第11話 皇后


――――翌朝。


「よくお似合いでいらっしゃいますよ」

「ありがとうございます、トゥーリンさま」

朝起きれば早速ルーが送ってくれた礼装が届いており、リーミアが張り切って着付けてくれた。トゥーリンさまの最終チェックもオッケーをもらった。明明ミンミンちゃんはリーミアと一緒にお留守番だが、謁見の間まではウーウェイとトゥーリンさまも一緒だ。謁見の間の中はウーウェイは入れないが、トゥーリンさまも招いてくれたのは、ルーの優しさだろうか。


「では行ってきます」

明明ミンミン、いいこにしていてね」


「うん!いってらっしゃい!マー、おねえちゃん!」

元気に見送ってくれる明明ミンミンちゃん、和むなぁ。それにあんなに笑顔を見せてくれるのも、トゥーリンさまは初めてではないかと喜んでいた。


本当に、順風満帆ね。


奥後宮からは本城と通じる通路を通る。皇后が皇帝陛下に謁見したり、皇后が必要な公務に出る時はここの通路を使うのだ。そして皇帝陛下

奥後宮と本城を行き来する際に使うのもこちら。ここの案内は後宮にも入れる宦官が務めてくれる。後宮からは締め出されても、本城の方では勤めを続けていたようである。今では再び入れるようになったから、ルーの身の回りの世話も担っている。


そうして謁見の間の前でウーウェイが見送ってくれる中、私はトゥーリンさまと謁見の間に足を踏み入れる。私の顔はベールで隠されているとは言え、セナと言う妃が皇帝陛下に輿入れの挨拶に来た……その事実が大切なのだ。


そして拱手を捧げれば、皇帝陛下が玉座につき『面を上げよ』と声がかかる。皇帝陛下の顔は面布で目元が見えないが、これは皇帝陛下の目を直視するのが不敬だと考えられているから。それはあくまでも形式的なことで、ルーとして後宮に来る時は普通……あれ、みんな頭を垂れていなかったかしらね?


それはともかく。面を上げれば、皇帝陛下の姿と、その左右に立つグイ兄さまと泰武官長。それからシュアン宰相や居並ぶ臣下たちが揃っている。


「よくぞ参られた、セナよ」

私には苗字がないので、セナだけだ。


「さて……それからもうひとりここに」

そうルーが告げる。うん……?もうひとり……?気が付けば兄さまの姿がない。気が付いた時には、不快な声が響いていた。

だが猿轡を嵌められしゃべることができない。その第2妃の縄を握るのはグイ兄さま 。変わり果てた姿の第2妃を、臣下たちの冷たい目が射貫く。もはや妃としての面影などない。


「聴衆は多く居た方がよい」

一体何をする気なの……?


「さて、話を戻そうか。セナよ」

「……はい!」


「そなたは我が皇后とする。与える部屋は皇后の間だ」

「へぁ!?」

いきなりすぎて間抜けな声が出てしまった。だが横から感じ取った兄さまの殺気に慌てて居ずまいをただす。


「それからトゥーリン、そなたを第2妃とする。第2妃の部屋は第4妃の部屋共に改修する。それまでは第3妃の部屋を使うように」

「はい」

トゥーリンさまも突然だったであろうに。自然な所作で皇帝陛下のお言葉を拝命できるのは……やはりすごい。


そしてちらりと横で何かが揺れたのを見れば、第2妃……いや元第2妃・ワン花姫ホアジーの口が自由になっていた。兄さま!?何を語らせる気よ!


「そんな……何でその女が皇后なの!?それに第2妃がその先帝の残り粕だなんて……!皇后は……皇后は私よね!?陛下ぁっ!」

「ほう……?皇帝の命に逆らうか」

ずしんと重みのある声が響き、ワン花姫ホアジーがビクンと震えて息を呑む。


「では……皇帝に逆らった謀反者への罰を」

つまりそれは処刑であるが、この場で兄さまが手を下さないと言うのならば晒し刑である。


「わ、私はワン家の……っ」

「安心せよ。そのワン家ごとだ」

ルーが……皇帝陛下が冷酷に嗤う。彼女の実家の後ろ楯など意味はない。


「皇太后陛下が……」

「それが何だ。血縁もない他人でしかない」

「て ……ですが先帝陛下の……っ」


「今は私が皇帝だ」

その前で先帝のことを持ち出すとは。よほど命が惜しいのか。そんなにも皇后になりたかったのか。しかしその口は再び塞がれ、屈強な武官たちが彼女を処刑台へと連行していくだけだ。


「さて、皇后よ」

「……はい」

ここでいいえだなんて言えるはずもない。


「私はお前を迎えられて嬉しく思う。皇后として、国のため、そして故郷のため……励むがよい」

「はい、皇帝陛下」

確かに皇后ならば……そうよね。国のためにも故郷のためにもできることはある……!けど……私は別に皇后になりたかったわけではないのに……何でこうなったのかしら……。それだけが、解せぬ。

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