『見て欲しい』

第11話 私の勇気を見て欲しい



 玲奈と夢のような時間を共有した次の日。


 学校の屋上では、二名の男子生徒と一名の女子生徒が会話をしていた。


『あの糞アマ。俺を平然と振っておいて二年に上がった瞬間、他の男とっ捕まえてイチャついてやがったわ』

『ちょっと可愛いからって調子乗ってる女でしょ』

「でも隼人は付き合ってないって言ってたぜ」

『俺がこの目で見たんだから間違いねぇだろうがよ』

『どんな男なんよソイツ』

『冴えねー野郎だよ。一年の時は俺にビビってた癖に、昨日生意気にも嘘付きやがったしな』

「……」


 屋上に居座る男子の一人は、前の席に座る本庄雅也ほんじょうまさやだ。


 そして苛立ちを募らせるもう一人の男子は、一年生の頃、玲奈に呆気なく振られた陽キャグループの二年E組所属、天道てんどう和貴かずたかである。


 先日の体育の授業後に絡んできた男で、公園で俺たちを目撃していた張本人だ。


 高校に入学してから他校も含めてあらゆる女と交際しながら豪遊し、飽きたら捨てる行為を繰り返す屑男である。


 玲奈に告白した時ですら既に恋仲の人間が存在しており、本気度が微塵も感じられない典型的なチャラ男なのだ。


 玲奈に男を見る目が備わっていたことに安堵すると同時に、適当な感情で弄ぼうとしたコイツを許すことは出来ない。


 ざまぁフラグ確定である。


 とは言え、この男を引き摺り下ろすのは容易ではない。


 見た目はトップクラスのイケメンで身長も百八十を超えていて高身長、おまけに実家は金持ちで羽振りも良いときた。


 所謂スクールカースト上位に位置付けられる王様気取りの人間だから対処しずらい。


 コイツとは以前プライベートで関わったこともあるのだが、内容は大体バイクの話か女の話しかしない。


 ギャル男ってよりはヤンキーに近い人物で、女性を女性として見ない粗暴な輩である。


 ちなみにこの場にいるもう一人の女子生徒は三年生の先輩、宮辺みやべ麻衣子まいこ


 取り巻きが大勢いるギャル系女子であり、天童と割り切った関係を続けているどうしようもない女だ。


 そんなイカれた二人が集う屋上で、怒った天童が更に話を進める。


『マジ腹立ってきた。宮辺、お前今日の放課後さらって屋上に連れてこい』

『アイツ友達多いから周りにバレんじゃね?』

『問題ねーよ。優しく声かけてさらってやりゃいいだろ』

『まっ、ウチもウゼーって思ってたし、面白そうだから乗ってやんよ』

「……」



 ◆◇◆



 そして放課後。


 俺は、雅也から情報を全て聞いた。


「玲奈が危ない……」

「わりぃ。俺も話そうか迷ってたんだ」

「いや、リスクが高いのに話してくれて助かる」

「俺にはこんくらいしか出来ないからな」


 イカれた二人の中に混じっていた雅也はどちらかというと陽キャ寄りの生徒なので、こういった連中と関わることが多い。


 雅也は迷いに迷った挙句、放課後になった段階で教えてくれたのだ。


 俺に情報を提供したことで雅也にも大きなリスクが生じている。


「俺に味方してくれてありがとう」

「アイツらとは縁切りしたかったから気にすんな。それより早いとこ行った方がいいぞ」


(待ってろよ、すぐに助けに行くから)


 玲奈は帰りのHR後に用事があるって言いながら、すぐに教室を出て行った。


 かなり神妙な面持ちだったから心配していた矢先にこれだ……正直言って、俺は天道以上に怒っている。


 猛ダッシュで学校の階段を駆け上がる。


 焦りすぎて凄い顔で走る自分を周りが心配そうに見つめているが、今の俺には気にする余裕がない。


 無事でいてほしいと願うあまり、通りすがる生徒とぶつかりそうになりながら走り続ける。


 屋上の入り口まで到着した俺は迷うことなくドアを開け放ち、大声で名前を呼んだ。



「————玲奈!!」



『おっと、王子様のご到着ってか』

『ホントにきたじゃん、マジうける』

「隼人……君……」


 玲奈は腕で強く押さえつけられて身動きが取れない状態でいた。


 その姿は本当に苦しそうで、今にも泣き出しそうな顔になっている。


 こんな表情の玲奈を見るのは初めてだし、見たくもなかった。


『ずっとお前が助けに来てくれる……とか抜かしやがるからよ』

「……」

『先につまみ食いしてやろうと思って、脱がせちまったよ。ギャハハハっ』

『あーあ、かわいそ、もう外歩けないんじゃね?』


 嫌がる女子を無理矢理襲って興奮する程、俺は落ちぶれちゃいない。


 コイツだけは何があっても絶対に許すことはないと断言できる。


 俺は沸き上がる怒りの感情と共に口を開く。


「玲奈を離せよ」

『は? お前誰に向かって口効いてると思ってんの』

「いいから離せ。これ以上玲奈を傷付けるな」


 天童が玲奈に顔を近付けて無理難題を押し付けた。


『まあ、離してやってもいいが……お前が今ここでしっかりと別れて俺の女になれば、だけどな』


 あまりにも身勝手極まりない言動に対し、怒りのボルテージが最高潮に高まっていた。


 現場は殺伐とした空気に包まれている。


 俺は天童に反論しながら、拳を握りしめて飛びかかる寸前だった。


「糞野郎が、そんな話聞けるわけ……」


 だが、玲奈は俺の行動を遮るかの様に……意を決して語りかけてきた。


「私の勇気を……見てて」

「玲奈……何を言って……」


 強く体を押さえつけられながらも、天童に対して言葉を返す玲奈。


「私は……あなたのような……野蛮な人と……付き合うつもりは……ありません」

『何だとこのアマ。もう一回言ってみろ』

『へぇー、この状況下で、確かに勇気あるじゃん』


 髪の毛を強く引っ張られるも、玲奈は諦めずに返答を続ける。


「うぅっ……私が……あなたの恋人になることは……絶対に……ない!!」


 よく言った。


「玲奈の勇気、ちゃんと見届けさせて貰ったぜ」



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