同じ寂しい

えるの気配がする。えるの声がする。

だけどまだ目は閉じたままにしておこう。目を開けるのはえるが来てからがいいから。

あぁ……えるの気配が近づいてくる。えるの足音、どんどん近くに。小さくドアをノックする音がして数秒後扉が開く音がした。えるが入ってきた知らせだ。

「さとみくん…?」

オレの近くへ来たえるが小さく呼びかける。きっとまだ寝てると思ってるだろうけど、もう我慢できない。

「……える。会いたかった」

ゆっくりと目を開けるとオレの視界はえるの顔で埋まっていた。あ…こんな幸せあっていいんだ。熱を出すってやっぱりいいことだ。

「! さとみくん…!ごめんね、起こしちゃった?」

「ちょっと前に起きたから平気」

「そう…良かった……。…具合はどう?熱はまだある?」

「んー…もう平気」

だって、えるに会えたから。

「そっか……それなら良かった」

ずっと心配を浮かべていた顔は安心の微笑みに変わっていった。けれど、その表情はすぐに違うものになり

「あっ、あのねさとみくん。…今日何回かメッセージ送っちゃったんだけど……迷惑だったりしちゃったかなって思ってて…。その…送ってから気づいたんだけど……起こしちゃったりしてたらどうしようって……」

思ってもみなかったことを言われた。そんなこと考えたことも感じたことも無い。えるから与えられる全てはオレにとっての幸福……だけど、そんなにえるがオレのこと考えて、思ってくれたのは嬉しい。えるにとって特別な存在になった感覚に浸っていられるから。思わず上がりそうになった口角を抑え

「…平気。迷惑とか思わない。…ありがとう。気にしてくれて」

「…! よかった……」

「……それ、なに」

少しだけ視界に入った袋が気になった。えるが持ってきたやつだと思うけどなんだろ。

「あ、これはね色々買ってきたの。プリンとかゼリーとか軽く食べられるものをって思ったんだけど…何か食べる?」

「んー……ゼリー食べる」

「ゼリーね。味はどうする?桃とかみかんとか色々あるよ」

袋から何個かのゼリーを取りだしたえるがにっこりと笑う。目を開けた時に見たかった顔、ようやく見ることができた。本当はもっと笑顔がいいけど。

「みかん」

オレが答えてすぐゼリーとスプーンを手渡してくれた。その後少し申し訳なさそうな顔をしたえるが

「実はね……沢山買ってきちゃったから何個かは冷蔵庫に入れてもらってて……今じゃなくていいから、気が向いた時にでも食べてみてほしいなって…」

「…うん。全部食べる」

えるがオレのために買ってきてくれたものだから。誰にもあげない。オレだけが食べていいもの。

「! ありがとう…!」

「……ゼリー、食べさせて」

「えっ…あ、うん…! はい、あーん」

「ん……。おいしい」

「ふふっ、よかった」

嬉しそうに笑ったえると他愛のない会話をしながらゼリーを食べて時間いっぱい二人きりを過ごした。だけど、楽しい時間ほど早く終わるもの。

「私、そろそろ帰らなきゃ…。……明日も会えるよね…?」

「………─────!」

驚いて固まって言葉が出なくなった。

えるの顔に浮かび上がった不安や心配が、普段見てるものとも目を開けた時とも違っていたから。感じ取ったその感情をオレは知っている。えるに会えない時、オレが常に思ってる感情だから。そっか……好きは同じじゃなくても、寂しいは同じなんだきっと。そう思ったらオレの中にあった寂しいが少しだけ和らいだ気がして、それと同時にこの姿をこの目に焼き付けておきたいと思った。どんな笑顔よりも貴重で、未来でオレがどんなことをしたらまた見られるのか分からなかったから。

大丈夫だよえる。

「また、明日」

会えるから。

「うん…!また明日ね。さとみくん…!」

オレの言葉を聞いて安心したえるから不安の色が完全に消える。そしてオレが一番大好きなえるの笑顔を見せてくれた。その笑顔がまたオレを幸せにする。今日はこのまま眠りにつこう。そしたら早く明日が来るから。そう思って目を閉じる。すると、あの笑顔が浮かんできた。そうなるとまた幸せな気分になって上手く眠れない。このままだと眠れそうになくて別のことを考えた。夢の中でえるに会うことを。

……夢で会ったら思いっきり抱きしめていいはず。本当は来てくれた時にしたかったけど、えるに悪いものが移ったら嫌だったから頑張って我慢した。でも、夢なら…どんなことしたって……。頭の中で想像する。えるを抱きしめる想像を。沢山抱きしめた後に少しだけ離れると想像の中のえるが寂しそうな顔をした。早く寝たいのに……そう思えば思うほどさっきのえるが忘れられなかった。笑顔のえるも大好きだけど、あんな風にえるがオレを求めてたのはあんまりないから。帰る時間になって寂しそうな顔をしてたのも、オレが明日って言って安心してたのも、全部新鮮で……あ、このままずっと考えてたら眠れそうにない。首を横に振って思考を止める。……早く寝ないと。一度深呼吸をして、もう一度目を閉じる。明日はオレがえるを迎えにいくんだ。えるが待ってるから。

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