、お前と川越が付き合うってマジか?」


 その言葉を皮切りに、教室中がざわつき始めた。


 耳元でささやき声が聞こえ、みんなが何かしらの期待と好奇心に満ちた視線をこちらに向けている。


「うわ……これは、面倒なことになりそうだ」


 頭を抱えながら、俺はため息をついた。

 平穏な日々を愛していたはずが、まさかこんな形で乱されるとは——この先の展開を、俺はまったく予想していなかった。

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