夜明けと共に君を抱く

@minlee

第1話


人の動く気配を感じて目を開くも、窓から射し込む光が眩しくて窓に背を向けて暗闇に引き返す。



「起きちゃった?私、1限出なきゃいけないから先行くね。一応朝ごはん用意しといたから、適当に食べて。戸締りよろしく」



少し掠れた声と忙しない足音の後に、ドアの閉まる音が聞こえた。



他人の匂いのするベッドの中でもうひと眠りしようと布団を肩口まで引き上げた直後、鈍い振動音が響いた。



腕を伸ばして捜索するも指先に触れるものはなく、諦めて無視しようかと思ってもそいつは鳴り止んでくれない。



渋々起き上がって重い瞼を持ち上げると案外すぐ近くで震えているのを見つけ、ため息混じりに耳に当てた。



「何だよ」


『ヤス、今どこ?』

 

「瑠奈ん家」


『だと思った』



二度寝を妨害したのは小学校からの同級生で、学科は違えど同じ大学に進み、付き合いはもう9年目になる加地 剛だった。



「…用件は?」

 

『今日の2コマ目、代わりに出てくれないかと思って』


「無理。今日実験だから午前中は寝る。じゃあな」


『頼む!瑠奈の家なら学校まですぐだろ?』


「いや、同じ学科の奴に頼めよ」


『今度一杯奢るからさ。母さんが寝込んで大変なんだよ』


「……場所は?」


『後で送る。マジで助かる。ありがとな』



スマホをベッドに放り投げて、テーブルの上に用意された手作りのサンドイッチを手に取りキッチンに向かう。



コーヒーメーカーもしっかり仕事済みで、瑠奈が俺用にと買ってきたマグカップに注いでから胃に流し込んだ。




シャワーを浴びて再びベッドに沈み込むと、薄まっていた眠気はいとも簡単に蘇ってくる。


靄のかかった頭の中で、ふと今夜の予定を思い出し、思わず舌打ちをした。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る